迷子

「みんないなくなっちゃった」

 昼食後しばらくして寿江が言った。おおかた昔の実家の光景……両親も兄も姉も弟たちもいて賑やかだった頃を思い出したのだろう、と誠司はうけとめる。

「悪いけど、私もうちへ帰るね」

 寿江は言い置いて家を出て、かよいなれた商店街へ行く。弁当を買い求めてかよいなれた道をたどって誠司が待つ家へともどる。

「みんなは?」

 誠司としては寿江が提げた弁当の多さが気にかかる。

「ここ……うちよね」

 いぶかる寿江とふたりで玄関を出て門を出て、五十年暮らした我が家をふりかえる。

うちだねえ」

「そうだな」

「変なところに来ちゃったねえ」

「ああ……来ちゃったな」

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