第43話 愛する女を命がけで守る男、それが俺!(その2)
森を抜けて古城下の石だらけのガレ場に来た時。
俺は立ち止まざるを得なかった。
そこには数百ものリザードマン、オーク、ゴブリン、何か解らないような妖魔が揃っていたのだ。
そして古城のテラスには、あの顔色の悪い男がいた。
「やはり来たんだね。こんなに早く追い着いて来るとは思わなかった。さすがはブレイブ、いやタダオ・ナミノと言った方がいいのかな?」
俺は愛刀『破神魔』を腰から引き抜いた。
今は背中には『封印の大剣』を背負っているためだ。
そして残念ながら、今の俺にはこの大剣を使いこなせる力量がない。
「やはり貴様だったのか?レーコをどこにやった!レーコを返せ!」
「慌てなくても彼女はここにいるよ。聖魔王様に献上する大切な方だからね」
そう言って背後の大理石の玉座を指差した。
そこには紫に怪しく光る鎖で縛られ、眠り続けるレーコがいた。
「レーコに何かしたのか!」
怒りに滾る俺を見て、男は呆れるように言った。
「そんな訳ないだろう。さっきも言った通り、彼女は聖魔王様のものだ。丁重に扱うよ。それに彼女は『伝説の魔女』なんだよ。何かなんて出来る訳ないじゃないか。だから危険回避のために眠ってもらっているだけさ。幸運にも今の彼女は魔力を封じられているようだからね」
「貴様は聖魔王の手下なんだな?」
「そうだ。聖魔王様の八大幹部で五行の魔将軍の一人、キリエフ・ドラソン魔侯爵だ。もし君がここまで来れたら相手をしてあげよう」
それが合図であったかのように、一斉に敵が襲ってきた。
俺は刀の一振りで最前列の敵・十数名を切る。
だが敵の数は多い。
仲間が切られたのを物ともせずに俺に迫る。
俺はポーチから全てのパッケージ・カードを掴み出した。
このカードには今までに俺が捕獲した数々の妖魔やモンスターが封印されている。
「全員、出て来い!」
俺はカードをばら撒いた。
数十枚のカードが光り輝くと、そこから数々のモンスターが現れる。
美女の上半身と鷲の翼と下半身を持つハルピュイア、美女の上半身と水鳥の下半身を持つセイレーン、緑色の神と茶色の肌を持つ樹木の精霊ドライアド、上半身は美女だが、下半身は翼のある蛇であるエキドナ、牛の頭を持つ着物姿の牛女、下半身が巨大な蜘蛛である蜘蛛女、人とスズメバチが融合した蜂女などなど。
全て俺に忠誠を誓う女性型モンスターだ。
彼女たちはそのまま敵モンスターに跳びかかると、貫き、引き裂き、噛みちぎり、魔法によって動けなくしたり、毒を注入したりと、ありとあらゆる方法で倒して行った。
数はこちらの方が少ないが、全体としてはいい勝負だろう。
俺は自分の進路の邪魔になる敵兵だけを倒していけば良かった。
右手に刀を、左手にはハンスから貰った左右二連銃を構える。
俺の刀が一振りされる毎にバタバタと敵兵は切り倒され、左手の銃が火を噴けば敵はなぎ倒される。
古城の出入り口にたどり着く。
頑丈な扉だが刀を一閃。
扉は真っ二つになって倒れた。
石造りの回廊を走る。
現れる敵の弓を、槍を、剣を、斧をかわし、片っ端から切り捨てていく。
曲がり角などで集団で待ち伏せているヤツらには、散弾銃をお見舞いだ。
階段を一気に駆け上がる。
上には光射す出口が見える。
あそこを出ればレーコがいるテラスに出られるはずだ。
俺は一気にテラスから飛び出した。
目の前には五匹のサラマンダーが見える。
瞬時に判断した俺は高く跳躍する。
その俺がいた場所に、五匹のサラマンダーが一斉に火炎を放った。
間一髪で火炎放射をかわしたのだ。
俺は空中で左手の篭手をサラマンダー達に向けた。
篭手にマナを込め、後方の突起を引っ張る。
「バシュン」という破裂音と共に、篭手から五つの火矢が発射された。
火矢は空中で方向を変えると、それぞれ過たずにサラマンダーの頭部の命中する。
サラマンダーの頭部が爆発した。
頭を失ったサラマンダーはその場に崩れ落ちる。
俺だけの力で使える武器の一つ『爆砕矢』だ。
矢は魔石と火薬で発射される。
俺は発射前に目標を魔法でインプットするだけだ。
着地した俺はドラソンを睨んだ。
「雑魚どもをいくらけしかけても、俺には通用しないぞ」
「なるほど。魔女の魔力がなくても、勇者は勇者と言うことか?」
ドラソンは腰から剣を抜いた。
俺は斜め上のに刀を構えた「トンボの構え」で、猛然とダッシュした。
「イヤァッ!」
裂ぱくの気合と共に、斜めに刀を振り下ろす。
袈裟切りだ。
ドラソンはとっさに剣を横にして刀を受ける。
その衝撃でドラソンの足元の石が五センチほど窪む。
ドラソンが驚きの表情で呟いた。
「驚いたな。このほどの力と衝撃力とは」
だが同時に俺の方も驚いていた。
俺の『一の太刀』を真正面から受け止めるとは!
下からのドラソンの押し返す力が強くなる。
かなりの怪力だ。
するとドラソンは俺の手首を掴んだ。
あっと思った瞬間、俺は背後に投げ飛ばされていた。
かなりの勢いだが、俺は空中で猫のように回転すると、城の外壁に両足をついてショックを和らげ、そのまま何事もないように着地した。
ドラソン、やはりかなりの怪力だ。
単純な力だけなら俺より上だろう。
俺は再びダッシュしてドラソンに迫る。
周囲の人間には一陣の風にしか見えないだろう。
「リャッ!」
短い気合と共に、一瞬にして三八で二十四連発の攻撃を加える。
そのスピードにはドラソンは対応できないらしく、六発ほど打撃を受けた。
だがドラソンの鎧はかなり強固なものだった。
俺の連撃を全て弾き返す。
距離を取った俺に、ドラソンが不敵に笑う。
「私のこの鎧は、地上最強の硬度を誇るアダマン鋼で出来ている。物理攻撃ではまず壊れる事はない」
アダマン鋼の鎧だと?
俺は内心で舌を巻いていた。
アダマン鋼は確かに地上最強の硬度を誇る金属だ。
その強度はドラゴンの身体を上回ると言う。
だが反面、かなり高価な金属であり、その上かなり重い。
俺も篭手やチェストガードなどの一部でアダマン鋼を使った防具を使用しているが、全てアダマン鋼で出来た鎧など聞いた事がない。
……コイツ、何者だ?……
俺の頭の中でそんな疑問が浮かび上がる。
少なくともタダの人間ではないはずだ。
その後も何度となく、俺とドラソンは打ち合った。
力ではドラソンが勝るが、スピードと剣技では絶対に俺の方が上だ。
だがドラソンの膂力とアダマン鋼の鎧によって、俺の刀はヤツにダメージを与えられていない。
「どうした、ブレイブ?もう打つ手はなしか?」
ヤツはドス黒い顔で皮肉っぽく笑った。
ヤツの鎧を切るにはアレしかない!
俺は深呼吸をする。
全てのマナを臍の下・丹田の部分に集め、それを刀に流しこむ。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」
目を閉じ、小さく呪文を唱えて意識を集中する。
再び目を開く。
自分の存在を無と化し、全てのモノを『あるがままの存在』として見る。
ドラソンが剣を振りかざして迫る。
だがこのタイミングではない。
俺は彼の剣を紙一重でかわした。
向きを変えて先ほどと同じように彼に対峙する。
ふたたびドラソンが攻撃を仕掛けてくる。
だがこのタイミングも違う。
俺は同様に避けた。
今の俺はドラソンだけを見ているのではない。
周囲全てのモノを『存在』として見ている。
三度、ドラソンが打ちかかってくる。
今度はドラソンも剣を大きく振りかざし、渾身の力を込めて切りかかってきた。
ここだ!
俺も全身の力を込めてダッシュした。
刀は振りかぶるほどの上段の構え。
ドラソンの動きがスローモーションのように感じる。
そして……ヤツの額に一筋の白い線が見えた。
俺はその線を目掛けて懇親の力で刀を振り下ろす。
同時にドラソンの剣も、俺の脳天を目指して振り下ろされていた。
俺の刀とドラソンの剣が交差する。
そして……鈍い感触と共に、ドラソンの剣を切る!
そのまま刀はドラソンの兜に吸い込まれて……
「ぐぎゃああああ!」
ガコン、という重い音が響き、ドラソンの兜が真っ二つになって地に落ちた。
ドラソンは額を押えて仰け反っている。
周囲には鮮血が飛び散っていた。
>この続きは明日7:18に投稿予定です。
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