第42話 愛する女を命がけで守る男、それが俺!(その1)

 俺は愛刀『破神魔はじんま』と『封印の大剣』を持ってハンスのいる古道具屋に向かった。

 俺の顔を見るなりハンスが言った。


「タダオ、大丈夫だったのか?さっきオマエの家が襲撃されたと聞いて心配していたんだ」


「俺は無事だ。だがレーコが連れ去られた」


「彼女が?そんなバカな!」


 ハンスもレーコが『伝説の魔女、グレート・ウィッチ』である事を知っている。


「本当だ。レーコには『封印の首飾り』を付けさせていたからな」


「それはマズイ。もし彼女が聖魔王の手に落ちたら」


「だから今から彼女を取り戻しに行く!」


 俺はその時は既に『ザ・ブレイブ』の装備を身につけていた。


「相手はわかっているのか?」


「恐らくノーラで出会った顔色の悪い男だ。南の方に飛んで言ったらしい」


「それだけの情報で、行き先を突き止められるのか?シータ達にも協力を頼んだ方がいいんじゃないか?」


「いや、これは俺とレーコの問題だ。彼女たちの命を危険に晒したくない」


「だけどどうやって?」


「この大剣は600年間、レーコの胸に刺さっていたんだ。これが手掛かりになるはずだ」


 その時、外から「ピイィーーーッツ!」という高く鋭い鳴き声が聞えた。


「来たようだ」


 俺はそう告げると外に飛び出した。

 上空を一羽の鷲が円を描いて飛んでいる。

 いや、そいつは鷲ではない。

 上半身が鷲、下半身がライオンというモンスター、グリフォンだ。


 グリフォンは俺の目の前に降りてきた。

 その鋭い目が俺を見ている。

 店の中からハンスが震え声を出した。


「おい、ブレイブ。大丈夫なのか?オマエはソイツに一度も乗った事がないんだろう?食われるんじゃねぇか?」


 確かに俺はグリフォンに乗った事は一度もない。

 このグリフォンはレーコのペットであり、愛馬でもある。(馬ではないが)

 名前はタロア。

 レーコが雛の時から飼っていて、彼女にしか懐かない。

 だが今の俺にはコイツに頼るしかない。

 俺はグルフォンに近寄り、その太い首に手を当てた。


「タロア、レーコが攫われた。相手は聖魔王の手下らしい。オマエにとっては世界が今のままだろうが闇になろうが、どっちでも構わない事だろう。だけどレーコがピンチなんだ。助けてくれるな?」


 グリフォンはしばらく俺を見つめていたが、やがて身体を地につけると「乗れ」と言うように背中の方をしゃくった。


「ありがとう。これがレーコを封印していた大剣だ。この匂いを追ってくれ!」


 グリフォンはしばらく剣を嗅ぐと「ピィッ」と鋭い声で鳴く。

 俺はその間にグリフォンに手綱と鞍を取り付けた。

 そしていつもの装備にプラス『封印の大剣』を背負うとグリフォンに跨る。


「おい、待て。せめてこれを持っていけ!」


 ハンスがおっかなびっくりの姿勢で、短剣ほどの長さのモノを持って来た。


「なんだ、これは?」


 俺は受け取ると包みを開いた。

 出てきたのは猟師や農民が鳥を取る時に使う散弾銃だ。

 長さ三十センチほどの銃身が左右に並んでる。


「コイツは俺が造った散弾銃だ。銃口から火薬と鉛弾を込めるんじゃなく、銃身を折る事で根本からこの弾丸と火薬をセットにした弾を込めるんだ。弾には衝撃で爆発する魔石を使っているから、火縄はいらないし雨でも使える」


 俺は留め金を外して銃身を開いてみた。

 なるほど、銃身の後ろから弾が装填できるようになっている。

 これなら弾さえあれば次々に発射できる。


「それから弾の方はコイツだ。弾丸に『軍団ムカデの魔石』『氷カブトの魔石』『硫酸アリの魔石』を使っている。魔法に制限があるなら、コイツが役に立つはずだ」


 そう言ってそれぞれ四発ずつ、計十二発の弾が入ったベルトを渡してくれる。


「助かる。恩に着るよ」


 そう言って装弾ベルトを腰に巻き、ホルスターに左右二連銃を治めた。

 そうしてグリフォンの手綱を引いた。


「タロア、頼む!」


「ピイイィィィ!」


 鋭い鳴き声と共に、タロアが上半身を跳ね上げる。

 そのまま巨大な翼を広げると、数度羽ばたかせ、一気に空に舞い上がった。


「気をつけろよぉ!」


 ハンスが下から大声で叫ぶのが聞えた。



 グリフォンの翼は強い。

 あっと言う間にノーラ海岸近くまでやって来た。


「タロア、レーコがどこに居るか解るか?」


 するとタロアは、幾つかの峰が鋭くそびえ立っている山に向かった。

 地元の人間がノコギリ山と呼んでいる山だ。

 鋭く切り立っているだけでなく、麓から中腹までが濃い密林に覆われており、多くのモンスターが住処としている。

 もちろん人々は近づかない。

 その無人のはずの山頂近くに、石造りの古城が見えた。


「タロア、直接攻撃はマズイ。まずは近くの城から見えない所に降ろしてくれ」


 タロアは言われた通りに、俺を古城から死角になる森の中に着陸した。


「ありがとう。タロアはここで隠れていてくれ。いざとなったらレーコだけでも助けて逃げてくれ。最後はおまえが頼みだ」


 俺はタロアの太い首を撫でながら話しかけた。

 俺をあまり好いていないグリフォンだが、静かに俺を見つめて話を聴いている。


 さあ、ここからは自分の力だけが頼りだ。

 今の俺には『ザ・ブレイブ』としての力はない。

 だがレーコを思う気持ちに変わりはない。

 今の俺は、レーコのためだけの勇者だ。


 密林の中を進む。

 途中で植物型モンスターや虫型モンスターが現れたが、それらとの戦闘はやむを得ない場合以外は極力避けた。

 知性がないモンスターは放っておいても問題ないし、それよりも戦闘で敵に気付かれる方が厄介だ。


 だが城まで半分ほどの距離に来た所で、オークの傭兵団と遭遇してしまった。

 敵の数は二十人ほど。

 ここは戦うしかない。

 剣や斧を振りかざしてくるオーク共を、俺は瞬時に切り倒した。

 この程度の相手なら、俺の技量だけで問題なく倒せる。


 ただ心配なのは、オーク達が大声を上げて襲ってきた事だ。

 城の連中に気付かれていないだろうか?


 森を抜けて古城下の石だらけのガレ場に来た時。

 俺は立ち止まざるを得なかった。



>この続きは明日7:18に投稿予定です。

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