第41話 平凡な図書館司書として周囲を欺く男、それが俺!(後編)

 ふと気が着くと、机の上のコップが小さく揺れている。

 気のせいかとも思ったが揺れは大きくなり、図書館全体が大きく揺れ始めた。

 書棚から何冊かの本が落ちる。


 「地震か?」と思ったが、揺れはすぐに収まった。

 気付いてから15秒ほどだろうか?

 俺はカウンターを出ると、落ちた本を拾って書棚に戻した。


 カウンターに戻ろうとすると、外の通りが騒がしい。

 俺は気になって外に出てみた。

 通りにいる人は騒然として、西の方角を見ている。


「カウズ地区で爆発があったぞ!」


 誰かがそう叫んでいるのが聞える。

 俺は思わずカウズ地区のある西の方を見た。

 すると薄っすらと一つの煙が立ち上るのが見えた。

 いや、あれは煙のように見えるが竜巻か?


 そして……それは俺の家の方だ。

 何か嫌な胸騒ぎがする。

 俺は家の向かって走り始めていた。



 家の前まで来て……俺は呆然としていた。

 家はまるで爆発でもあったかのように半壊していたのだ。

 土台まで抉れていて、ちょっとしたクレーターのようだ。


 俺の家には小さな城が買えるくらいの金がつぎ込まれている。

 家の素材も頑丈なもので、構造も普通の爆弾程度ならビクともしないように設計されている。

 強力な魔法防御と結界も張り巡らされているため、魔法攻撃にも物理攻撃にも耐えられる。

 地方領主の私設兵団程度なら、十分に持ちこたえられるレベルなのだ。


 ……それがこんな風に破壊されるなんて……


 だが家が破壊された事に驚いている場合ではない。


「レーコ!レーコ!どこに居るんだ?」


 俺は叫んだ。

 レーコは無事でいるはずだ。

 何しろ彼女は『伝説の魔女、グレート・ウィッチ』なのだ。

 六百年前、勇者シンでさえ彼女を殺す事が出来ないから、石像の中に封印したのだ。


 ……レーコが死ぬはずがない。その辺に避難しているはずだ……


 だが家の周囲にレーコの姿は無かった。

 念のため家の破壊された跡も調べてみるが、彼女の姿はない。

 見つかったのは俺の愛刀『破神魔』と、レーコを封印していた大剣だけだ。


 その時、俺は思い出した。

 レーコには『封印の首飾り』を付けさせていたのだ。

 今のレーコは魔法を使えない。

 全ての魔力が封じられている。


 まさか……

 俺の中で急激に不安が沸き起こる。


「おお、タダオさん!」


 声を掛けられて俺は振り返った。

 近所に住む老人だ。


「奥さんのレーコさんの事だけど……」


「レーコが、レーコがどうしたんですか!」


 俺は思わず、老人の肩を強く掴んで揺さぶった。


「ちょ、待て、待ってくれ。そんなにしなくても話すから」


 老人は少しむせながら、話を続けた。


「レーコさんが攫われたんじゃ。相手はおそらく魔法使い。背の高い全員黒い服で黒いマントを羽織っていた。男は意識を失ったレーコをさんを抱えて、南の方角に飛んで行ったんじゃ」


 ……あの男だ!旅先のノーラで出会った、背の高い顔色の悪い男!……


 俺は瞬間的にそう思った。

 俺はすぐに走り出した。


 どこへ?

 そう、ハンスの古道具屋に向かって。


 ……こういう事態も想定すべきだった。敵が直接レーコを狙うことも!レーコの魔力を封印すべきではなかった……


 俺は唇を噛み締める。

 思わず血が流れた。

 だがこのまま黙って指を咥えて待っている訳にはいかない。


 ……レーコ、絶対に取り戻す。待っていてくれ!……



>この続きは明日7:18に投稿予定です。

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