第30話 「褐色の疾風」と呼ばれた女盗賊が子を生みたい男、それが俺!(その5)
「アイツ?アイツって誰だ?」
「『ブレイブ』と呼ばれているナーリタニアの冒険者だ。まだガキのクセに滅茶苦茶に強えぇ。もう仲間は半分に減っている。ゴラスも殺られた以上、ナーチャ、もう相手になるのはオマエしかいねぇ!」
「こんな目に合わされたオレが、なんでオマエらのために戦わなくちゃならないんだ?自業自得だろうが」
「殺されているのは、昨日までオマエの部下だった連中だぞ!」
オレは横を向いた。
コイツラがどうなろうと知った事か!
しかしネズミは殺し文句を口にした。
「外にはまだオマエを慕っている連中だっている。ソイツラも皆殺しにされるんだ。それだけじゃない。オマエが戦わなければ、俺が人質の女達を殺す!」
オレは驚いてネズミの顔を見た。
ヤツの陰湿そうな目が光っている。
「汚いぞ!ネズミ!」
「何とでも言え!それよりヤツと戦うのか、戦わないのか?」
オレは少しの間、沈黙した。
「わかった、オレが出る」
「よし。だが忘れるな、オマエが戦わなかったり負けたりした場合は、人質の女は全員殺すからな」
ネズミはオレの首に、持っていた注射器を打ち込んだ。
見る見る内に、身体の奥にこもっていた熱が消えていく。
オレを縛った鎖を解きながらネズミが言った。
「俺をここで殺してもムダだぞ。オレの仲間が人質を殺すからな」
「解っている。オマエがそういう点で抜け目がない事はな」
オレは縛られた手首を揉みほぐしながら答えた。
外に出ると手下は既に三分の一に減っていた。
「弓を貸せ」
オレは近くにいた元・手下から弓を奪い取ると、それを引き絞って襲撃者に狙いをつけた。
……ヤツはコッチに気付いていない。この一矢で楽勝だ……
オレは弓を放った。だが……
「当る!」と思った矢を、ヤツは刀で弾き飛ばしたのだ。
……まさか、アイツはコッチに気付いていたとでも?……
オレは一気に五本の矢を連射した。
オレの必殺技だ。
まるで五本の矢が同時に発射されたかのような早さだ。
今までこの五連射はかわされた事がない。
だがヤツは信じられない早さで刀を振るい、その全てを叩き落とした。
……ブレイブ、なんて奴だ……
オレはヤツに向かってダッシュしながら、次々と矢を放った。
その全てを、ヤツは苦もなく払いのける。
しかしオレもそれでヤツを倒せるとは思っていない。
これはオレに注意を引き付けるためだ。
オレは途中で拾った二本の剣を両手に持ち、旋風のようにヤツに襲い掛かった。
オレのスピードは人間の目では追いきれない。
ヤツは瞬時に切り刻まれるハズだ。
だが、ヤツは、ブレイブは、オレの猛打を全て受けきったのだ。
パワーもスピードも、人間の数倍上回るオレの剣を!
オレはいったん距離を取った。
こんなに強い奴に出会ったのは、生まれて初めてだ。
俺の中に強い期待と興奮が沸き起こってくる。
さっきまでとは違う、戦いのアドレナリンだ。
だがヤツの方は冷めた目でオレを見ていた。
「オマエがこの盗賊団の女団長か?」
「そうだ」
「一般人は襲わない、人質は取らないと聞いていたんだがな」
オレの顔が屈辱に歪む。
「言うな!」
オレは再びヤツに切りかかった。
それをヤツは当然のように受け止める。
ブレイブの強さは底が知れなかった。
……見た感じは、まだ少年なのに……
何回か打ち合い、再び離れた時、オレは聞いた。
「オマエ、流石だな。『ブレイブ』と名乗るだけの事はある」
「別に俺がそう名乗っている訳じゃない。勝手に街の連中がそう呼んでいるんだ」
「スカしやがって!」
口ではそう言いながらも、オレは目の前の少年に気持ちが惹かれて行くのを感じた。
「なんで突然、趣旨換えをしたんだ?」
急に話題が変わったので、何を聞かれているのか解らなかった。
「『ロックキャット盗賊団』は、今まで奴隷なんて取らなかっただろう。それがなぜ今回に限って乗客を、しかも若い女だけを奴隷にしようとしたんだ?」
オレは無意識の内に視線を外してしまった。
この少年にそんな風に見られたくなかったのだ。
戦いの最中に、敵から目を反らすなんて、こんな事は一度もなかったのだが。
「知らないよ」
どう答えていいのか解らなかったオレは、とりあえずそう口にした。
すると少年は底冷えがするような声で告げた。
「そうか。じゃあ死んでもらうしかないな。俺は人を奴隷にするような奴が許せないんだ」
>この続きは明日7:18に投稿予定です。
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