第29話 「褐色の疾風」と呼ばれた女盗賊が子を生みたい男、それが俺!(その4)
気がついた時には、オレはアジトの洞窟の中にいた。
手足は頑丈な鎖で縛られ、壁に繋がれている。
何だか身体が熱っぽく、暑苦しい気がした。
最初にやって来たのはゴラスだった。
「ナーチャ、やっと気がついたようだな。さっき飲ませた気付け薬が効いたか」
「ゴラス、貴様……こんな事をしてタダで済むと思うなよ!」
オレはヤツを睨みつけた。
「おっとぉ恐ぇ恐ぇ。もうキスも出来ないな」
「どういう意味だ?」
「気を失っているオマエにどうやって薬を飲ませたと思う?俺様が口移しで飲ませてやったんだよ」
屈辱で全身が熱くなるのを感じる。
こんな下劣なヤツに唇を奪われるなんて。
「もう一つの薬は効いたかな?」
ヤツはそう言うと手を伸ばして、オレの胸を触り始めた。
「テメェ!触るな!」
「どうやらまだ効き目は十分じゃないようだな」
「なんだと?飲ませたのは気付け薬だけじゃないのか?」
「ご名答。と言うより飲ませた気付け薬は『マタービの実』で出来た催淫剤なのさ。これをネコ系の獣人に飲ませると、一気に発情するって代物だぜ」
オレは下唇を噛んだ。
さっきから身体熱い気がするのは、その所為だったのか。
「ま、また後で来てやるよ、その時にはきっとオマエの方から『抱いて、抱いて』って迫ってくると思うぜ」
「誰がそんな事!」
オレはそう叫んだが、ゴラスは笑いながら洞窟を出て行った。
それから一時間後。
オレは全身が火照る異様な高ぶりと戦っていた。
身体が熱い。
そしてオレの意思とは関係なく、身体が何かを求めている。
「だいぶ辛そうっすね」
野卑な声が聞える。
顔を上げるとネズミのヤツがいた。
「貴様……」
荒い息の下、俺が辛うじてそう言うとネズミは驚いた顔をした。
「まだそんな口が聞けるんですか?ネコ系獣人には耐えられない欲求のはずなんですがね。前にこの薬を使ったネコ女は、三十分もしない内にヘロヘロでしたよ」
「……黙れ……」
だがネズミはオレの言葉を無視し、オレの近くに寄ってきた。
「なぁナーチャ。アンタにももうこれ以上、どうする事も出来ないって解るだろ?このままだとアンタは砂漠に置き去りにされるか、ヘタをしたら殺されるかもしれないんだぜ」
ネズミはオレの肩に手をかける。
「アンタは綺麗に生きようとし過ぎたんだよ。盗賊のクセにな。一般人に被害は与えない、金にならない奴隷商人の襲撃、リスクが高い役人への攻撃。その上、人質も取らない。こんな砂漠で暮らして女も捕まえて来れないんじゃ、不満が溜まって当然なんだよ。俺達は修行僧じゃないんだからな。みんなアンタには不満と恨みで一杯なのさ」
そうしてネズミはオレの背後に回った。
「そこで相談だ。ナーチャ、俺の女にならないか?俺と組めば盗賊団の副団長にしてやる。どうだ、悪い話じゃないだろ?」
そう言いながら、ネズミは背後から俺の胸に両手を回してきた。
ゆっくりと撫で回す。
熱く火照った身体がピクン、と反応してしまった。
「止めろ!気持ち悪い!」
俺は朦朧としそうな意識をかき集め、抵抗の言葉を口にした。
「さすがに強情だな、でもいつまで耐えられるかな?」
「こんな事をして……アッ……ゴラスのヤツと……トラブルに……んっ……なるんじゃないのか?」
ゴラスの荒々しい触り方と違って、ネズミの手は焦らすようにネチッこい。
身体の快楽を求める本能が、頭の嫌悪感を打ち消すように襲ってくる。
「心配するな。ゴラスはいま、アンタを巡って挑戦者と戦っているよ。だがヤツを消す手立ては整っている」
「オマエラみたいな……卑劣なヤツらは……どっちもゴメン……だ」
ネズミが蒸れるような息をオレに吹きかけながら言う。
「じゃあこのまま強引にヤッちまうか?ネコがネズミに犯されるってのも、中々面白い趣向だろ?」
ヤツの片方の手が、胸から腹、そして股間に向かって降りていこうとする。
……クソっ、こんな奴の思い通りになんて……
その時、洞窟に突然人影が現れた。
「ネズミさん!たいへんだ!とんでもない奴が現れた!」
ネズミが怒鳴った。
「バカヤロウ!勝手にココに入ってくるなと、言ってあっただろうが!」
「すんません。でも緊急事態なんです。どうやら荷馬車隊の警備の奴らしいんですが、強いのなんのって。もう三分の一の仲間が
「そんなバカな!」
ネズミは慌ててオレから離れると「続きはまた後だ!」と言って、洞窟から駆け足で出て行った。
オレはホッとした。
だが身体はまだ疼いている感じがする。
何とか意識を集中して、気持ちを整えないと。
しかし五分もしない内に、ネズミのクソ野郎は戻ってきた。
だがさっきまでとは様子が違う。
「信じられねぇ、チクショウ!あんな奴がいるなんて!」
オレは顔を上げてネズミを見た。
外で何があったんだ?
「あのゴラスが一瞬で殺られた!相手はまだガキなのに……」
ネズミはオレに近づくと、右手に握った注射器を出した。
「これは催淫剤の解毒剤だ。これをオマエに打つ。オマエは外に出て、アイツと戦うんだ!」
>この続きは、明日7:18に投稿予定です。
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