第24話 「白銀の聖少女」が唯一惚れた男、それが俺!(その6)

 ガチャ、ガチャ、ガチャ


 私は必死に両手足に付けられた枷を引っ張りました。

 ですが枷は鎖で背後の巨大な車輪に固定されており、私は大の字のままどうする事も出来ません。

 車輪には奇怪なレリーフ、見た事もない魔法文字、そして所々に血のような染みが着いていました。


「あまりガチャガチャさせないでくれ。騒がしい。花嫁としてみっともないと思わないか?」


 目の前で黒いタキシードに黒いマントを羽織り、人骨の杖を持った魔辺境伯が笑っています。


「花嫁ですって?これが花嫁に対する扱いですか!」


 私はそう叫びました。

 確かに私はウェディングドレスを着せられていますが、それはあちこちに血の跡がある不気味なドレス。


「君が見てはならないものを見、逃げ出そうとするからだよ。何も無ければそのまま快楽の世界に行けたものを」


「この不気味な魔法具を見ても、その言葉は信じられませんが!」


 背後の車輪だけではなく、周囲にある置物や宝具、そして祭壇を見ても、どれ一つとしてまともな物はありませんでした。

 全てが異様で、歪で、禍々しい物ばかりです。


「究極の快楽とは、究極の苦痛と同じものなのだよ。それを今から君に味合わせてあげよう」


 魔辺境伯は私に近寄ると、その長い舌でベロリを頬を一舐めしました。


「そうすれば君は私を愛さずには居られなくなる。そして私の研究の役に立つ事に、心から喜びを感じるだろう」


 そう言いながらドス黒い短剣を、ドレスの胸元に差し入れました。


「イヤ!止めて下さい!」


「まだ若いながら、中々の身体をしているね。それに君はハーフ・エルフだ。どんな研究成果が出せるか、今から楽しみだよ」


 彼は短剣でドレスを一気に下まで切り裂き、私の下着が露わに!


「いやぁ~っつ!お願い、助けて!助けて、ブレイブ!」


 無意識に叫んだその声に


「俺を呼んだのか?」


 落ち着いた声が耳に届きました。



 ハッとして声のした方向を見ると、そこにはあの少年の姿が。


「貴様、どこから入った!」


 魔辺境伯は怒鳴りましたが、少年は入り口のドアに寄りかかったままでした。


「二階のテラスから。正面玄関も調理場の通用口も鍵がかかっていたんでね。探し物があったから騒がれたくなかったんだ」


 そして彼は私に視線を向けました。


「約束を守ってくれてありがとう。あのリボンですぐに解ったよ」


 魔辺境伯が驚いたような目をしました。


「外や城内にいる私の部下はどうした?」


「外のヤツラはまだ残っているだろ。城の中の連中はもう生きているヤツはいないんじゃないかな?探索を邪魔されたく無かったんでね」


「貴様のような小僧が、部下を皆殺しにしたと言うのか!」


「小僧とか言うなよ。それにアンタの部下は大した連中じゃなかったぜ」


「先ほど、探索とか言ったな。何を探していたんだ?」


「それをアンタが知る必要はない。アンタはここで死ぬんだから」


「調子に乗るな!私は部下たちとは格が違うぞ!」


 魔辺境伯が持っていた杖を振るうと、それは奇怪な形の剣に変わりました。


「貴様ごとき、この場で駆除してオークどものエサにしてくれる」


「さぁ、駆除されるのはどちらかな?」


 少年は落ち着いた様子で、背中の剣を抜きました。

 反りの入った片刃の剣です。刀と言うんでしょうか。


「失せろ、無礼なガキめ!」


 魔辺境伯は剣を大きく振るいました。

 だが少年は軽々とそれを避けると、刀を一閃させます。

 魔辺境伯の腕から血が飛び散り、驚きの表情を!


「まさか、こんな子供が……」


「油断しない方がいいぜ」


 少年は刀を構えると魔辺境伯に打ちかかりました。

 鋼同士が打ち合う甲高い音。

 そして私の目にも明らかに、魔辺境伯が押し負けていました。


 ですが魔辺境伯は左手で懐から別の杖を取り出して叫びました。


「ポイズン・テンタクルズ」


 すると少年の周囲から青緑色の粘液を垂らした触手が何本も現れ、少年に覆い尽くします。


「どうだ。毒を持つ触手の味は?貴様の剣技がいくら優れていようと、無数の触手に覆われてはどうする事も出来まい!」


 その言葉が終わる寸前、触手の塊に幾丈もの光の線が入り、触手はバラバラになって床に落ちたのです。

 中から現れた少年が、つまらなそうに言いました。


「油断するなって言っただろ」


 その時、何か焦げたような臭いが鼻を突きました。

 目をやると扉の隙間から黒い煙が。

 魔辺境伯もそちらに目をやります。


「貴様、何をしたんだ」


「燃やしたんだよ。あの肖像画を」


 魔辺境伯が唖然とした顔で少年を見つめました。


「まさか貴様、あの『伝説の魔女の肖像画』を燃やしたのか?」


「ああ。ついでにあの部屋にあった妖しい魔法具も一緒にな」


 魔辺境伯は目をむくと


「貴様、貴様、この世に一枚しかないと言われる『伝説の魔女の肖像画』を!よくも!」


 そして持っていた剣を、自分の腹に突き刺したのです。


「このままでは済まさん。八つ裂きにして貴様を喰ろうてやるわ!」


 魔辺境伯の身体は不気味に膨れあがり、巨大な爬虫類ともヒキガエルとも昆虫ともつかないモンスターに変異していました。


「小僧、死んで聖魔王様に詫びろ!」



>この続きは、明日7:18に投稿予定です。

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