第23話 「白銀の聖少女」が唯一惚れた男、それが俺!(その5)
夕方までの一時、私は周囲の目を盗んで一階に降り、調理場から外に通じる裏口の鍵を外しておきました。
また念のため、下に降りられる二階のテラスの鍵も外しておき、そこに目印として私のリボンを結んでおきました。
あの少年なら、きっと見つけてくれるでしょう。
その後は少年に頼まれたもう一つの約束『黒衣の少女の肖像画』を探しに行きました。
しかし全てのホール、全ての階の廊下、また入れる部屋は見てみましたが、そんな肖像画は見つかりません。
……後は可能性としては地下しか……
私は地下に降りて行きました。
地下一階は食料などの倉庫、そしてある程度の武器や甲冑などが置かれていました。
地下二階に降りて行くと……そこは異様な臭気で満たされていたのです。
湿った石造りの地下は、ヒンヤリとしながらも強烈な獣臭と腐敗臭がします。
そして廊下の両側に頑丈そうな鉄の扉が並んでいました。
扉には小さな覗き窓が付いています。
私がその一つを覗いてみた所
「ひっ!」
思わず小さな悲鳴が。
中には獣とも魔物とも人間ともつかないような、異様な生き物が蠢いていたのです。
勇気を出して他の部屋も覗いてみると、やはり同じような奇怪な生物が見えました。
その時、反対側の扉から小さな声が聞えました。
「だれか居るの?」と。
私は恐る恐るその部屋を覗いてみました。
しかしそこには粗末なベッドが一つあるだけで、何もいません。
「そっちじゃなく、下の食事の差し入れ口を見て」
再び声がしましたが、それは足元の方からでした。
見ると扉の下側には『食事を差し入れるための穴』ありました。
普段はフタで閉じられているようです。
私がしゃがんで中を覗くと……
「!!!」
扉の向こう側には、髪を振り乱して横になった女性の顔が見えたのです!
「驚かないで!私の話を聞いて!」
小さな穴の向こう側で、彼女は必死ながらも押し殺した声でそう言いました。
「あなたは、今年の生贄よね?」
……生贄……
肯定していいのか解りませんが、現在の私の立場を指している事は間違いありません。
私は声も出せないまま、ただ首を縦に振りました。
「お願い、アナタは何とかここから逃げ出して!そして遠くに行って欲しいの」
そう必死に言った彼女に、やっと私は声を出せました。
「なぜ……」
「アナタは今年の生贄でしょ?アナタが今夜『魔辺境伯の花嫁』になると、私は明日には殺される!」
「どういうことですか?」
「何も知らないのね。そう、こんなこと知るわけない……」
彼女は恐怖を帯びた目で私を見ました。
「生贄になった娘は、魔辺境伯との『婚礼の儀』から一週間は大切にされるわ。だけどその後は、アイツの実験に使われるのよ」
「実験?それはどんな?」
「魔と人間を掛け合わせた怪物を作る実験。生贄の娘はその母体とされるの。前の部屋のバケモノたちを見たでしょ?あれがその実験の結果なのよ!」
「そんな……」
「それだけじゃない。一年経って新しい生贄が来たら、前の生贄は廃棄処分にされるのよ」
「廃棄処分って……」
「モンスターのエサになったり、生贄自体を魔物に作りかえる実験材料にされたり。中にはオーク共に与えられて慰み者の末に喰われる娘もいるわ」
彼女は悔しそうな表情と共に涙を流していました。
「私はおそらくオークに与えられるのでしょうね。既に両足は彼らに喰われてしまった……」
「そんな……酷すぎる……」
「だからアナタに逃げて欲しいの。アナタが逃げ出してくれれば、ヤツラにとって私はまだ利用価値がある。殺されなくて済むの。そうして帝国に訴えて軍隊を連れて来てくれれば……もしかしたら助かるかもしれない」
「解りました。アナタも何とか耐えて頑張って下さい。きっと助けを呼んできます!」
私は震えそうになる両足で立ち上がると、出口に向かって走り出しました。
……なんとかココから逃げ出さないと……
いつ魔辺境伯やその部下が現れるか解りません。
当時の私では、魔素の濃い場所では、まだ敵探知は出来なかったので。
そして地下二階から一階に昇る途中、不意に目の前にソイツは現れたのです。
「どこに行くつもりかね?」
魔辺境伯の冷たい威圧する目で、私は動けなくなっていました。
>この続きは明日7:18に投稿予定です。
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