第22話 「白銀の聖少女」が唯一惚れた男、それが俺!(その4)
二日後、私は村の男たちが作った輿に乗せられて、魔辺境伯の城に向かいました。
輿とは言っても、事実上は「逃げられないように外から施錠された、豪華に作られた護送車」と言った感じですが。
小さな窓から魔辺境伯の城が見えてきました。
この城は元々『入らずの城』と呼ばれて村人に恐れられていました。
何でも600年前、伝説の魔女『グレート・ウィッチ』に関わる何かがあると言われていて。
村人はもちろん、騎士でさえ立ち入らなかったし、領主様もここに近づく事を固く禁じていました。
そこに二十年前から、聖魔王の配下である魔辺境伯が住み着くようになったのです。
城門をくぐり、城の前で輿の施錠が外されました。
「出ろ」
私は輿の外に出ました。
城は古い石造りで全体にツタが絡まり、陰鬱な雰囲気を醸し出しています。
周囲の森も黒く感じる。
男たちもどこか不安げです。
「それじゃあ俺たちはここで帰る。逃げるんじゃないぞ」
村の男たちはそう言い残して、城の外に出て行きました。
「逃げ出すつもりなら、最初からこんな所に来ません」
彼らには聞えないように、そう不満を述べたのですが、その間に城門は一人でに閉まって行きました。
代わり城の入り口が重々しい音と共に開いていきます。
中からは湿ったような冷たい風が流れて来ます。
私は勇気を奮って、城の中に足を踏み入れました。
城の中はまず広い玄関ホール、そこから左右両側に上階へと続く階段があります。
玄関ホールは三階まで吹き抜けです。
さらに奥は大ホールなのでしょう。
そこに続く扉が開きました。
「入るがよい」
奥から深い、そして重い声がしました。
何だか頭がクラクラするような気がします。
この声に抗えないような……
私の足は自然に大ホールに向かっていました。
中に入ると、正面には豪華な椅子に黒装束の中年らしき男性がいました。
「ようこそ、シータ・ムーンライト。私がこの城の主、ザイヘルム魔辺境伯だ」
彼の目が妖しく赤く光っています。
この目を見ると、先ほどからの目眩のような感覚が強くなって来るようです。
「噂通り美しい少女だ。しかも清楚で愛くるしい。『白銀の聖少女』と呼ばれるだけの事はある」
「私を、どうしようと言うのですか?」
すると魔辺境伯は意外そうな顔をしました。
「ほう、私の催眠魔術が効かないのか?これはどうしたものか……そうか、君はハーフ・エルフだったな。エルフの力が私の魔力から君を守っていると言う訳か」
彼は立ち上がりました。
「もっとも結果は変わらないがな。君は既に私の城にいる。私の命令には逆らえない。でも心配する事はない。君には尽きることの無い快楽を与えてあげよう。他の娘たちと同じように」
思わず私は後ずさっていました。
……この人、怖い……
しかし魔辺境伯は私に近寄ると、手を取りました。
強い力、そして冷たい手……
「来たまえ。城の中を案内しよう。今日は配下の者は遠ざけてある。君を怖がらせないようにね」
城は地上五階、地下三階まである大きなものです。
また外には兵舎に武器庫、そして魔聖堂、魔術研究棟、墓地らしいものもあります。
大ホール、小ホール、メイン食堂と、どれも瀟洒な造りと豪華な調度品で整えられていました。
「ここは600年以上前にこの地の領主によって建てられた城だ。その領主は伝説の魔女『グレート・ウィッチ』の大の信奉者でね。彼女に遊びに来てもらうためだけに、この城を作ったそうだ。よって『グレート・ウィッチ』にまつわる品々がいくつもあるんだ。だからこそ『禁忌の城』などと呼ばれているんだがね」
そう言いながら、彼は「宝物室」に案内してくれました。
中には金銀で出来た豪華な道具、様々な宝石や魔石で彩られた宝具、立派ながら不気味な彫刻や絵画などがありました。
だけどそれらの多くが、禍々しい雰囲気を放っているのでした。
一つだけ、一段高い所に真紅のビロードのカーテンに隠されている部分がありました。
「これは……?」
思わず私が呟くと、魔辺境伯は崇拝するような、そして恐れるような顔をしました。
「これは伝説の魔女『グレート・ウィッチ』の肖像画だと言われている。だが気安く目にしていい物ではない。見た者は魂を喰い荒されると言うからな」
「魔辺境伯はご覧になったのですか?」
だが彼は首を左右にしました。
「いや、これを見るには聖魔王の許しが必要なのだ。それに私はまだ魂を喰われたくはない」
私はその肖像画に興味を惹かれたのですが、見る事は出来ないでしょう。
それにこれは、少年に頼まれた『黒衣の少女の肖像画』とは関係ないでしょうし。
「さぁ、君の居室を案内しよう。婚礼の儀式は今夜だ。それまでゆっくりするといい」
魔辺境伯は私の肩に手を置き、宝物室を出るように促しました。
>この続きは、明日7:18に投稿予定です。
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