第18話 自宅が一番の死闘な男、それが俺!(後編)
「「ハッ!」」
俺とレーコ、互いにさらに力を込める!
俺の『ヴァイオレット・スター・ネビュラ』は、ついにレーコの霊圧に負け、爆発するように飛び散った。
だが同時に彼女の放った光の柱を捻じ曲げる事に成功したようだ。
外れた光のエネルギーの奔流は、ブチ当った山脈の一つを粉々に吹き飛ばしていた。
……ココって、俺たちが住むのとは別の異世界だよな?大丈夫か、アレ?……
俺はこの世界で巻き添えになった人たちに、心の中で謝罪した。
だがその一瞬の隙に!
「許さないーーーッツ!」
レーコはそう叫びながら、光を剣の形に変えて突っ込んできた。
しかし俺にはもう、避ける力が残っていない。
グサリ、と俺の胸に光の剣が突き刺さる。
「ぐはっつ!」
俺の口から血が飛び散った。
このままなら俺の命はここで尽きる。
だが俺の心配は別の所にあった。
「……本……」
俺は震える手で胸元から赤い本を取り出した。
ダンジョンでシズ姫から貰った本だ。
剣が胸に突き立てられたので、本が破損していないか心配だったのだ。
「良かった……無事だった……」
どうやら剣が刺さった位置からは僅かにズレていたらしい。
手にした本に傷はなかった。
「それは?」
レーコがいぶかしげに、本に目をやった。
「魔女を人間に戻す方法の……シズ姫が研究していた……」
途切れがちな声で俺は言った。
その間にも口と胸から血が流れ出る。
レーコが目を丸くした。
「それは……私のために……」
俺は頷いたつもりだった。
だがその時には既に目の前が暗くなっていた。
「タッ君!」
最後に聞えたのは、レーコが俺を呼ぶ声だった。
深い、深い眠りから呼び出された。
もし墓場から引き摺り出されるとしたら、こんな気分だろうか?
俺は重い瞼を何とかこじ開ける。
目の前には泣き顔のレーコがいた。
「良かった……タッ君が生きていて……」
俺は右手を上げようとして、その力がまだ無い事に気付いた。
と言うか全身が動かす事が出来ない。
俺は横たわったまま、レーコの膝の上で上半身を抱きかかえられていた。
おそらく瀕死の俺を、彼女が全ての魔力を使って蘇生術を施してくれたのだろう。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
彼女は泣きながら、何度も誤り続けた。
彼女の流した涙が俺に顔に降り注ぐ。
その一滴一滴が、俺の中に少しずつだが力を戻してくれるようだ。
「いいんだよ、レーコ。知らなかったとは言え、誤解されるような事をした俺も悪かったんだし」
「タッ君は私のために冒険しているのに……命がけで私との生活を守ろうとしてくれているのに……」
レーコは目を閉じて涙を流している。
その表情も美しく、そして可愛らしい。
……本当に命がけなのは、レーコとの夫婦喧嘩なんだけどな……
俺は苦笑した。
「私、家からあまり出られないし、出ても結界が張られている近所だけだから……それにタッ君は凄くモテるから、外で他の女の子と仲良くしてるんじゃないかと思うと……居ても立ってもいられなくて……」
俺は重い右手を持ち上げて、そっとレーコの頬に触れた。
「ごめんよ。でも俺は絶対にそんな事をしないから。俺にはレーコだけだから……そうだ、今度、気分転換に二人でどこかに旅行に行こう!いつも閉じこもったままじゃ、レーコの気分も滅入るよね」
レーコが驚きの顔で俺を見た。だがすぐに
「タッ君!」
と叫んで、俺に抱きついてくる。
俺はレーコの存在が聖魔王に知られるのを恐れるあまり、出来るだけ外に出ないように言っていた。
出るとしても家を中心とした半径500メートルくらい、カウズ地区だけだ。
街の中心街に行く時は、俺がカードのモンスターを放って、レーコの魔力を拡散させるようにしていた。
そうして彼女の持つ強い『魔の波動』を探知されないようにしていたのだ。
「嬉しい!本当?本当に二人で旅行に行けるの?」
レーコを俺の頭をかき抱いてそう言った。
「ああ、この街に来てから、二人での旅行した事は無かったから。俺もレーコとたまにはどこかでのんびりしたい」
追加で強い魔術師を何人か雇えば、家を少し離れても何とかなるだろう。
「タッ君、大好き!」
レーコはそう言うと、俺に優しくキスをしてくれた。
俺たち二人はしばらくそのままでいた。
やがて唇を離した彼女に俺は言った。
「やっと今日の『お帰りのキス』をしてくれたね」
「うん」
「でも俺は一度死にそうになったんだから、もう少しお返ししてくれないとな」
レーコは不思議そうな顔をした。
「え?でも何をお返しして欲しいの?」
「今夜はHさせてくれるとか!」
レーコが喉を詰まらせたような顔をする。
「それはダメ。いつも言ってるでしょ。『十八歳になる前に魔女とHしたら、その男の寿命は縮まる』って!」
「今日は殺そうとしたじゃないか?十八歳どころか今すぐに死ぬところだった。未経験のまま死にたくないよ!」
「もうっ、ダメったらダメ!」
レーコはそっぽを向いた。
「お願いだよ、ちょっとだけだから。だって俺、死ぬところだったんだよ?」
俺はしつこくせがんだ。
「あ~、もう、仕方ないな」
レーコはため息をついた。
「じゃあ胸だけなら……夜になったらね」
レーコは赤い顔をして、小さい声でそう言った。
「やった!」
俺はレーコの豊かな胸に顔を埋める。
「ちょっと、夜になったらって言ったでしょ。アンっ、そんな激しく顔を動かさないで!」
俺の元気は見る見る回復して行く。
レーコの服をズラして乳房の谷間に顔を埋める。
「あっ、ダメダメダメ、ダメだったら!アアっ、ちょっと!ほら、もう帰らないと!」
レーコが俺の顔を必死に押し戻した。
顔色が赤く少しだけ上気しているようだ。
俺は両手を広げて肩を竦めた。
「仕方ないな。これだけの事をしちゃったし。この世界の人が押し寄せて来る前に退散しないとならないか」
周囲を見渡したレーコも頷く。
「そうだね。でもこの世界の人には悪い事をしちゃったな」
「なにしろ山ごと吹き飛ばしているからね」
レーコはちょっと俺を睨んだようだ。
俺は彼女に支えられながら立ち上がった。
「さぁ、帰ろうか。帰る方法は解る?レーコに頼るしかないから」
レーコは不満そうに頷いた。
これが俺の鍛錬方法だ。
俺にとってはレーコとの夫婦喧嘩が、最高の訓練であり、最大の危機である。
そしてこれが俺を『辺境一の勇者、ザ・ブレイブ』としている秘密なのだ。
>この続きは明日(12/17)7:18に投稿予定です。
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