第19話 「白銀の聖少女」が唯一惚れた男、それが俺!(その1)
私の名前はシータ・ムーンライト。
『辺境一の勇者、ザ・ブレイブ』のパーティ・メンバーの一人です。
パーティの中での私の主な役割と『防御と回復』、それ以外に敵探知を行う白魔術師です。
世間では私の事を『白銀の聖少女』と呼んでいるようですが、それは私が『白魔術師』というだけの理由ではありません。
私の真白な肌と銀色の髪がその由来でもあります。
そしてこの銀色の髪と金色の瞳が、私の最初の苦しみの原因でもありました。
ナーリタニアよりもずっと北、広大な沼や湿地、そして高い山々をいくつも越えた所に、タガマヤという辺境地区があります。
その中にはいくつかの村があり、私はその一つであるターサカ村に住んでいました。
いえ、正確にはターサカ村から少し離れた森の中で、一人で暮らしていたのです。
その理由は、私のこの銀色の髪と金色の瞳にあります。
そう、私はハーフ・エルフなのです。
父がエルフ、母がターサカ村の人間でした、
ですがエルフの国では「穢れた存在」、そして人間の世界では「脅威の対象」として、ハーフ・エルフは嫌悪されていました。
私と母はエルフの国で暮らす事はできず、母の両親を頼ってターサカ村にやって来ました。
母は生活のため、幼い私を祖父母に預けると他の土地に働きに出て行きました。
ですが三年ほどで母からの連絡は途絶えました。
そしてそれと前後して、私を育ててくれていた祖父母が他界しました。
すると母の兄である伯父が
「この家に居られては困る。村から離れた場所で一人で暮らせ。食事は定期的に届けさせるから、村には出来るだけ現れるな」
と言って、私を追い出したのです。
私は獣を避けるために巨大な樹の上に小さな小屋を立て、そこで一人で暮らすようになりました。
でも「いつかみんなに認められたい。人のそばで暮らしたい」と思い、人々の役に立つように白魔術を勉強し始めたのです。
私には元々才能があったのか、それともエルフの血のせいか、独学にも関わらず白魔術はメキメキ上達して行きました。
そうして私は近隣の村々の病気の治療や、魔石や薬草の販売で生計を立てていきました。
ですがどの村の人も、私の白魔術師としての腕は必要としても、私を村の一員として招いてくれる人はいませんでした。
それどころか私の魔術師としての力を恐れ「シータは魔女だ!」という噂さえ流れるようになり、余計に村人は距離を置くようになってしまいました。
普段は考えないようにしていたのですが、雪が多く外に出られない日が続くと、私は寂しさのあまり一人で泣いて過ごす事も多かったんです。
そして三年前、ちょうど私が13歳の誕生日を迎えてしばらく経った頃です。
私の小屋にターサカ村から何人もの男の人がやって来ました。
リーダーである村長の息子が、私に「話がある」と言うのです。
小屋から出てきた私に、彼はこう言いました。
「シータ・ムーンライト。アンタに村の代表として、ザイヘルム魔辺境伯の所に行って欲しい」
「魔辺境伯の所へ?」
私は目を丸くしました。
ザイヘルム魔辺境伯は二十年前にこの地にやって来て、勝手に周辺の土地や村人達を「領地領民」とした、聖魔王の配下です。
それ以来、村々は魔辺境伯に多額の税金や作物などを「税金」として納めさせられていました。
ですが帝都からも遠いこの辺境の地では、国からの援軍も頼れず、村は魔辺境伯に従うしかなかったのです。
そして魔辺境伯は「毎年、各村から一人ずつ順番に聖なる処女を差し出せ」と言う要求を出して来ました。
逆らえばオーク兵たちに村を蹂躙させると言うのです。
村人はやむを得ず、毎年交代で村から娘を一人差し出す事にしました。
今年はターサカ村の順番で、私が対象になったと言うのです。
「なぜ私なのですか?私は村から追い出された身です。私がターサカ村の決まり事に従わなければならない理由はありますか?!」
だが村長の息子も強行でした。
「オマエが住んでいるこの森は、ターサカ村の共有地だ。オマエはそこに住んでいる以上、村の住人だ。それにオマエは十歳までは村の援助で生きて来られたのだ。オマエは当然、村の決まりに従わなければならない。刃向かう事は許されない!」
「なんて勝手な!」
「もしオマエが村の決定に従えないと言うなら、今すぐにここを出ていけ!それだけじゃない。オマエの親族である伯父一家も、当然村から追い出す事になる」
私は唇を噛み締めました。
伯父に優しくされた記憶はありませんが、それでも独り立ちするまで食料を援助してくれたのは伯父です。
そして伯父にはまだ小さい子供もいます。
……彼らが村から追い出されたら、ヨソの土地で生きていけるのだろうか?……
一人の初老の男が前に出てきました。
「頼む、シータさん。アンタが魔辺境伯の所に行かないと、ワシの孫が行かねばならないのじゃ。すまないがこの通りじゃ。今年はアンタが村の代表として行ってくれんか?」
初老の男は冷たい雪の上で、両手をついて頭を雪面に押し付けて頼みました。
……私が行かなければ、村の誰かが犠牲になる……
魔辺境伯に所に行った娘で帰って来た人は誰もいない、と言う話は私も知っていました。
一部では「村に居られなくなったので、町に出たらしい」と言う噂もあったのですが、それもどこまで本当かのか……
「解りました。私が行く事で村のみんなが助かるのなら……」
小さくそう答えると、男たちからホッとした安堵が沸き起こるをの感じました。
村長の息子は最後に
「アンタは魔女だ。魔辺境伯の城に行っても、きっと大丈夫だろうさ」
と言って背を向けました。
……私は魔女じゃない……
その背中を睨みつける私に、初老の男は何度も頭を下げていきました。
>この続きは明日朝7:18に投稿予定です。
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