第11話 魔物も濡らす勇者、それが俺!(後編1)

 俺達は『サキュバスの石板』に記された『真の宝物庫』へ続く岩戸は、ここを通り抜けた先にあると思っていた。

 だが岩戸は『サキュバスの庭』の中にあったのだ。

 この点はリシアの解読が誤っており、サキュバスの案内で岩戸の前に行く事が出来た。

 さっそく彼女達の命を助けたことが役に立った訳だ。


 花畑の中に、石碑のような石室があった。

 サキュバスがその前に立つ。


「このダンジョンが出来て400年。誰もこの石室を開けた人はいません。私たちが案内できるのはここまでです」


 俺は石で出来た扉に触れた。


「おまえ達、サキュバスでさえもか?」


「ハイ。そして私たちにはここから先には入る事は出来ないのです。私たちにもココを開ける術はありません」


 リシアが扉を丹念に調べる。


「物理的な鍵や施錠はないわ。ここは魔法施錠マジック・ロックが施されている」


「開けられそうか?」


 リシアが眉根を寄せる。


「今すぐ、と言うのは難しいわね。じっくり時間を掛けて、どんな魔法が掛けられているのか解析しないと」


 それを聞いたシータが前に出た。


「私に少し見させて貰えませんか?」


 シータは扉に手をかざした。

 彼女の身体が淡い燐光を放つ。

 シータはその手をゆっくりと扉全体に這わせていった。

 やがて目を開く。


「どうやらこの扉は三重のロックが施されているようです。一つは扉自体にステータス異常を起させ、鍵の状態が常に変わるようにしている。鍵らしいものが見えないのはそのためです。二つ目は扉自体が一個の亜空間となっており、そこに住む邪妖精がロックを作り続けている。三つ目は扉を大地と一体化させているマジック・ロックです」


「シータに解除が出来るのか?」


「二番目と三番目は、私には難しいです。ですが一番目のステータス異常は、私が適任でしょう」


 彼女はそう答えると、今度は両手を扉に翳した。


「デコール・ア・ステートメント。歪みを消し去り、あるべき姿へ。石は石に、水は水に……」


 シータの詠唱が終わると、扉の表面に直径2メートルはある丸い金属製の紋様が現れた。


「これが扉の鍵か?次はどうすれば?」


 シータは俺を振り返った。


「先ほども言ったように、この鍵の中自体が一つの世界になっています。そこに居る邪妖精を殺さねばなりません。ですがそれは私では……ブレイブでも剣では届きませんし、ヘタをしたら石室自体を壊してしまいます」


「じゃあオレの出番だな」


 そう言って前に出たのはナーチャだ。

 背に持った強力な弓に矢をつがえる。


「シータ、お前の敵探知能力で、その邪妖精の居場所を教えてくれ」


「わかりました」


 シータが右手を前に差し出し、目を閉じる。


「ロックを作り続けている邪妖精は三匹。円盤の一時と四時と九時の位置にいます。中心からはどれも1メートル50センチの所です」


「ヨシ!」


 ナーチャは目にも止まらぬ早さで三本の矢を撃った。

 それが全て円盤の指定の場所に吸い込まれる。

 そしてどこからか断末魔の悲鳴が三つ聞えてきた。

 シータが手を下ろす。


「成功です。邪妖精は三匹とも倒しました」


 そこでリシアが再び扉の前に立った。


「二人にここまでやられたんじゃ、私が後はやらない訳にはいかないわね」


 リシアは小さく呪文を唱えながら、一つずつマジック・ロックをデスペルで解除していった。

 十五分ほどそうしていただろうか。

 リシアは立ち上がると「終わったわ」と言い、扉の前から離れた。

 すると重々しい音と共に、石室の扉が開いていった。



 中を覗くと、そこは異様な空間だった。

 上下左右がデタラメなのだ。

 階段の最初は上に上っているのだが、いつの間にかそれが下に繋がっている。

 そして横向きに木とテーブルセットがあったかと思うと、上下逆に建物があったり。

 だまし絵のようだ。

 リシアが目を丸くする。


「これは……『ディメンジョン・メイズ』……」


 ナーチャが驚きながら質問した。


「重力と言うより、空間そのものが捻じ曲がっているのか?」


「太古の失われた魔法技術の一つです。それがこんな所にあったなんて……」


 そう答えたのはシータだ。

 リシアもシータも魔法には詳しい。

 そして三人はこの異様な空間に対して、どう対処していいのか戸惑っているようだ。


「私たちは中には入れません。申し訳ありません」


 そうサキュバスが言った。


「いや、気にする事はない。ここから先は俺たちだけで十分だ。行くぞ」


 俺はパーティ・メンバーに声をかけた。

 三人とも固い表情で頷く。

 階段に足を踏み入れる。

 ふむ、この階段を踏んでいる限りは、重力は真下に向かって働いているようだ。

 リシア・ナーチャ・シータの三人も後に続く。

 リシアが周囲を見渡す。


「これでは行き方が書かれていないのも当然ね。上も下も右も左も無いのだから」


「そうだな。とりあえずはみんな離れない方がいいだろう」


 俺たちは一塊となって先に進む。

 階段を下りているかと思うと、いつの間にか登っている。

 さっき通った通路が右手上に見える。

 そうかと思うと、前に通った階段の裏側を歩いていたりする。


「ここに人間が来るなんて、400年間で初めてかしら?」


 不意に左上方から声が響く。

 見上げると、俺たちとは九十度ずれた円形の地面に、黒いロングドレスを来た女が居た。



>この続きは、明日(12/10)7:18に投稿予定です。

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