第2話 死にたくない気がする
死にたくない気がする
機械の音が聞こえる。彼はまだ意識があったが、研究員たちは全く気づかない。
目に映るのは機械の線。コード、ケーブルたち、目線が下にあることがわかったが首は動かせない。体も指も動かせない。それなのに焦りがない。
彼は人体実験の被験者になった。正確にいうと違法な悪質な人体実験の研究員たちに見つかってしまった。死にたいと叫んだカキコミサイトではこうした検体狩りがなされている。
死にたいけど迷惑をかけたくない。死にたいけど誰かの役にたちたい人生をだった。死にたいけどそこらのやつとは違う。死にたいけど病院で死ぬのは嫌だ。
研究員は知らない天井研究所と名前をでっちあけた。
ここなら知らない天井はありません。天井なんて必要ないですよね、うえを見る必要はありません。うえを見るからつらくなるのです。下を見ればいいのです。見知った家の床を見て、仰向けでなくうつぶせで。眠り続ければいいのです。知らない天井のあるところへ行かずに。この実験が成功すれば多くの方の不幸な死がなくなるでしょう。検体の提供としてご家族にもお金が入ります。あなたが役にたつときです。
これが最期のチャンスなんです。
彼は今も立ってうつむいている格好で、実験ケースの中にくくられている。足元にはコード類、それをたどっていけば研究員、と電子機器類。微弱ながら意識があることが示されているモニターもあったが、そこを見ている者はおらず、みなバタバタと次の準備にひっきりなく動いている。
あるものは薬品を、あるものは昆虫を、あるものは獣を、あるものは機械を、あるものは絵本を、あるものは綿菓子を、あるものは植物を、あるものは髪の毛を、あるものは凶器を、他にもたくさん。
みなそれぞれ好きなものを手にしていた。
自分の好きな実験をしていい。
研究員が実験をできずに不幸なまま死ぬことはない。
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