死にたくない

新吉

第1話 死にたいと叫ぶ

 死にたいと叫ぶ


「それじゃ今からはじまります」



 ここは知らない天井研究所。真っ白な病室のような部屋だが、天井がなく、ベッドは常に360度回転している。それでも横たわる彼がどこかにぶつからないのは、回転速度がゆっくりなのとベッドにくくられているから、そしてベッドごとシャボン玉のような円の中に入っているからだ。


「はい」


 彼はこれから死ぬ。彼の目には自分の部屋が見えている。

 彼のこだわりは、家の天井も見飽きたし知らない天井も見たくない。


 天井を見ていると死にたくなるんだ。空を見ると苦しいんだ。でも下ばかり向いていると怒られるんだ。首も凝るし。寝返りして天井も向かないと体も痛くなるんだ。そんなのすらわずらわしい。馬鹿馬鹿しいのに、嫌なんだ。こんな些細なことですら自分がイライラして叫びだしそうな気持ちになるのが、もう耐えられないんだ。


 それだけだった。だからはじめは目隠しされる予定だった。



「何しようとしてるんですか」


「目を隠します」


「怖いじゃないですか」


「ではこうしましょう」



 実家の映像が流れ出す。



「ありがとう、ございます」


 彼は本当は違う場所がよかった。研究員たちは知らないから言えなかった。死ぬ前のわがままをさんざん聞いてもらっていたからだ。ますます彼は申し訳なく思う。



「みなさん、本当にありがとうございます」


「こちらこそ、研究に協力していただき感謝です」



 ベッドにくくられても、透明な円の中に入ってももうどうでもよくなった。よく見ると虹色で、あのパチンと弾けるやつだった。弾けるまでは風に乗って屋根まで浮かびそうに見える。


 シャボン玉のような円の中で、くぐもって外の研究員たちの声が聞こえる。いつかシャボン玉ではしゃいでいたお兄ちゃんの声が聞こえ出す。

 映像は変わらず実家の自室で、なんら大きな変化はない。何かのレバーを研究員が下ろす。



 パチン



 弾けた音が耳元で大きく鳴った。

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