第6話 『僕』と『ベタ』

「ねぇねぇ『ベタ』さん。何してるの?」


「ああ?見てわかんねぇのかよ!俺の勇ましさを見せつけてるんだよ」


 今日も平和なこの水槽せかいに、新しく「ベタ」さんがやって来た。

「ベタ」さんは全身真っ赤に染まっていて、ヒレも僕と違ってすごくキレイだな。


「『ベタ』さんがキレイなのはわかったんですけど、小さい子が怯えてますよ?」


 彼はキレイなんだけど、一つ問題がある。いつも見せつけるようにヒレをピンと張って威張ってるもんだから、体が小さかったり、ぼくのように大人しい性格の同胞が、怯えて物陰に隠れて出てこようとしないんだ。


 でも、「ニンゲン」たちは、そんな「ベタ」さんの姿を見ると、だいたい水槽の前で足を止める。

 僕らにはない足をピタリと止めて。

 その度に自慢げに「ベタ」さんは威張り散らすから困っちゃうよ。


「へっ!そんな臆病な奴らの事なんか知らねぇよ!俺はここの『王様』なんだからな!」


 赤いヒレをピンと張ってイバる「ベタ」さん。でも、彼が『王様』でいられたのは、ほんの一瞬だったんだ――


「おや、どうやら『ニンゲン』の手違いでこの水槽に入れられてしまったようですね」


 また今日も新人さんがやって来たかと思っていたら、先日来た「ベタ」さんと同じ姿で、真っ青な色の「ベタ」さんがやってきた。


「はぁ……同じ水槽にがいるなんて、今日はツイてないな」

「なんでツイてないんですか?仲間がいるなら一緒に遊べるじゃないですか」

「まぁ……見てればわかるよ」


 すると、様子を窺っていた真っ赤な「ベタ」さんが、ゆらゆらと近づいてきたので挨拶でもするのかと思っていたら、僕の目の前で「ベタ」さん同士が喧嘩を始めたから驚いちゃったよ。


 それはそれは見たこともない争いで、互いのヒレはボロボロになり、血も滲んで痛々しいのにそれでもやめようとしない。


 結局、長い喧嘩は終わったけれど、赤い「ベタ」さんの亡骸は水底にコテンと沈んでいた。



「見ただろ?これが僕たちの習性なんだ。仲間を見つけたらその場でどちらかが死ぬまで戦い続ける。まったくもって呪われた体だよ……」


 生き残った青い「ベタ」さんは、ボロボロの体になりながらもこの水槽せかいの新しい『王様』になった。

 だけど、王様って大変なんだなぁ……。

 戦い続けなきゃいけないなんて、臆病な僕には無理な話だ。


 キレイなだけじゃ生きていけないことを、僕は知った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る