第3話 『僕』と『グーラミィ』
ぷくぷく。ぷくぷく。
今日も今日とて、小さな
僕たちより、ずっとずっと大きな「ニンゲン」たちが、洞窟みたいに真っ黒な目でお目当ての同胞を探している。
僕のことを見てくれる「ニンゲン」はいないけど、たいして気にすることはない。
だっていつものことだから。
もしゃもしゃと砂利を掃除していると、隠れていたオヤツのイトミミズが出てきたので、パクリと食べた。
そういえば、あれはいつの話だったかな。
目の前で大きな網に掬われていく同胞を眺めていると、あの日の記憶を思い出した。
あれは「グーラミィー」夫妻の話だ――
「違うよ。もう少しこっちのほうが卵が隠れて安全だって」
「何言ってるのよ。こっちのほうが安全に決まってるじゃない。産むのは私なのよ」
僕の頭上で飛び交ういさかいの声に、いつものお掃除タイムを中断して見上げると、この水槽でつがいになった「グーラミィ」の夫婦が喧嘩をしていた。
水面に浮かぶ水草のどこに卵を産み付けるかで口論していたようだ。
「あのーそんな心配しなくてもいいと思いますよ」
口論に割って入ってきた僕を、夫婦は睨み付けてくる。今にも飛びかかってきそうなその視線に僕は怯んでしまった。
やめてほしいなぁ。僕は喧嘩なんて大嫌いなんだから。
「なんで部外者の君にそんなこと言われないといけないんだよ」
「そうよ。底でうろちょろしてるだけの癖に」
ずいぶんと酷い言われようだけど、確かに間違ってはない。うろちょろするのが僕の生き方だからね。
「この水槽には二人が心配するような天敵はいないよ。だからそんなことで喧嘩しないでさ、のびのびと子育てに専念しなよ」
「あら、そうだったの?つい警戒してたからイライラしてたわ。ごめんなさい」
「そうだね。ごめんよ」
二人はそう言うと、僕の周りをグルグルと回る。
僕の目もグルグルと回る。
それから、敵のいない平和な水槽で「グーラミィ」夫妻は順調に卵を育てていった。
僕も二人と仲良くなって、まるで三人目の親のような気持ちで、卵の孵化を今か今かと待っていた。
そんなある日、いつもより寝坊して起きると、既にお店は開いていた。
いつも通り「ニンゲン」たちが覗き込んでいる。
いつもと変わらぬ風景――のはずだったんだけど、大きな違和感を感じた。
「いない」
「二人ともいなくなっている」
直に産まれてくる子供たちを楽しみにしていた「グーラミィ」夫妻の姿が、どこにも見当たらない。
どこに行ったんだろう。
すると、壁の苔取りをしていた「タニシ」さんが、そっと教えてくれた。
「あの二人なら、君が寝ている間に買われていったよ」
結局、別れも告げられずに二人とは永遠の別れとなったけど、残った卵は僕が代わりに見守ろうとした。
したんだけれど、どうすればいいかわからないまま産まれた子供たちは、あっという間に同胞たちに
今頃あの二人はどうしてるのかな。
エアレーションから生まれる空気の泡に、二人の面影を重ねる。
もしかしたら、新しい世界で叶えられなかった夢の続きを繰り返しているのかもしれない。
だけど僕はそれを確認することは叶わない。
生まれては消え、生まれては消えていく空気の泡に、僕はいくつもの可能性を夢見てい
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