第4話 骨粉と灰かぶり

タバコの煙が、部屋を包んでいた。


夜の屋敷を守るのは、メイドでも、屋敷の主人でもなく、ダンカーは決まってある人物に屋敷の警備をさせていた。


「親父」


骨をすりつぶして、葉巻に押し付ける。生前、『死後召喚』を研究していた彼の父親の、自分の体を使った実験である。


自分の体をエーテルで満たして魔道具のように作り変えた。煙でできた仮初の実体。


時の流れから置いていかれないように、『忘却の刻の砂鉄』で記憶を持った、生きた自動進化魔術なのだ。


「ダンカーよ。酒の時に呼べと言っただろう?」


白いモヤが部屋中に広がると、眼鏡をかけた細身の紳士がいつの間にか椅子に座っている。


「酒を呑む時は、1人が良い」


「紅茶を飲みながら何を言う。だが、良い香りだ」


先程の出会いの酒の席でもし父親を呼ぼうものなら、兵士が雪崩れ込んできて大騒ぎになるかもしれない、とダンカーは父親を横目に見ながら溜息をついた。


「話すことなど無いぞ・・・と言いたいところだが、ひとつだけあった。女の子を家に置いてる」


「む?ほう。さっきから微妙に触ったことない魔力を感じていたが・・・そうか。おめでとう」


「勘違いしないでくれ」


「どんな形であれ、女性を連れてきたのならわたしにとっては嬉しい」


女性と言っても、ダンカーがさっきまで男だと勘違いしていた少女である。恋愛対象になるわけではない。だが、父親にとってはそうではないようだ。


広いお屋敷に2人だけで住むのは、どちらか1人が欠けることで途端に寂しいものになる。


煙が後ろに流れていく。ポットの紅茶は、まだ温かかった。

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ダンカーさんちのメイドと奴隷 とろにか @adgjmp2010

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