第2話 ダンカーさんの勘違い
ダンカーが雨の中、子供を抱っこして運ぶ。
たどり着いた自分の屋敷の窓から煌々と灯りが漏れている。その屋敷の主人をいつでも受け入れる準備がある様子を見て、ダンカーはため息をつく。所謂お持ち帰りなど、旦那様はしないでしょう?どうせ何も収穫無しで早く帰って来るんでしょう?と言われているような気がして、勝手に眉を顰めている彼だった。
濡れたコートを一旦外に置き、玄関を開けると、メイドが目の前に立っていた。
「旦那様。いくらモテないからって人攫いは無いでしょう」
白と黒のコントラストに律せられたメイド服を着た女性の名はメアリー。金髪の長い髪が腰まで伸びて、屋敷の中の光を悉く反射している彼女は、否応無しに目に飛び込んでくる胸の主張が激しい。ダンカーは、どうしたものかと明後日の方向を見ながら言い訳を考える。
「家路を急ぎすぎて、この子供とぶつかってしまってな。奴隷のようだが、こんなに汚れてしまっては今夜の貰い手は現れないだろう。だから、仕方なく、だ。今夜だけうちで面倒を見てくれないか?」
「そんな言い訳をして、身体が綺麗になったら食べるつもりなのですね?承知しました」
腕の中でぶるっと震える子供の反応を感じ、ダンカーは苦笑いを浮かべる。
「君は、俺に男と夜を共にしろと言うのかい?」
「世迷言を。それではこちらで預かります。お風呂を使いますが、旦那様はどうされますか?」
「うーん。それじゃあ、温かい紅茶でも飲んで待つとしよう」
子供を抱き抱えて汚れてしまったダンカーも今すぐ湯浴みをしたいところなのだが、何故だかメアリーからの彼への圧が強い。よって、これ以上何か言われる前に、とダンカーは時間潰しをすることにした。
「どうぞ。あちらのポットに良い温度の紅茶が入っています。では、行きましょうか」
ダンカーが子供を床に下ろすと、子供の銀髪から雨の雫が落ち続ける。メアリーはそれを気にも留めず、手を引いて連れて行ってしまった。
「はぁ、完全に酔いが覚めたなぁ」
さすがにきつい匂いだったので、ダンカーは紅茶の香りで紛らわそうと、4人掛けのテーブルにつく。
ポットの紅茶をカップに垂らせば、湯気と共に良い香りが立ち込める。少しだけ気持ち悪い匂いが紛れた。
ーーーーーー
ダンカーが紅茶を二杯飲み干した頃に、メアリーと子供が戻ってきた。
床を拭きながら歩いてくるメアリー。その様子を見ていたダンカーはメアリーが床を拭く時に見せる胸元を覗き込むのに必死だった。
「・・・破廉恥」
その様子を呆然と見ていた子から軽蔑の一言。
子供に言われたら威厳も何も無くなる、とダンカーが子供に目をやると、彼の目が大きく見開かれた。
白いレース姿に身を包み、さも女であるかのような服装をしていたからだ。
「おい、男を抱く趣味は無いと言っただろう」
「ご冗談を。この子は女性です。最初から、そのつもりで連れて来たんでしょう?」
ば、バカな。そんなはずはない、と驚いているダンカーをよそに、すっかり綺麗になった銀髪の少女は問いかける。
「女だったら、貴方の奴隷にしてもらえますか?」
「お、女だから何だと言うんだい?嘘つきは許さない。今夜だけだよ。明日になったら出て行ってもらう」
「旦那様。この子は男であると嘯いて自分を守っていたのです。許してあげてもいいでしょう?」
メアリーが近づいていき、耳元で囁く。
「ちなみに彼女は処女でございます」
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