ダンカーさんちのメイドと奴隷

とろにか

第1話 プロローグ


ダンカーは雨の中、路地裏に立ち尽くしていた。


一年振りに参加した、社交パーティー、もとい、婚活パーティーは、結局参加した女性、誰一人とも彼は会話せず、今回もカップル成立はお預けとなった。途方に暮れて重い足取りで帰宅途中の出来事だった。


歓楽街、前方から、娼婦が男と腕を組んで歩いて来る。


チッとダンカーは舌打ちした。


そして彼は、条件反射のように、それまでほぼ直進していた道を右に曲がった。


光が溢れる街道を一歩横に入れば、そこは酒の匂いがする吐瀉物。その隣に座り込む子供がいた。


その子供は、道の吐瀉物を踏まないように避けようとして少し歩くスピードを緩めたダンカーに声をかける。


「おじさん、俺を買ってよ」


奴隷制度があるこの国は、主人を失って路頭に迷う奴隷が日常的にいる。声をかけられるのも、ダンカーは慣れていた。


「他を当たれ」


顔も見ずにそう突き放す。『俺』という単語から、男であることが彼にはわかって、尚更冷たい言い方になる。


「なんでもするからさ。頼むよ」


子供が擦り寄り、そんな言葉を口にする。男にできることと言えば、力仕事や兵役だ。それが必要かと聞かれれば、彼にとって否だった。


婚活に失敗して、多少なりとも気が立っていたダンカーは、口を開く。


「男に興味は無いんだよ。君が仮に女性なら足を止めるだろうけどね」


「なっ!?男はみんな、そう言う。なぜだ?」


君も男ならどうしてわからない?と初めて興味を示して子供の顔を見たダンカー。


その子供は体が小さく、銀髪の長い髪をしていた。男にしては、非常に整った顔をしている。


だが、それだけだ、とダンカーは足を早めようとした。


「ま、待って・・・?」


子供の足がよろめくと、そのまま吐瀉物の中に膝から落ちる。


バシャっとした音を聞いたダンカーが振り返ると、子供の足はゲロまみれになっていた。


「くそっ。今日は本当についてない」


ダンカーは雨の中、思わず天を仰いだ。

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