夏祭り
——ミーンミンミンミン…
虎『あっっっつい!!!』
タ『夏だからな、気温も高いから当たり前だろう』
虎『そういえば今日、夏祭りあるらしいですよ!行きましょうよ!』
タ『今しがた…任務を終えたばかりだぞ』
虎『いーじゃないですかぁー!たまにはわがまま聞いてくださいよー!先輩ー!!ねぇねぇー』
はぁ…とため息を着くタロスに頭をグリグリと押し付け裾を引っ張るその様子はまるで小さな子供のようだった。
タロス『分かった、わかったからその手と頭を離してくれ』
呆れ半分、何年もそんな催し事に行っていなかった為ちょっと付き合ってもいいか…と虎丸の頭に手を置いた。
虎『ホントですか!?へへ、じゃあ19時にまたここに集合で!』
任務帰りの為、チリや泥で薄汚れた顔に屈託のない満面の笑みを浮かべた小さな虎は走りながら自室へと走る。
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-虎丸自室-
虎『〜〜🎶〜〜🎶どんな格好しようかな〜🎶
浴衣?髪はどうしよう…長い方が女の子らしいかな?
キサラギ化成にそういう一時的に髪伸ばしたりする様なご都合お薬ないかなーーー??
ついでに浴衣着せてもらっちゃお!』
堅物なタロスが行くと言ってくれた事が
虎丸にとって何よりも嬉しい事であり嬉しく鼻歌交じりにシャワーを浴び、体を拭きながら独り言を呟く。
部屋着に着替え、いつか着ようと購入し
ていた浴衣を片手にキサラギ化成に赴いた。
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キサラギ化成
—コンコン
虎丸『すみません、一時的に髪伸ばしたりするご都合お薬ってあったりしませんかー?』
『あら虎丸ちゃん、髪長くする…ってどうしたのその浴衣!』
虎『いや、隊長と夏祭りに行く事になりまして…普段こんな格好してますし、どうせならこの日くらい女の子みたいな格好してもいいんじゃないかな〜と』
そう話す虎丸は照れくさそうに笑った。
『あらぁ〜…デートってやつね!?あるわよ!
一時的に髪伸ばす薬!
その浴衣は?1人で着られるの?』
虎『でーと?なんですかそれ』
デートという単語を知らない虎丸に驚きながらも
そこ座りなさい、今薬出すから!と食い気味な研究員。
虎『いや〜実は着られないんですよ〜、だから着せてもらおうと思って…笑』
『あなたって子は任務外では放っておけない子ね、おばちゃん頑張っちゃうわよ』
虎『あはは・・・ありがとうございます笑』
『はいコレ!髪伸びるのは飲んでから10分弱かしら…それまでちょっと体が火照る感じするから我慢してちょうだい』
小さな桃色の丸薬をふたつ手渡され、虎丸は一気にそれを飲み込んだ。
虎『んぐ…ニガイ。うえぇ…』
『あら、虎丸ちゃんお薬苦手?良薬は口に苦しってよく言うでしょ?』
虎『う〜〜〜ん…』
普段から薬を嫌う虎丸は想像を遥かに超える苦さから眉間にしわを寄せ唸る。
-数分後-
虎『ん、ちょっと体が熱い…ん!?』
『効いてきた証拠よ、ほらもう伸びてきてる』
肩にもつかない長さだった虎丸の髪がもう肩の下まで伸びていた。
虎『これは…ちょっと伸びすぎでは?』
『いいのよ、そのくらいが結いやすいわ』
するっ…と伸びた髪に指を通し
虎『凄い、こんなに伸びたことなんて保護された時以来です。あと首元暑い…頭重たい。』
『虎丸ちゃん、髪伸ばすと雰囲気変わるわね!?
お祭り終わった後でもそのままで居たらどう!?』
少々食い気味に長髪を勧めてくる研究員に多少引きはしたが、任務のことを考えるとそうも行かない。
虎『んー・・・戦闘スタイル的にも体動かしちゃうタイプですし、コンマ1秒が命取り・・・視界に入ったりバサバサしたら邪魔になってしまう』
『勿体ない、さ浴衣着て髪結うわよ』
残念そうにそう告げると虎丸の伸びた髪に櫛を通した。
虎『お願いします』
髪を少し巻いてふわっと首筋が見えるようにまとめあげてもらい、ワンポイントにかつて崩壊する前のこの國に咲いていたという紅椿という花があしらってある簪も差してもらった。
いよいよさぁ着付けという時に
『虎丸ちゃん。胸潰してるのねそのサラシも取ってもらうわよ』
虎『いやっ…ちょっ、コレはダメです!』
『良いじゃないの、取るわよ』
半ば強引にキツく胸を抑えていたサラシを剥ぎ取られ『あ゛〜!!』と情けない声を上げながらクルクルと回される。
剥ぎとった研究員は目を見開き素っ頓狂な声を上げた。
『いいもの持ってるじゃないの!勿体ない!
今後も出しなさい!』
と胸を鷲掴み見て!と他の研究員にも見せつけるように言った。
虎『ちょっ…やめてください!恥ずかしいです!/////』
手で胸を隠し真っ赤になる虎丸に研究員は更に畳み掛ける。
『タロス隊長もイチコロなんじゃないの〜?』
とニヤニヤしながら恥ずかしがる虎丸を横目に着付けを始める。
虎『そんなわけないじゃないですかぁ!あんな堅物、見向きもしませんよ!?』
『これでよし、なかなかいいデザイン選んだわね鏡見てみなさい』
小さな金魚が袖口に描かれた水色の浴衣。
普段の戦装束は黒字に赤いラインのものなのでぱっと印象が明るくなった。
虎『…これが、僕…???』
鏡を見て驚く虎丸に研究員はぼそっと呟いた。
『間違いなく特務機関スサノヲの百目鬼虎丸よ、でも今はただの女の子なんだから楽しんできなさい』
虎『女の子…』
嬉しそうに鏡を見つめふふっと口元に手を当てて笑う。
『それより時間大丈夫なの?』
研究員は時計を指差す。
針は18時55分を差していた。
虎『あっ!!待ち合わせ19時なんです!!ありがとうございます!行ってきます!』
小走りでタロスの待つ場所へと向かい
門前で腕を組み壁に寄りかかるタロスを見つけた。
虎『せんぱい…っ!』
タ『虎丸、時間ぎりぎ…』
そう言いながらゆっくりと振り返るタロス は虎丸を見て言葉を失った。
タ『とら、まる…か?』
虎『えっ、なんか僕変ですか!?』
タ『いつもと雰囲気が違ってだな…』
途切れ途切れになる言葉。
虎『…どう、ですか…?』
動揺するタロスにクルっと回りながら浴衣姿の感想を聞く。
タ『あ、あぁ、いつもと雰囲気違うと言うかなんて言うかだな…変装の腕を上げたな。』
ふい、と虎丸から視線と話を逸らしてしまった。
虎『え?いやそうじゃなくって』
タ『武器は隠せてるのか?
クナイは常に持ち歩いてるんだろうな?』
虎『勿論です!ってだから違くて』
「いやいや」と手を横に振る虎丸。
タ『あぁ、すまなかった。こんな場所だ、1人だと目立つからな。肩を並べて歩けばそれらしく偽装できるだろう』
完全に虎丸から視線を外し「参ろう」と一言。
そのまま少し距離を取り虎丸はしょぼんと後ろを着いていく。
虎『もう……。違うのに。可愛いって言って欲しかった…潜入で培った色香を使って次は絶対可愛いって言わせてやる』
ぷくーっとふくれっ面で大きな背中を睨みつけたままシュッシュ、と拳を前に出しながらぼそっと呟く。
タ『ん?何か言ったか?』
言いたいことがあるなら言え、とフグのようにふくれた虎丸をやれやれという表情で見つめる。
虎丸『いーえ!なんにも!言ってません!』
ふんっと踵を返しぷりぷりと怒りながら先へ歩いていってしまう。
すると、
虎『わわっ!?』
慣れない浴衣と下駄を履いているせいか、普段ならつまずくことの無いような、何もない場所で裾を踏んでしまい転びそうになってしまった。
グイッ
転びそうになった虎丸の腰に腕を回し最悪の事態を避けた。
虎『…へ?』
タ『注意力散漫だ、しっかり前を見て歩け』
ぽかんと口を開いたままコクコクと首を縦に振り、空色の瞳をぱちぱちさせる。
タ『…虎丸、手を出せ』
虎『あ、はい…?』
わけも分からず言われるがまま、不思議そうに首を傾げる虎丸の手を握り、彼女の歩幅に合わせて歩いて行く。
タ『これなら躓くことも人混みの中ではぐれることもなかろう?』
目を合わせず、正面を向いたまま淡々と話すタロスの手を握り返し、ニコッと笑う。
虎『なんか恋人みたいですね』
タ『何を言ってるんだ、これはお前の迷子防…』
その時、屋台ののれんに書かれている文字に虎丸が声を上げた。
虎『あっ!りんご飴!先輩食べませんか!?』
子供のように屈託のない笑顔でりんご飴を指さす虎丸は汚れを知らない女の子そのものだった
タ『食べ切れるなら好きにするといい、私は小さいのを頂こう』
虎『すみません!大きいりんご飴と姫りんご飴1つづつ下さい🎶』
『あいよ!700円ね!』
虎『財布財布〜🎶』
ゴソゴソと水色の巾着の中に手を突っ込み探す虎丸を押し退け
タ『これで頼む』
チャリンと音を立て手を出した老人の手のひらには小銭が。
虎『あっ、先輩ありがとうございます!』
タ『いいんだ、たまには頑張ってる後輩に褒美だな』
『クー、若いっていいねぇ!そんな君たちにはサービスするよ!』
と、老人が取り出したのはハート型のべっこう飴。
タ『なに…ッ!?』
虎『ありがとうございます〜!可愛い〜!』
『お〜う、お幸せになぁ!まいど!』
色気より食い気、虎丸は気付いていなかったのだ。
『お幸せに』という言葉に。
タ『お前…恥ずかしくないのか?あんなこと言われて…』
虎『へ?なんか言われましたっけ??』
ん〜?と考え込む虎丸。
思い出したのか急に顔を真っ赤にして
虎『ごごごごめんなさい!あの!えっと変な勘違いされちゃって…嫌でしたよね!すみません!!』
りんご飴で赤くなった顔を隠し、ぺこ、と頭を下げる。
タ『嫌なわけじゃないが、お前が私となんて思われて嫌じゃないかと心配だったんだ」
虎『嫌なわけではないですけど』
タロス「りんご飴のようだな。
行くぞ、そろそろ花火が上がる時間だ』
珍しく微笑んだタロスは「こういうのも悪くない」と虎丸に聞こえないように呟き、再び手を引いて打ち上げ花火の会場まで歩き始める。
2人はテキ屋の並びを眺めながらカラン、カランと下駄の心地よい音と祭囃子、テキ屋の呼び込み、様々な音がする夏の夜に溶けていく。
危険と血に塗れた道を歩む事を選んだ2人。
任務で大きな怪我を負い、目を覚まさないと言われた時期もあった。
そんな日常からかけ離れ、祭囃子に耳を傾ける時間はいつもの上司と部下ではなく紛れもない男女。
この幸せが、たとえ一時だとしても
2人にとっては一生忘れられないものとなるだろう。
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