レベル22
フレイアのお父さんが船長をしているメイフラワー号に乗ると、余りにも巨大な木造船で迷子になりそう……。
でも、船室が沢山あるのでオレは久し振りに個室で寝る事ができる。今夜はクレオの寝言を聞かずにユックリと眠れそう。
夕飯は超豪華な食事だった。フランクの話によると、乗船しているコック長は和洋中の料理全てに精通しており、有名なレストランの話を断ってここにいると言っていた。商船が世界中を航行するので、あらゆる国の料理を極めたいんだとか。
料理を堪能したオレ達は今後の話を始める。
オレ達は地方のボスを倒す為に、日本中を旅する事が既に決まっていたけれど、フランクさんも微力ながら日本一周に協力したいと。
フランクさんが船長をしている商船は冷凍船。海外に向けて出航数日前だったので、冷凍食品が山のように船倉に積み込まれていた。でも、燃料の給油が出航直前に予定されていたのでさほど残っていないと。
しかも、燃料が重油から石炭に変わっていて、フランクさんが驚きながらもオレ達に教えてくれた。
問題なのは石炭を買い増しする必要があり、その為のペルが必要だとフランクさんが言った。
クレオが真剣な目でフランクに言い始める。
「それで、どのくらいペルがあれば足りるのでしょうか?」
「なにせ巨大な木造船なので、日本一周するには少なくとも1億ペルの石炭が必要になると思うのです。
しかし私達には7万ペルしか無いので、皆さんに協力したいのですが、燃料を買うお金が無いので出来ないのが実情なのです」
「それでしたら、マサトがマイクを決闘で倒したから、1億ペル以上持っていますので払えますよ」
クレオはそう言うと、オレにウインクしながら見る。フランクは驚きながらオレを見ている。
でも、どういう意味でクレオはオレにウインクしたんだ……?
とにかく……、マイクと決闘したので望外のペルが入って来たのは間違いない。しかもオレには高価な武器は必要ないので、ペルを持っていても使い道が無い。サラの餌代と宿泊費。そして食事代のペルが有ればそれで事足りる。
それに、もしこの巨大な木造船に乗って日本一周出来るのなら、宿泊費と食事代は必要ないし……。
「クレオの言う通り、1億ペルで石炭を買う為に使って下さい。
オレにとっては使い道の無いペルですから」
「ありがとう、マサトさん。そのペルはありがたく使わせて頂きます。それよりも、あのマイクを決闘で倒したんですか?」
フランクさんがマイクの事を知っているのは少し驚いたけれど、そんなにアイツ強かったの……?
それからフレイアの継母と、オレを生んでくれた母さんが双子であることから始まって、フランクさんは驚いて聞いている。みんなも話に加わり、この船から出たことの無いフランクさんに、今まで見聞きした外の世界を話し出す。
話で遅くなったのでシャワーを浴びて自室に行く。すっかり遅くなったサラの食事を上げていると、誰かがドアをノックする音が聞こえて来る。
コンコン。コンコン。
白いヘビが壁から現れて、思いっきり横に振っている。今回は何故横に振っているのか皆目見当がつかない。魔物がいる訳でもないし、ましてやここはシャワー室でもない。
明らかに誰かがドアをノックしている音で、開けない訳にはいかない。オレは決心を決めてドアを開けると、突然ジュリアが部屋の中に入って来た。しかもネグリジェで下着が透けて見えている……。
「今夜〜、ここで寝てもいいかな〜」
またしても激甘な声で言うジュリア。オレは完全に目が点になりどう対処していいのか分からない……。
ジュリアはオレのベッドに乗ると、横になった。
「ジュリア、出て行ってくれないか。そのう〜、困るんだよ」
「なんで〜、マサト〜?
今まで同じ部屋で寝ていたでしょう?」
何を企んでいるんだジュリアは。オレは返事もしないでジュリアの手を持って、ベッドから降ろそうとしたら彼女が思いっきりオレを引っ張ったので……。
「あ……」
ドアの方で小さな声がしたので振り向くと、そこには驚いた顔をしたフレイアがいた。ジュリアの上にいるオレは、フレイアから見れば明らかに……。
フレイアは何も言わずに立ち去った。
「ちょっと待ってくれ、フレイア〜! 誤解だ〜!」
オレが大きな声で言ってもフレイアは戻ってこなかった。オレはベッドから下りるとドアを指差しして、強い口調でジュリアに言う。
「出て行ってくれ!」
「あ〜あ。せっかく良い所だったのに、飛んだ邪魔が入ったわ。また来るわね〜。マサト〜」
そう言ってジュリアは満面の笑顔で部屋から出て行った。
それからオレは何をしたのか全く覚えていなくて、気が付いたらデッキにある古い椅子に座っていた。三日月が東の夜空に出ており、幻想的で素晴らしい夜だった。
でもオレの心は真反対で、何も考えられずに月をただぼんやりと見ていた。
「そこに居るのは、マサトなの?」
控えめな声で言って来たのはフレイアだ!
彼女の登場に驚くオレ……。
「ここに居るとよく……、分かったね」
フレイアはオレに近ずくと、横にあった古い木の椅子に座った。
「マサトを探す為に天使の夢を使ったのです。いつかはこの日が来るのでは思っていたのですが、まさか今夜だとは思わなくて……。突然逃げて……、ごめんなさい。
ハイこれ」
フレイアが何を言っているのか分からなかったけれど、手渡された物は紙に包まれたサンドイッチだった。
「お話が長く続いたので、マサトもお腹が空いているだろうと思って。サンドイッチを作って貴方の部屋に行ったら、ジュリアが居て驚きました」
「フレイア、誤解なんだよ。実は……」
オレがそこまで言うと、フレイアは手の仕草でオレの言うのを止めた。
「ジュリアは小学生の時に、不良から救ってくれたマサトが初恋の人だったんです。それから転校してもマサトの事が忘れられずに、貴方の面影を追って強い男の子を見つけるとボーイフレンドにしていました。でも、それ以上の強い男の子が現れると、その子に乗り換えるのを繰り返してきたのです。
マイクもその中の1人だったんですけれど、この前のTWで戦いに負けて、ジュリアは彼に興味を示さなくなったんです」
フレイアは一息いれると、また言い始める。
「そこに現れたのが昔の面影以上の強さを持ったマサトでした。彼女が夢中になるのは明らかで、彼女の性格からしていずれは今夜の様な事が起こると最初から予想していたのです」
だからジュリアがパーティーに加わる時に、少し考えていたんだ。
それにしても貴重な天使の夢を使ってまでオレを探してくれていたなんて、ちょっと感激。
「あのさ。もしよかったら……、ここでまた合わないか?
ここだと誰にも邪魔されずに話が出来るし」
「はい、賛成です。そう言ってもらうと凄く嬉しいです」
それからオレ達は、サンドイッチを食べながら夜通し話をした。
太陽が東の空を少し明るくするまで……。
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