レベル20

 エリーがやっと動けるよになって先に進むと、ボスが居る空間が見えて来た。人間ぐらいの巨大なムササビの魔物、ムービが木から木に移動を繰り返している。


 八極合気の奥義は、離れている的に練られた気を打ち付ける空華崩拳くうかほうけん。でも、オレにはまだ出来ない技で、亡くなった母さんが言うには、長い修行が必要なのだとか……。このボスを倒すのはオレでは無理なのかもしれない。


「ヤリを持っているエリーとクレオが、今度は有利に戦えますね」


 フレイアがそう言うと、エリーがさっきと違って急に元気になっていく。


「任して、みんな。ムービのレベルは私よりも下だから問題ないし。さっさと片付けて、遅くなった夕飯を食べに行こうよ」


 誰のせいで遅くなったと思っているんだエリーは。そこの所はクレオとよく似ている……。


 エリーを先頭にしてボスの居る空間に入って行くと、後ろの扉が不気味な音を立ててしまる。


 ズゥーーン!


 その音を合図にして、周りから無数のヤマネコに似た魔物が現れた……。


「ゴーギャだわ。鋭い爪を使って、攻撃と離脱を繰り返す魔物。みんな、扉に戻って!」


 ボスだけだと思っていたら、こんなに魔物が現れるなんて!


「エリーとクレオはボスだけ注視して。他の人は目の前のゴーギャを倒す!」


 フレイアにみんなが返事をすると、早速ムービが上から襲って来る。オレは青銅の剣を鞘に収めて、下から襲って来た最初のゴーギャを指浸透勁ししんとうけいの技を使った。


 バチィィーー!


 寝られた気が流れるとゴーギャは消えて、そこには鋭い爪が落ちていた。動きは早いゴーギャだけれど、単純な動作を繰り返しているので問題ない。フレイアも問題なく剣でゴーギャをやっつけている。しかし、ジュリアがゴーギャの動きに追っつかず、鋭い爪による攻撃で負傷し腕から血が出ていた。


「イタァーイ〜!」


 ジュリアはみんなの陰に隠れた。たぶん、傷を治す為に……。

 エリーとクレオは善戦しているけれど、ムービがエリー達から離脱直前、ムービに隙があるのをエリー達が見過ごしているのが分かった。

 オレはエリーにその情報を素早く言って伝えた。


「分かったわ、マサト」


 エリーはそう言うと、ヤリを数回回転させてムービの次の攻撃を待った。

 その間、オレとフレイアはゴーギャを確実に殺していった。


 ムービが再び襲って来ると、クレオとエリーが防戦する。そしてムービが離脱する瞬間、エリーはオレが言った通り隙を見事に捉えてヤリをムービに突き刺した。


 バサ、バサ、バサー。


 ムービは地面に落ちで、必死に飛び立とうとしている。そこをエリーがヤリを大きく回転させて突き刺した。

 ムービが消えて、何かがそこに落ちていた。ムービが消えた事によってゴーギャ達も消えて居なくなっていった。


「やったわね。マサトが助言をしてくれたおかげ」


「エリーが隙を的確に捉えたからだよ。

 で、ジュリアは大丈夫なのか?」


「うん。メディを使ったから〜、キレイに怪我が治った〜。

 ゴーギャって、動きが早すぎて〜目で追って行けなかったんだ〜。

 でもマサトって本当に凄いよね〜。ゴーギャを倒しながら、ムービの弱点をいち早く見抜くんだも〜ん」


 ジュリアがそう言うと、フレイアが右手を顎に当てて考え込んでいる。ふとオレを見ると、決心したように言い出した。


「皆さんに提案があるのですが、いいですか?」


 フレイアが改まって何かを言うみたい。でも、なんだろう?


「戦闘の時は皆さんに私が指示を出していたのですが、マサトに変わった方がいいと思うのです。何故なら、幼少の頃からお母様に鍛え上げられていたので、戦況に対する判断力は私の比ではありませんから」


 まあ、鍛えげられたのは間違いのない事実だけれど……。


「でもオレ、襲って来る魔物の特徴がよく分からないんだけれど。フレイアやエリーなどは長くゲームをやっていたから、的確な判断ができるのでは?」


「雑魚の魔物はその通りですけれど、ボス戦は私が知らない魔物が出るので、過去の情報は使えません。それよりも、先程のムービの弱点を素早く見つけてエリーに教えたマサトの方がパーティーが生き残る確率が格段に上がると思うのです。皆さんはどう思われますか?」


 エリーは即答で答える。


「さっきの助言は的確だったわ。私は賛成」


「私も賛成〜。マサト強いし〜。フレイアよりは遥かにいいと思うよ〜」


 ジュリアの言い方に少し棘があるような気がするんだが……。

 クレオが知的な目でみんなにいい始める。


「ボスの弱点を素早く見つける能力はマサトが上みたいだから、試しにやってみたら良いと思うわよ。ダメだったら元に戻せばいい事だから」


 クレオの返答がまとも過ぎて目眩めまいがしそうだ……。

 宝箱が見つかるたびに行かないでくれよと思う。既に7個の宝箱をクレオは見つけて、エリーが再三止めたにも関わらず脇道に行ってしまうクレオ。せっかく白いヘビが正しい道を教えてくれるのに……。


 キュゥ〜、グルグル〜〜。


 突然誰かのお腹の音が鳴る。


「お腹空いたね。マサトが取り敢えずリーダーと言う事で決まり。

 で、夕飯を食べに行こうよみんな」


 エリーのお腹が鳴ったみたい。

 それで、えーと。もしかして……、元来た道を戻るんだよな……。


 思っていた通り元来た道を戻ると、吊り橋が見えてくる。ジュリアはそれを見ると、オレを見て頼み込むように言う。


「帰りもお願いします〜、マサト〜」


 ハァ〜〜〜〜。

 オレは心の中で長いため息を吐いた。

 背中に、あれがまた当たるのかと……。

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