レベル19

「ダメェーー! これ以上進めなイィーー!」


 つり橋の途中で悲鳴を上げているのはエリー。朝日区のボスを倒すためにここまで来たのだけれど、つり橋を渡なけらば向こうには行けない。

 ジュリアは渡る前から足がすくんでしまって、つり橋に一歩も踏み出せないでいる。


「もう何してるの、エリーは!」


 高い所が平気なクレオは、既に向こうに渡ってエリーを叱咤激励。フレイアも向こうに渡って、魔物が襲って来ないかウルシと警戒にあたってくれている。とにかく、このつり橋を渡らなけらば先に進めない……。

 もっともつり橋と言って、今にも切れそうな縄が上下に貼ってあるだけ……。


 クレオが何度言ってもエリーは悲鳴をあげるだけ。仕方ないのでオレはエリーの近くまでつり橋を渡った。


「大丈夫か、エリー?」


「だ、大丈夫も何も……、こ、こんなに揺れるなんて、こ、怖くて、足が……。ふ、踏み出せない……」


 確かに、縄が2本なので揺れるのは当然だと思う。

 でもこれは、オレ達に見せているだけで実際は長いローカを歩いているだけだ。古くて今にも切れそうな縄だけれど……。実際はそう俺たちに見せているだけだ。


 遊園地に行ったら、壁がグルグル回るトンネルを通り抜ける時に感じる錯覚と同じだよって、みんなにはそう説明はしたのだけれど……。


「仕方ないな、エリー。俺の背中に乗れよ」


「う、うん。あ、ありがとう」


 エリーが背中に移動すると、何か柔らかな物が背中に当たっているんですが……? これはもしかして……。き、気にしないでつり橋を渡らないと……、気を取られてやばい気がする……。

 しかも寝不足で、精神を集中するのが難しい……。


「マサトって、上の縄を掴んでいないの……!?」


「そうだけれど、それで?」


「い、今にも切れそうな縄なのに、わ、私を乗せて歩いているなんて信じられない!」


 エリーは、またしても叫び声を上げだした。


「こ、怖い〜〜! 縄を掴んで〜〜、マサト〜〜! ゆ、揺れる〜〜! 神さま〜〜」


 しかもエリー、思いっきりオレにしがみついて、背中に当たっているものが更に強く押し付けられる……。


「フゥー」


 やっと向こうに渡り終えてホッとするオレ。つり橋を渡るよりも、エリーにしがみつかれる方がよほど疲れるよ。


「あ、ありがとうマサト」


 エリーは腰を抜かしたみたいで、地面に座ったままだ。よほど怖かったらしい。


 ジュリアを見ると、頼み込むようにオレを見ている。


「はぁ〜〜」


 オレはため息を吐いて、ジュリアの所につり橋を戻って行った。


「背中に乗って、ジュリア」


 オレがしゃがみこんで背中をジュリアに向けると、彼女が背中に抱きついてくる。

 エリーの時よりも更に大きくて、柔らかいものが背中に当たっている……。


「ありがとう〜、マサト〜」


 甘ったるい声で言うジュリア。


 つり橋を渡り始めると、更に強く抱いてくるんですが……。

 背中に当たるものを気にしていたら、この縄を踏み外すかもしれないのでここは慎重に……。


 フレイアが大きな声で言い始める。


「マサトの後ろからスクットが近づいているから気を付けて!」


 え、魔物……、この状況下でどう気を付けるの?

 後ろを振り向くと、大型犬ほどはあるリスみたいな魔物が牙を剥いて数匹こちらに向かっている。

 ジュリアを背負ったまま向きを変える。


「ジュリア! しっかりオレにしがみ付いてくれ!」


「わ、分かった」


 ジュリアはそう言うと、背中に当たっていた柔らかいものが更に押し付けられて……。


「頑張って〜〜、マサト〜〜」


 激甘の声でジュリアは応援しているみたいだけれど、これでは……。


 ダメだ!

 この声を聞かされると、気を練ることが出来ない! 意識を魔物に集中しないと!


 大きく深呼吸をして、体内で気を練り始める。スクットを見ると目の前まで迫って来ており、長い牙を見せつけるように大きな口を開けている。

 最初の一匹が飛び跳ねて襲って来た! 体内で練り上げた気を人差し指に意識を集中して、襲ってくるスクットに指浸透勁ししんとうけいの技を放った。


 バチィィーー!


 大きな音と共にスクットは消えたけれど、2匹目と3匹目が上下から同時に襲って来る。

 右手を下に移動しながら、下から襲って来るスクットを最小の力で進行方向を変えて谷底に落とした。と同時に、左手は上から襲って来るスクットに指浸透勁ししんとうけいの技を放った。


 バチィィーー!


 画面が現れたので見ると。


「スクットの皮2」


 あ……。

 深い谷底に落ちたスクットは足されないんだと反省。


「凄いわ〜、マサト〜」


 甘ったるい声で褒めるジュリアに、返事もしないでオレはつり橋を渡る。彼女の声と、背中に当たっているものはオレの気を練るのに正直言って邪魔だった……。

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