レベル18

 またしても眠れない……。


 寝返りが出来ない上に、隣に寝ているクレオが時々寝言を言うからだ。それに、真夏なので夜でも蒸し暑い。


「あなた、愛しているわ〜〜、ムニュムニュ〜〜」


 亡くなった父さんの夢を見ているみたいで、とても幸せそうな寝言なんだけれど、隣に居るオレに取っては迷惑。真横でクレオの寝言を聞かされるとは夢にも思わなかったよ……。


 眠気が吹き飛んでしまい、仕方なので寝袋から出た。他の3人は寝息をたてながら寝ている。オレは部屋から出て屋上に行く上る階段を登り始める。どうせ眠れないのなら、星空を見ながら涼むために。今夜は雲ひとつない新月みたいなので。


 屋上の古めかしい扉を開けると、想像を絶する別世界がそこには広がっていた。今まであった街の灯りが全く無く、夜空には満点の星が光り輝いていた。プラネタリウムでしか見たことがないような素晴らしい夜空で、一つ一つの星が光り輝いて見える。やっと見える古いベンチにオレは座ると、誰かが声を掛けてくる。


「そこに居るのはマサトなの?」


 誰もここには来ないと思っていたので少しビックリしたけれど、優しく声を掛けてきたのはフレイアだ。

 でも、どうして彼女がここに居るんだ?


「あぁ、オレだけど……。

 みんな、グッスリと寝ていたと思っていたよ」


 星空の下、やっと見えるぐらいの視界だったので、ゆっくりとフレイアがオレに近づいて来る。


「目を閉じて眠ろうとしたのですけれど、眠れなくて。マサトが部屋を出たので、気になって追いかけて来たんです」


 フレイアが近くに来ると、オレは彼女に手を差し伸べてベンチに座らせる。彼女の手を初めて触ったけれど、思って居た以上に細くて柔らかい。そして、急にオレの心臓の鼓動が早くなっていくのを感じた……。


「ありがとう、マサト」


 そよ風がフレイアの方から来ているみたいで、ほのかに香水のかおり漂って来る。クレオが付けている香水とは違って、とても清々しい香水のかおりだ。思わず深く息を吸い込んでいたオレ……。


「こんなに素晴らしい星空。私……、今まで見たことがありません」


「オレもだよ。

 天の川が、あんなに明るい川だってビックリしているところ」


「本当にそうですね。それにとてもキレイ……」


 それからしばらく、オレとフレイアは黙ったままで光り輝く満天の星を眺めていた。

 フレイアに何て声を掛けていいのか……、分からない……。


「流れ星……」


 フレイアの指差す方を見ると、一瞬だけ流れ星が見えた。でも、願いを叶えるには余りにも短かった……。

 でも、何の願いを叶えようとしたのオレ?


「マサトは願いを心の中で言えましたか?

 私は何とか間に合いましたよ」


 え……?

 あの短い時間の中で願いを言えたって、スゴ。でも、それよりフレイアが流れ星に何て言ってのか気になる……。


「オレはダメだったよ。

 それで……、流れ星に何て言ったのフレイアは?」


 フレイアは少しの時間考えて、はにかみながら小さな声で言う。


「それは、内緒です……。

 神様が天の扉を開けた時に漏れた天の光なので、本当に届いたのか不安なので」


 つつましい言い方に、なぜか心が引かれる……。


「それで……、マサトにお願いがあるのですが……」


「お願いって?」


「マイクを気絶させた技は、八極合気ですよね。よかったら、私に教えてはくれないでしょうか?

 修行の途中で日本に来たものですから」


 どうりで、高度な技をフレイアは知らないわけだ。


「もちろん、喜んで教えるよ。

 手を出しくれる」


「手ですか?」


「実際にどんな技なのか、体感するのが手っ取り早いので。

 ちょっとだけ痛いかもしれないけれど、体に叩き込まれるので習得には最短だと思うんだ」


「分かりました。マサトを信じていますので宜しくお願いします」


 オレを信じいますって、これで2度目だ……。


 フレイアは右手をオレの前に持ってきたので、練り上げた気を人差し指だけで彼女の手に叩き付けた。


 パチィ。


「キャ!

 ご、ごめんなさい。これ程だとは思わなかったので」


「オレの方こそ、手加減できなくて……。

 それでこれは、体内で練り上げた気を人差し指に意識を集中して打ち付けて放った指浸透勁ししんとうけいなんだ。体内で練り上げる気のやり方は教わった事ある、フレイアは?」


「あ、はい。あります」


「それだったら、オレがやったようにやってみて。体内で練り上げた気を、人差し指で打ち付けるようにオレの手に流す」


「わ、分かりました。やってみます」


 手をフレイアの方に持っていき、フレイアの準備が整うのを待っていた。


「気が練れましたのでやってみますね」


 フレイアの柔らかな指が手に当たったと思ったら……。


 バチィーーーー!!


「ワォォー!」


 あまりの痛さに声を出してしまった。


「ご、ごめんなさい。

 最初だったので、思いっきり練った気を指から打ち付けたので」


「フレイアは筋がとってもいいよ。

 初めてで、これだけの威力のある指浸透勁ししんとうけいを使えるんだから。足、膝などからも同じように、間違いなく使えるようになると思うよ」


「ありがとうございます。私、頑張ります。

 それで……、お母さんから聞いたのですが、八極合気には究極奥義あると聞いたのですが、マサトは習得できたのですか?」


 そこまでは……。


「まだ修行が足らないみたいで、空華崩拳くうかほうけんっていうんだけれどまだ使えないんだ。これは練った気を離れた相手にぶつけて倒す究極奥義。空を飛んでいる魔物でも攻撃出来ると思うんだけれどね。

 えーと……。それで……、よかったら麗華叔母さんについて何か話してくれない? 知りたいんだ」


「私は、マサトのお母さんの事が知りたいです。お母様のお姉様がどんな方なのか知りたいので」


 オレ達はそれから、お互いの母さんの事を話した。

 東の空が少し明るくなるまで……。

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