レベル16

 ボスを倒して、迷路のダンジョンを無事に通り抜けると、フレイアが一息ついて言う。


「今回のクエストは、マサトの探知能力が高かったから問題なく外に出れて良かったです。

 それに……、肘だけでボスを粉々にしたのは、今でも信じられません」


 探知能力ですか……?

 単に、白いヘビの指し示す道を行っただけ。でも、オレにしかヘビが見えていないので誰にも言えない……。


 それと、フレイアはオレと同じ技の全てを使いこなすと思っていたけれど、どうも違うみたいだ。最もあの技は、八極合気の中でも最上位の技になるからな。


「ほんとに!

 マサトがこんな隠れた才能を持っていたので驚き!」


 エリーがオレを、尊敬の眼差しで見ながら言っているんですが……。


「学校の成績がわるかったけれど、これで汚名挽回ね、マサトは」


 クレオはオレを褒めているのか、けなしているのかわからない言い方。成績が悪いと言っても、上位の2割にはいるんだけれど。クレオから見たら成績が悪いと思っていたんだ……。


 フレイアがそれを聞いて微笑んでいる。

 明らかにクレオの言葉を真に受けて、オレの成績が本当に悪いと思っている感じ……。後で本当の事を話さないとな。

 でも……、何でオレはフレイアに弁解をしなくてはいけないんだ?


「もうすぐ、インターナショナルハイスクールに着きますよ」


 フレイアが指差す方向には、中学校と同じ様になっていた。校庭が森で、その奥に古い中世の建物が見えてくる。どうやら、全ての学校がVRで同じように見せているみたい。それに、ここから見える木造6階建は見応えがあるほど巨大な建物。


 森を抜けて建物の中に入ると、誰かが助けを求めている。


「誰か助けて!」


 金髪の大柄な男が、嫌がる女性の手を取って離そうとしていない。周りには多くの人が居るのに、見ているだけ。それに彼らは少し、怯えているようにも見える。

 白いヘビが再び現れて、首を縦に振っている。初めてヘビと意見が一致して、俺は嬉しくなって全速力で走った。


「誰も助けなんて来ないよ!

 いいから、またオレの彼女になれよ」


「嫌です!」


 近くに行くと、オレは男に優しく言う。


「離してやりなよ。嫌がっているだろう」


「何だと!

 お前、ここが始めてみたいだな」


 フレイア達がオレに追いついて大柄な男に言う。


「ジュリアを離しなさい、マイク!」


「なんだ、フレイアじゃねえか。

 お前がオレの彼女になっても構わないぜ」


 そう言ったマイクはジュリアを離すと、フレイアを捕まえようと手を伸ばす。

 オレはとっさにその手を払った。


「何すんだ、お前!

 俺に、喧嘩を売っているのか?」


 オレは無性に腹が立ってくる。この訳のわからない世界にみんなが放り込まれたのに、大柄を利用して人を思い通りにい動かそうとしている。


「そうだと言ったら、どうするんだい?」


 横にいたフレイアが慌ててオレに言い始める。


「マサト、止めて!

 マイクは空手3段で、貴方では太刀打ちできないわ!」


 マイクはオレとフレイアの間に入ると、怒りをぶつけるように言い出す。


「もう遅いんだよ! マサトとかいったな。この手袋を拾いなよ」


 そう言うと、マイクはゲーム画面を操作して、白い手袋をオレの前に落とした。


「マサト、それを拾わないで!

 それは決闘の為の白い手袋。それを拾ったらどちらかが気絶するか、参ったと言うまで決闘が止まらないわ!」


 フレイアが心配するのは分かるけれど、この筋肉バカ……。

 って、言いそうになった。悪い言葉を使ってはいけないと、オレを生んでくれた母さんの遺言だったのを忘れる所だったよ。

 でも……、今の場面にピッタリすぎて、他の言葉が思いつかない……。


「オレにビビって、動く事も出来ないのか?

 それじゃ、遠慮なくフレイアを連れて行くぜ」


 それを聞いたオレは白い手袋を拾ってマイクに投げつけた。マイクはそれを空中で素早く受け取ると、薄気味悪く笑い出した。


「あははは。お前、何をしたのか分かっているのか?

 オレ様と決闘するんだぜ。

 決闘方法は、手袋を拾った方が決める事になっている。で、どれにするんだ。あぁ?」


「もちろん素手さ」


「お前、フレイアの言ったのを忘れたのか?

 俺は空手3段なんだぜ。瞬殺でお前をぶちのめす事だって朝飯前さ」


「つべこべ言う暇があったら、かかって来いよ。筋肉バ〜カ」


 母さんごめん。今回だけ許して下さい……。


「このやろう!」


 猛突進してくるマイクを、オレは八極合気の技の連続で軽くいなして、空気投げでマイクを投げ飛ばす。そして、気絶するだけの足浸透勁そくしんとうけいでマイクを踏みつけにしてとどめを刺した。

 その間、およそ5秒。

 マイクは白目をむいて、口から泡を吹いている。


 ゲーム画面が突然現れた。


「この決闘、マサトの勝ち。

 1億7千5百万ペルがマイクから入金されました」


 え……? ペルが入金されたって、マジで……?


 フレイアが驚きながらオレに近づいてくる。


「マサトは、どうして私と同じ技を使えるの!?」


 えーと、何て答えようか……?

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