レベル12

 眠れない……。


 シャワー室で会ったフレイアの事を思うと、身体中が熱くなり目が醒めるばかり……。寝るためには他の事を考えないと……。

 強制的に明日からの旅に意識を向ける。


 朝日区のボスを倒しに行くまでにいくつかのクエストができる。道中なのでわざわざ遠回りする必要もないし、オレとクレオの戦闘訓練にもなる。


 電車などの交通機関は狭い空間に魔物が出ると危険なので歩くしかない。というか、電車は運行していない気がする。そう考えると1日では行けないのでインターナショナルハイスクールで一泊した方がよさそうだ。

 それから、……




「マサト朝よ。ご飯を食べたら出発するんでしょう?」


「母さん……?」


「マサトは寝ぼけているの? 今の私はクレオでしょう?」


 ……?

 あ、そうだった。夜明け前まで起きていたので……。


「昨夜、あまり眠れなくて。エリーは?」


「朝シャンに言ったわよ。女の子の身だしなみだって言って。

 マサトが正解だったわ。今朝起きたら身体中が筋肉痛。床で寝たような痛みが残っているのよ。

 これからはマサトの意見も尊重するから、よろしく!」


 マサトの意見も……?

 それって、全面的にオレを信じてないって事?

 でも、仕方ないか。父さんが亡くなってからは、クレオ1人がオレとエリーを養っていたし。クレオから見ればオレはまだ半人前なのかもしれない。


 あ、そうだ。サラに朝ごはんをあげないと。

 画面を操作して、生きている芋虫を出した。まだ飛べないサラを膝の上に置くと、オレは1匹ずつ芋虫を食べさす。


「ピィー、ピィー」


 サラは芋虫を食べ終わると、元気な声で鳴いた。

 頭を軽く撫でると、サラはまぶたを閉じて気持ちよさそうにしている。


 エリーが朝シャンから帰ってきて、よからぬ噂を聞いたと言い始める。


「昨夜遅く、シャワー室で覗きがあったみたい。近くに泊まっていた人達が言っているのを聞いたわ。

 マサトが入っていた時に、怪しい人物はいなかった?」


 ……、オレだよ。


 フレイアが大声を出したから、近くで寝泊りしていた人達に聞こえたんだ。フレイアとの約束もあるけれど、本当の事は言えない……。


「いや。怪しい奴は誰も見なかったよ」


「これから犯罪が増えそうね。

 警察に連絡しようとしても画面からは繋がらないし。そもそも、警察が機能しているかどうか……」


 クレオがそう言った。

 警察が機能していない可能性の方が高い気がする。魔物を殺すにはゲーム内での武器か、包丁などのナイフ系が必要だから。


 と言うか。オレが犯罪者みたいになっているんですけれど……。


「フレイアが『あ、美味しいじゃん』で既に待っているかもしれないから、そろそろ行くわよ」


 フレイアが……?


「フレイアが待っているって、どう言う意味クレオ?」


「私が朝早く連絡して、ボス攻略に誘ったのよ。彼女、喜んで同行しますって言ったわ。

 二人ともそれでいいわよね?」


 事後報告かよ……。

 エリーはオレの顔をチラッと見て言う。


「私は……、賛成かな。マサトもいいわよね?」


「同じ部屋に泊まる可能性があるのに、どうするの?

 オレ、男なんですけれど?」


「それは予め聞いたわ。マサトだったら構いませんだって。

 信頼されているわよ、マ・サ・ト」


 そう言う問題ではない気がするんだけれど。

 昨夜の事をやっと忘れかけていたのに……。毎夜、寝不足になる気がする……。


「いいよ、それで……。

 彼女、オレより戦力になるのは間違いないから」




 旅じたくを整えて『お、美味そうじゃん』に行くと、既にフレイアは座って待っていた。

 3人の男達が離れた所からフレイアの方を見ており、肘を突きあっている。


「お前行って、話してこいよ」


「お前が行けよ。彼女美人すぎて俺は話せそうにない」


 どうやら彼等は、フレイアをナンパする相談をしているみたいだ。

 オレ達は彼らの横を通り過ぎると、クレオがフレイアに声をかける。


「おはよう、フレイア。

 かなり待ったの?」


「皆さん、おはようございます。

 私もさっき来たんですよ」


「おはようございます、フレイア

 寝袋持っているんだね。昨夜は寝袋で寝たの?」


 エリーが、アレイアの荷物を見て言う。


「気持ちよさそうなベットだったんですけれど、怪しいので寝袋で寝ました。誰か直接ベッドで寝たんですか?」


 オレの方を見たフレイア。

 手を振って、お互い朝の挨拶をする。彼女の目線が泳いでおり、何かしら恥ずかしげ。

 昨夜の事をやはり気にしているみたい。


 オレはクレオを指差した。


「クレオが直接ベッドで寝たんですか?

 それで、どうでした?」


「身体中が痛かったわ。

 マサトが忠告をしてくれたんだけれど、余りにもフッカフカのベッドだったから騙された。

 老いては子に従えって言うけれど、今朝は痛いほど骨身にしみたのよ」


 その言葉って、オレに言ったのと随分と違う気が……。


「クレオさんは、まだまだ若いですよ。

 それに、マサトは正確な判断をするんですね」


 そう言ったフレイアはオレを見て微笑む。

 彼女の笑顔に、オレは思わず微笑み返していた。


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