レベル11

 ペッパーさんの言葉に甘えて、夕食を『お、うまそうじゃん』で食べた。一風変わった食堂の名前を付けたのは奥さんのビーツさん。みんなに少しでも美味しい物を食べてもらって、元気になってもらいたいからだと教えられた。


 旦那さんのペッパーさんが元オーナーシェフだけあって、どれも美味しくてオレはつい食べ過ぎてしまった。

 食材はロボットが配達してくれ、これらは本物の食べ物だと言われて妙に納得がして安心する。


 予約していた宿屋に行くと、想像通りの古めかしい中世の部屋だった。けれど、どう考えてもこれらはVRで見せているだけだと確信。オレはイグサのベッドの上に寝袋を広げた。


「マサト、何しているの?

 こんなにフッカフカのイグサのベッドなのに……?」


 家族なので同じ部屋に寝るんだけれど、クレオはオレの行動が不思議らしい。


「ここは元々教室なので、何もない空間にベッドを置いているのが見えているだけなんだよ。フカフカのベッドに見えたり感じたりしているけれど、実際は床に寝ることになる。翌朝、身体中が痛くなりそうなので予め寝袋で寝ようと思って」


「それは考えすぎよ、マサト。

 ロボットがきっとベッドを持ってきているわ。私はこのまま寝るわよ」


 エリーを見ると考えるようにオレとクレオを交互に見ている。


「マサトの方が、正解な気がしている……」


 エリーはそう言うと、家から持って来た寝袋を広げ出した。


「いいわよ、二人とも……。明日の朝になればどちらが正しいかわかる。

 それよりもう遅いから、シャワーに入って寝るわよ。明日の朝は早くここを立つんでしょう? ペッパーさんと話をしていたら、すっかり遅くなってしまったし」


「もう少ししてからシャワーに入るよ。

 この子に、今日最後の餌をあげないといけないから」


 床に寝ているスカンク系の使い魔に、クレオはシャネと名前をつけた。シャネに香水を買ってきて、いい匂いにが体から出るように付けてあげていた。

 やっぱり少し気にしているみたいだ。


「シャネは寝ているから私はシャワーにいくけれど、エリーは一緒に私と行く?」


「ハヤビも寝ているのでクレオと一緒に行く」


 エリーはそう言って、クレオの後を追っていった。

 一人残ったオレは赤い鳥に生きている芋虫をあげる。ヒナの餌である芋虫は画面から購入できるので便利だ。


 ヒナの名前を色々と考えてはいるんだけれど、どれもしっくりとこない。


「名前を付けてあげたいんだけれど、今から能力は分からないよな?」


 オレがそう言ったら、ヒナはそれに答えるかのように口を開ける。そして、お腹の中から何かを吐き出すように一生懸命頑張っている。


 ポォ。


 なんと、口から小さな煙を吐いた……。

 小さな煙だったけれど、間違いなく煙だ!


 とういうことは、この子は大きくなったら炎を吐くのか?

 鳥が炎を吐くなんて……。

 でも、煙を吐いたのは間違いない事実だし、それに見合った名前が必要だ。

 色々考えて、この子にサラと名前を決めた。炎の精霊サラマンダーの最初の二文字から取った名前だ。


「お前の名前は、サラに決めたよ」


「ピィーーー!」


 サラは喜んでいるようで羽を活発に動かしている。

 名前も決まったし、シャワーに入って寝ないと明日の朝は早い。寝袋の上にサラを移動させると、お腹いっぱい芋虫を食べたサラはすぐに瞼を閉じた。


 男性シャワー室に繋がる脱衣所にはいると、こんなに遅い時間なのに誰かが使っていた。古い脱衣カゴに服を脱いで置いていくと、白いヘビが再び現れた。


 今度は首を横に振っている……。

 今日だけで、三度も姿を表している白いヘビ。一体こいつは何者だ?


 それに、今回はとても妙だ!

 ここには魔物がいるわけでも無いし、かといって何かを買うわけでも無い。オレの行動をやめさせようとしているみたいだけれど、皆目見当がつかない……。


 考えても仕方ないのでオレはシャワー室に入る古い引き戸を開けた。目の前に誰かが立っており、湯煙の中で向こうもこちらを見ている。


「キャーーーーーーーー!!」


 よく見るとフレイアで、彼女は悲鳴をあげながらオレを八極合気の技で投げ飛ばした。

 彼女に触ってもいないのにオレは空中に浮かんで、シャワー室の床に落ちる。しかし、受け身と流れるような動作でオレは片膝を付いていた。


 ピシャァーーーー!!


 引き戸のドアが勢いよくしまる。


 まさか……、ここにフレイアがいるなんて!?


 ドアの向こうから彼女が悪態を言い始めた。


「マサトの、ちか〜〜ん! 変質者〜〜! 覗き魔〜〜! 悪者〜〜! 悪魔〜〜! 友達解除してやる〜〜!!」


 ちょ、ちょっと待ってくれよ。

 フレイアは、何か勘違いしている……。


「フレイア、よく聞いてくれ!

 ここは、男性用シャワー室なんだけれど……」


「え……?」


 しばらくたって、やっと言い始めたフレイア


「それ、本当なのマサト?」


「もしかして、フレイアは漢字が読めないのか?」


「読めない……。

 宿屋の人に教えられた通りに、ここに来たんだけれど?」


「女性用はこの反対側にあるんだ。

 宿屋の人は、まさかフレイアが漢字を読めないと思っていなかったのでは?」


 着替えの音が聞こえているけれど、返事がない。

 音が止むとドアの向こうからフレイアが言う。


「ごめんなさい、マサト。

 今夜の事は、誰にも言わないで……、お願いだから。

 クレオとエリーにも」


「もちろん言わない。だから安心してくれ」


 少し間があって、フレイアが言う。


「何かあったら、私をお願いします」


 フレイアは恥ずかしそうにそう言って、脱衣所から出て行った。

 彼女が言った最後の言葉が引っかかる。


 どう言う意味だ……!?

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