レベル5

 オレの部屋にいた灰色狼を殺すと、着替えを済ませて画面の中から武具を探す。試着を繰り返し、やっと納得がいった武具を装備して居間に戻って行く。


 すると、オレは目を疑うような光景を目にした。それは真っ赤なビキニを着ているクレオが、ヤリを持って立っていたからだった。


「どう、マサト似合うでしょう。エリーは反対したけれど、動きやすいし防御力が高いのよ、これ」


 に、似合っているけれど……、まさかこれを装備して町に出るのか? この装備だと、若い男どもが更にクレオに集まって来る気がすんだが?

 何とかしてクレオを説得して、普通の装備に変えさせないと。


「似合っているけれど、クレオ。真夏の太陽の下で、これから中学校まで移動するんだけれど……。

 そのう……、日焼け、するよ」


 クレオはそれを考えていなかったみたいで、目が点になった。


「あ、そうか。それもそうね。

 それだったら、さっきエリーが勧めてくれた方にするわ」


 クレオは画面を出して操作を開始する。突然ビキニが消えて下着姿になったクレオ。オレはすぐに後ろを向いた。


「ク、クレオ。息子の前で下着姿にならないでくれ」


「なに慌てているのマサトは。家族だから問題ないでしょう? それに、時々私の下着姿見ているじゃない」


「あ、あの〜〜、母さん。

 母さんがお風呂から下着姿で居間を通るから目に入るんだ。目の前で下着姿にならないでくれ。頼むから!」


「分かったわよ、マサト。もうしません。

 それよりマサトは、私の事、母さんって呼んだわ。クレオちゃんって呼ぶの忘れているわよ」


 ……。

 わ……、忘れていた。でも、クレオちゃんって、息子のオレが言える言葉ではない気が……。


「しっかりしてよ、マサト。

 えーと、これでいいわね。もう振り向いていいわよ」


 今度もクレオは、露出度多めの防具を装備していた。エリーと同じような感じで動きやすいみたいだ。さっきのビキニ型よりはマシなので、妥協するしかない……。


 エリーはオレに白い歯を見せて笑っている。まるで、さっきの会話を楽しんで聞きましたって顔だ。少し腹がたつけれど、何も言い返せない。


「今の内に朝ごはんを食べながら、今後の計画を話そうよ」


 オレはそう言うと、キッチンに続くドアを開ける。

 母さんがため息を吐きながら言う。


「そうね……。とにかく、朝ごはんを食べない事には戦ができないわよね。エリー、手伝ってくれる。マサトは情報収集をお願い」


「分かったよ、クレオ」


 ゲーム画面を呼び出して正式発表がないか確かめると、1つだけあった。題名は『新しいフィールドが追加されました』と。ファイルを開くと、世界地図が表示される。


 これって……、もしかして……、世界中がゲームのフィールドになったって事……?

 ボスを示す無数の赤い点滅があり、殆どが赤いフィールドになっていた。


 そして、その下にはゲームの参加人数を表示されており、その数に驚いた。


「71143476人」


 しかもその数は急激に減っており、今まさに、人が死んでいる事を示していた。


 ドォッゴォ〜〜〜〜ン!!


 そう思った途端、家の前で何かがぶつかった大きな音がした。


「クレオ、オレ見てくるよ」


「気をつけてマサト!」


 オレは玄関に移動して覗き窓から外を見ると、向かいの家に車が突っ込んでいる。車の中には血だらけで動かない人が乗っているのが見え、近くには灰色狼がうろつき廻っていた。


 この騒ぎで家の中から誰も出てこないのは、おそらく死んでいる可能性が高い。向かいの家には老父婦が住んでいたので、灰色狼に抵抗できずに亡くなったんだ……。


「どうなっているの、マサト」


 すぐ後ろからエリカが声をかけてきた。


「脅かすなよ、エリー。

 車が佐藤さんの家に突っ込んだ音だった。車の中にいた人は死んでいるし、佐藤さん夫婦も亡くなっているみたいだ。

 それと、灰色狼が集団で外にいる。人を見つけると殺しているみたいで、うかつには外に出れない」


 エリカは小刻みに震え出し、オレを見つめ涙を流し始める。佐藤さん夫婦が亡くなったのがショックだったみたいだ。


 オレ達兄妹は、佐藤さん夫婦には近所づき合いで親しくしてもらい、家にお邪魔した事も何度もある。オレは震えるエリーを両手で抱き寄せ、強くハグした。エリーは両手をオレの後ろに回し、ギュッーとする。


 しばらくして、エリーが小さな声で言う。


「兄さんの心臓の音がきこえる。

 トックン、トックンって」


「生きているからな」


「兄妹で、何〜〜イチャイチャしているの?

 朝ごはんできているんだから、早く食べるわよ!」


 クレオがローカの向こうから大きな声で言った。エリーが小さな声でオレに言う。


「佐藤さんの話は、朝食が済んでからクレオに話そうよ。そうしないとクレオ、落ち込んで食欲が出ない気がするんだ。お父さんが一昨年亡くなったのに、佐藤さんご夫妻が亡くなったと知れば、クレオ落ち込むのは間違いないから。

 それと、マサトって意外と頼りになるんだね」


「え……? そうか?

 さっきの話は了解した。別の話を先にするよ」


 オレがそう言うと、エリーはローカを駆け抜けキッチンに入って行った。



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