レベル6


「可愛い〜〜。真っ白い猫だわ」


 中学校に行く途中、狭い路地に猫が現れて愛嬌のある動作でこちらを見ている。オレとエリーが止める間もなく、クレオは猫に近づいた。


 シュゥーーーー。


 猫はクレオに痺れの毒を吐いた。クレオはその場に倒れ、痺れの毒で手足が痙攣している。オレとエリーは息を止めてクレオに近づくと、逃げ足の速い猫は逃げて見えなくなった。


 エリーが画面を呼び出して万能薬をポチると、辺りが黄緑色に光りクレオは動けるようになる。エリーが怒った顔になって言う。


「お願いだからクレオ、可愛い魔物には近づかないで!

 あの手の魔物は、誘って攻撃をしてくるんだからね!」


「わ、分かったわよ。もうしません。エリーが持っている使い魔になるかなって思って……」


 それで追いかけて行ったんだ、クレオは……。

 エリーは鷹の使い魔を育てており、今は空を飛んで広範囲に魔物が居ないかを偵察している。でも、狭い路地いる魔物は見つけにくい。


 エリーがさとすようにクレオに言う。


「使い魔は、人間が選べないんだよクレオ。

 専門の店に行って、魔物が人間を選ぶんだからね!」


「な〜んだ、早く言ってよ。可愛い魔物を捕まえたら、使い魔にできると思ったのよ」


 フゥ〜〜。

 この先、クレオがトラブルを繰り返す気がしているのはオレの思いすぎか……?


「ちょっと待って。

 あれ……、人……?」


 クレオが指差す奥の方に、長い包丁を持った若い女性が必死になって灰色狼と戦っているのが見える。女性の後ろには、その人の子供らしき小さい子が怯える様にうずくまっている。


「マサトとエリー! あの人達を助けてあげて!」


 オレとエリーがすぐに飛び出すと、剣とヤリで灰色狼に襲いかかる。オレ達は、あっという間に灰色狼を殺す。


「た、助けてくれて、ありがとうございます。

 マイ、怪我はなかった?」


 女性はオレ達に礼を言うと、女の子の体を撫でる様に怪我がないか確認している。女性は怪我をしており、数カ所から血が流れ出ている。エリーが女性に言う。


「怪我をしているわ。治療のアイテムを持っているので、すぐに治療しますよ」


「え……? 治療のアイテム?

 それよりも、夫が狼に襲われて大怪我をしているんです。家のどこかにいるはずです。

 お願いです、夫を助けて下さい」


 治療のアイテムとエリーが言ったから、女性は戸惑ったみたいだ。とにかく、家の中にいる人を先に助けないと。


「分かりました。その人は家の中ですよね」


「ありがとうございます。夫をよろしくお願いします」


 子供が家の中に一人で入って行きそうになったけれど、マイちゃんの母さんが止める。


「イヤダァー。とうさんのとこにいく〜」


「マイ! お姉ちゃん達と一緒にいないと危ないのよ」


 マイちゃんはオレ達の顔を見て、信頼できる奴かどうか見ている。ゲームの世界で戦うための武装をしているので、子供から見たら超、超〜〜怪しい奴らに映るかもしれない。


 オレは白い歯を見せ、作り笑いを無理にして言う。


「お兄さんの名前はマサト。マイちゃんのお父さんを助け出すから、一緒に行こうよ」


 ゲームの名前を言ったけれど、今の状況にはシックリと馴染む。

 マイちゃんはマジな目でオレは見ている。オレもマジな目でマイちゃんを睨み返す。


「マサトにいちゃん、おねがいします」


「任せてくれ、マイちゃん」


 マイちゃんはペコリと頭を下げて、お母さんの側に行って手を繋いだ。小さい子供から頼まれるのは初めてで、悪い気はしない。

 オレ達は家の勝手口に入って中を覗くと、魔物は居なかった。靴を脱ごうとしたけれど、今は緊急時なのでそのまま中へ。


 経験豊富なエリーが指示をだす。


「クレオはここでマイちゃん達と一種に待ってて。魔物が現れたら、画面から私達に緊急連絡。家から来る時に説明したグループを作ったから、マサトと私に緊急連絡が届くから。

 マサトは二階を見て。10匹以上灰色狼を殺しているから、一人でも大丈夫と思う。

 気をつけて、マサト!」


 エリーがオレを心配しているけれど、灰色狼なら全然問題ない。問題なのは、剣で殺すのに慣れてないだけだ。


「わかった。気をつけるよ」


 オレはそう言うと、二階に上がる階段に移動。

 二階に続く階段を登り始めると、壁の穴から小さな白い蛇が顔を覗かせて、オレを見ながら顔を横に振っている。

 一瞬、魔物かと思ったけれど攻撃してくる気配がない……。何だろうと思って剣を構えると、白い蛇は跡形もなく消えた。

 そして不思議なことに、小さな穴まで消えている……。


 さっきのは何だろうと思いながら階段を再び登り始めると、踊り場から突然灰色狼が鋭い爪を出して飛びかかってくる。オレは不意を食らって、灰色狼と一緒に階段の下に転げ落ちた。剣を落としてしまって混戦になったけれど、首を捻じ曲げて殺した。


 キズが数カ所あり、そこから血が流れ出ている。画面からメディを呼び出してポチると、キズと痛みが消えた。


 フゥーー。

 踊り場の陰から襲ってくるなんて、オレは油断したみたいだ。もっと慎重にならないと。

 それにしても、さっきの白い蛇が忠告してくれたのか……?


 階段を登り切ると、部屋のドアが2つある。右側のドアが開いており、人の足が見える。今度は慎重に部屋に入ると、魔物はいなかったので倒れている人に近寄った。

 脈拍を調べると、生きているのが分かって一安心。しかし、明らかに重症で、畳の部屋は血の海だ!

 オレはすぐに画面を出して、メディを使ったけれど、何の反応もない。すぐにエリーだけ画面を使って緊急連絡。エリーはすぐに階段を駆け上がって来た。


「この人まだ生きているんだけれど、メディを使ったけれど反応が無いんだよ。エリーの言っていた、超強力な回復アイテムなら何とかなるのか?」


「そうね。マサトの言う通りだわ。

 二つしか持っていないけれど、メディダを使うわ」


 治療アイテムの中では死んだ人以外は元に戻せるという貴重なアイテム。エリーは迷う事なくメディダを倒れている人に使った。


 部屋中が眩い緑色の光に包まれて目を開けられない程になる。しばらくすると光は消え、血の海だった部屋も綺麗になっていた。

 倒れている人が目を開け、長い包丁を持って立ち上がった。夢でも見ているかの様にオレ達を見ている。


「奥さんとマイちゃんは無事ですよ」


 オレはそう言うと、男の人は笑顔になって言う。


「あ、ありがとうございます。

 ……、私は狼に襲われ、大怪我をして倒れた記憶があるのですが……。不思議な事に傷が治っているし、血の跡も無い……」


「詳しい話は、歩きながらお話します」


 クレオの所に戻ると、意味ありげな笑みを浮かべてオレを見ている。どうやら、白い猫に近寄ったから、この人達が助かったとでも言いたげだ。

 これで、クレオの行動に歯止めが効かなくなり、逆に拍車がかかりそう……。


 マイちゃんの両親にゲーム説明をして、親子3人に初期装備をしてもらった。両親のゲーム内での名前は、お母さんがビーツで、お父さんがペッパー。お二人とも好きな食べ物と調味料を名前にしたと言っていた。マイちゃんは、誰もその名前を使われてなかったので、マイで登録した。


 それからオレ達は、魔物を殺しながら無事に中学校に着いた。しかし、予想外の光景に息をするのも忘れる程だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る