レベル4

 ザッシュ。


 生まれて初めて剣を振って狼に傷を負わせた。しかし、狼の皮を切っただけで、致命傷にはなっていないみたいだ……。

 もう一度剣を振ったけれど、狼に上手くけられる。更に剣を数度振って、ようやく仕留める事ができた。


「兄さんも一応は男だったみたいね」


 後ろから意味ありげに言うエリカ。オレが1匹に手間取っている間に、妹は狼を2匹殺したみたいだ。


「今初めて剣を使ったんだ。始めから上手くはいかないさ」


 剣を使わない方が、素早く狼を殺せたとは言えなかった。根掘りは葉ほり聞かれると面倒だと思ったので……。


 家の外からは狼の声が聞こえる。声からすると、さっきと同じ灰色狼。どうやらゲームと同じで、安全地帯に行かない限り魔物達がリポップするみたいだ。

 ま、灰色狼だったら問題はなさそう。


「母さんとエリカ、よく聞いてくれ。

 理由は分からないけれど、ゲーム内の仮想空間と現実の空間が融合したみたいなんだ。


 さっきの狼はゲーム内で現れる魔物だろう、エリカ?

 弱いけれど、防具と武器を持っていなければ命を落とすと昨夜言っていたよな。

 おそらく、母さんもゲーム画面が表示されると思う。試してくれないか?」


 半信半疑の目でオレを見ていた母さんは、手の動作で画面を呼び出した。そこに現れたのは通常の画面ではなく、予想通りゲーム画面だ!


「いつもと違う画面になっているわ。正和の言うゲーム画面がこれなの?」


「母さんのもゲーム画面になっている。それなら、話がはやいよ。その中から、友達の項目を押してくれる、母さん」


「えーと、これね。それでどうするの?」


「エリーとマサトで検索してくれ。マサトはオレで、エリーはエリカのゲーム内での名前なんだ。友達になったら、ゲーム内での金をエリーからオレと母さんに移動させる。そのお金で、母さんとオレはもっと良い装備が買える。初期装備は防御力と攻撃力が弱いから、これから戦うには危険と思うので」


 エリカが少し考えて。


「そうね、兄さんの言う通りだわ。

 初期装備は防御力も攻撃力も弱い。これから戦うにはある程度の武具を揃えた方がいいわ」


 母さんが首を傾げている。


「これから戦う……?

 つまり、この訳の分からない状態が終わるまで、私も戦わなくてはいけないのね」


 エリカが頷いて、真剣な表情になって


「そうなると思う、母さん。

 とにかく、さっきみたいなケガを何度も繰り返していたら、命を落としかねないし……。

 それよりも、母さんは私と同じ様に薙刀の使い手なんだから、身を守るだけよりも戦う方がより安全になると思うんだ」


 母さんは決心をした様に頷くと、画面を操作する。

 しばらくすると、オレ宛に通知メールが届いた。画面を操作すると、クレオパトラと名乗る人から友達申請が来ている。もしかして、母さんのゲーム内での名前をクレオパトラにした……?

 驚いて母さんを見ると、オレに微笑んでいる。


「母さんもしかして、名前をクレオパトラにしたの?」


「ええ、そうよ。

 思いつく名前を数回入力したけれど、誰かが使っていたのよ。だからこの名前にしたんだけれど、いけなかったかしら?」


 え〜〜と……。

 ダメなことはないし、母さんは30代なのに、よく20代前半に間違われる程の美魔女。母さんが町を歩くと、ナンパして来る男が後をたたない。オレが言うのも変だけれど、母さんは本当に美人だ。


「それでいいと思うよ。

 これからは、ゲーム内での名前を呼びあうのがいいと思う。誰かの母さんが居る場合に混同するから。呼ぶ時はクレオにするから、母さん忘れないようにしてくれ」


 母さんはオレをジッと見て言う。


「クレオちゃん、って呼ばれたいんだけれどダメかしら?」


 エリカがクスクス笑っている。

 母さん……、完全にゲームに馴染んでいる気が……。


「だ・か・ら……。

 長い名前だと緊急の時、呼びづらいだろう。

 で、友達申請を受理したんだったら、エリカからお金を受け取れるよ」


 エリカが画面を操作し終わったみたいで、母さんに言う。


「母さんに、一千万ペル送ったから」


「エリカは……、一千万持っていたの?」


 母さんは驚くようにエリカを見ている。


「一億三千万ペル持っていたんだ、私。

 だから一千万ペルなんて、はした金ね」


 母さんの目が輝き始め、エリカに詰め寄る。


「そんなにお金を貯めて、何に使うつもりだったのエリカ? もしかして男性? それともハーレム?」


「母さん!! 変な想像は止めて!

 単に、最上級の武器を買う為に貯めていただけなんだから。最上級の武器は、1つでも数億ペルもするんだよ。それを買う為にお金を稼いで貯めていたんだからね!」


 母さんは肩を落として残念そうだ。


「エリカって、その年で彼氏もいないし、もしかしたらと思ってね。母親だから心配しているのよ」


 エリカがムッとなっている。

 ま、エリカがむくれるのは分かるけれど、母さんも母さんだしな……。

 とにかく、母さんには念押ししておかないと。


「母さん、俺を呼ぶ時はマサトと呼んでくれ。エリカはエリーと呼ばれている。クレオ、忘れないでよ!」


 オレは母さんにそう言うと、自分の部屋に戻って行った。パジャマの上に皮の鎧を装備しているので、これでは中学まで行けない。着替えをしに自分の部屋に入って来たんんだけれど、早速、灰色狼が2匹現れた。

 オレは剣を鞘に収めると、素手で灰色狼達を殺す為に駆け寄って行った。


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