レベル3

「だ、誰か助けて〜〜!」


 居間から母さんの声が聞こえてくる。

 オレは急いで居間に向かった。


 居間に入ると、狼が母さんを押し倒していた。オレはすぐに母さんに駆け寄って狼を引き剥がし、浸透勁気しんとうけいきで絶命させる。狼は絶命した後、さっきと同じように消えた。

 狼が消えた後には牙が現れ、それを拾おうとしたら同じく消える。ゲーム画面が再び目の前に現れた。


「灰色狼の牙1」


 明らかにこの狼達はゲーム内の魔物。

 ゲーム画面をよく見ると、灰色狼の牙が2になっていた。どうやらオレの部屋で殺した灰色狼の牙と足されたらしい。

 不思議な事の連続で……、オレはまだ夢を見ているのか……?


「痛い!」


 母さんが苦痛の声を出す。

 よく見ると、腕から血が出ている。


「母さん、大丈夫!

 もしかして、狼に噛まれたの?」


 オレはそう言って、母さんの腕をそっと掴んで血の出る箇所を見た。牙による刺し傷みたいで、歯型状から血が出ている。

 エリカに言われたのを、オレはふと思い出す。


『軽い怪我だったら、ゲーム画面から治療の項目に移動して、メデイを使う。すると、軽い切り傷や刺し傷だったら瞬時に痛みも消えるし、傷跡さえも無くなるのよ』


 思い出した途端にオレの指が動き出し、メデイを使うのをポチッていた。母さんの腕がすぐに緑色に光ったと思ったら、光は瞬時に消える。

 部屋の隅でうずくまっていた母さんに、オレは手を出して立たせた。母さんは深呼吸をすると、不思議そうにオレを見て言う。


「ありがとう、正和。

 あの狼……、どうして突然居間に現れたの? それに正和は、本物の防具と剣を持っていた……?

 もしかしてここは……、正和達の言っていたゲームの世界なの?」


 え……?


 母さんに言われて、オレの着ているものを見て自分で驚いた。ゲーム内での初期装備を身に付けていたからだ。それは皮の鎧と、腰には鉄の剣が鞘に収まっている。狼に起こされてから、緊張の連続だったので今まで気がつかなかった……。


 母さんが色々と疑問を問いかけてきたけれど、オレにもよく分からない。1つだけ言えるのは、間違いなくここは現実の世界。


 階段を駆けるように降りてきてたエリカが居間に入って来た。エリカはゲームの中で見た装備をしている。

 エリカの防具は赤を基調として、とても鮮か。ヤリは体に合わせた長さ。石付きはオリハルコンの金属で、岩をも砕くことができると言っていた。


 エリカが使っていたゲーム内でのアバターは冴えない顔で、更に大きなメガネまでしている。妹が言うには、学校で男子生徒がいつも付きまとってウザいらしい。

 エリカは美少女の部類に入るので、贅沢な悩みを抱えている。ゲーム内では、純粋に戦闘を楽しみたいらしい。


 そのエリカがオレを見ており、何度も首を傾けている。突然、母さんの方を見たエリカは不安そうに言う。


「お母さんも灰色狼に襲われたの!? 大丈夫だった!?」


「襲われたけれど、正和がすぐに来て助けてくれたわ。ケガをしたのだけれど、正和が何かをすると、緑色の光で痛みと傷が治ったのよ。あれはゲームで使う治療方法なの?」


 エリカは驚いた表情になっていく。そして母さんの体を調べ始め、血の痕跡が無いので安堵した表情になる。


 オレは確信する。 この空間は、VRの仮想空間と現実空間が融合した世界になったんだと。

 でも、どうしてこうなった……?


 手の操作で画面を出すと、ゲームで使う画面しか現れなかった。ゲーム画面の中からマップを呼び出した。マップは、オレが住んでいる家を中心に表示されている。しかも、明らかに今まで見た現実のマップとは違っていた。


 ゲームと同じ様に、危険地帯と安全地帯を色分けされているし、ダンジョンを示す場所もある。更に、そこにボスがいることを示す赤い点滅も見える。この辺りは全て危険地帯で、唯一安全なのはエリカが通っている中学校だ。


 オレの通っている高校も安全地帯だけれど、ここからだと電車に乗って行くので時間がかかる。どうやら、どの学校も安全地帯になっている。丘を越えた所にある、インターナショナル・ハイスクールも同じく安全地帯になっていた。


「グゥルルルゥー」


 突然オレの部屋から、灰色狼が3匹居間に入って来る。


「兄さん! 剣を抜いて!」


 エリカに言われて鞘から鉄の剣を抜いた。一番近い灰色狼に、オレは切りかかって行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る