4.2.2:輝くこころ
「……やったか」
仲間たちが天晶球の向こうへと消えるのを見届け、レーンは笑みを浮かべていた。
「さて、俺もこんなのさっさと片付けて追いつかないとな」
そう言いながら、天使を鎌で両断するが、今度の攻撃もダメージとはならない。
逆に天使は素早い動きで間合いを詰め、その鉤爪でザーシュラスを引き裂いた。
レーンはそれを幻影を身代わりにしてかわしたものの、ザーシュラスは少しずつ、確実に消耗を続けていた。このままではジリ貧だが、かといって突破口も見当たらない。
レーンは絶叫し、とにかく鎌を振り続ける。
「うおおおお!」
そこに雄叫びとともに、サリオとエルフィオラが加勢に入ってくれた。
二体掛かりの攻撃には、敵も回復が追いつかないようだ。少しずつ、その体が確かに欠けていく。
敵はたじろいだように一旦間合いを取り、周囲の小型の天使を招き寄せようとした。
「そうはいかない!」
レアンとガルナンドの絶叫が轟き、レアンの魔力を込められたガルナンドの攻撃が一気に回りの雑魚たちを焼き払った。
巨大天使は回復のための養分を断たれ、呆然とした様子で動きを止めた。
その一瞬の隙にレーンは巨大天使へと肉薄し、素早く鎌の攻撃を仕掛けるが、敵はあえてそれを食らいつつ、そのままガルナンドへと向かった。
渾身の攻撃の直後で消耗している、弱った敵をまず討とうという魂胆だろう。
「させるか!」
しかし、消耗したザーシュラスは思ったほどの速度で飛んではくれない。
これだけ消耗しては、オーバーライドも利かない。
焦るレーンの視界で、敵がガルナンドとレアンへと迫る。ガルナンドも最早ろくな応戦も難しい様子だ。
「いけ! 飛べ、ザーシュラス! あいつらに恥じる戦いだけはできないだろ!!」
レーンは絶叫し、ありったけのエーテルを、想いを、エンジンへとぶつけた。
その想いに応えたように、ザーシュラスの動きが変わる。
レーンはその反応に一瞬だけ戸惑いつつも、考えることは後にして、反射的に機体を敵と味方の間へと飛ばした。
戸惑いの様子を見せる敵へと、素早く鎌を振り下ろし、その体を両断する。
「ザーシュラス?」
レアンは、霞む視界に映るその姿を、そう呼んだ。
ザーシュラスが、神が、自分を救ってくれた。
いや、違う。
「レーン!」
彼の想いが、救ってくれた。
しかし、レーンもそれで力を使い果たした様子で、明らかに動きが鈍っている。
敵は補給を断たれたとはいえ、二つに分かたれた体を繋ぎ直すぐらいの余力は残っているようで、再びレーンへと爪を向けた。
レアンは声にならない叫びを上げ、ガルナンドに力を注ぐが、それは微々たるものでしかなく、ガルナンドの方ももうロクに動ける状態ではなかった。
しかし次の瞬間、黒いスパークを纏った太い光線が飛び込み、敵を貫いた。
「サリオ! エル!」
その光線は敵の大部分を飲み込み、消滅させたが、頭と右上半身の一部が残り、敵はその状態でも動き、最後の力でレーンにとどめを刺そうと襲いかかった。
「なめるんじゃねえ!」
レーンは雄叫びを上げ、それに応えたザーシュラスは一瞬だけ眩い光を放ち、敵よりも早く鎌の攻撃を繰り出し、その体を千々に刻んだ。
流石にそれで敵も限界だったようで、それ以上再生はせず、その破片もエーテルの輝きへと還元され、どこへともなく流れて消えた。
「やったか」
ザーシュラスの中でレーンは肩で大きく息をつき、状況を確認した。
厄介な敵を片付け、一件落着。……とは残念ながらいかないようだ。
いつのまにかまた無数の天使の群れがどこからともなく湧き、自分たちを包囲している。
その中では幾つかの個体が重なり合い、先ほどよりも大きな合体天使が何体も出来上がっていく。
翻って、こちら側は全員がもう限界だった。
ザーシュラスも最早機械としての稼働限界を越え、今はレーンの魔力でどうにか動かしているが、そのレーン自身ももう意識を保つだけでやっとだった。
そうしてレーンはその状況を鑑み、皮肉めいた乾いた笑いを浮かべて言った。
「……へっ、負ける気がしねえ」
どこまでも続く、白い空間。
「なんだよこれ、何にも無いぞ」
カノンが辺りを見渡し、呟くように言った。
予想していた敵の大群はおろか、文字通りに何も存在しない、絶対の虚空がただひたすらに四方八方、全方向に続いている。
機体を動かしてみても、動いている感じが全くしない。
各種観測機器も正確に機能せず、意味をなさない。
「ちょっと待って、アリルは?」
アーデルが焦ったように声を上げ、皆は改めて辺りを見渡し、アリルの姿を探した。
しかし、どこにもエンヴレンの姿はない。
ここに存在するのは、赤、橙、黄、緑、四機のミッション・エンジンとミショニスト。それ以外は全くの白い虚無だった。
「……罠にはめられた?」
ファインは悔しさに唇を噛むが、どの道何が起こるか見当もつかなかった以上、対策の立てようも無かったのだし、今更悔やんでも仕方ない。
今はとにかくアリルと合流し、どうにかしてゼオリムの企てを阻止しなければ。
しかし、その手段は糸口すらも見つからない。
時間ばかりが過ぎ、焦りばかりが募るが、時計はデタラメな数字を並べ、この空間では本当に時間が経っているのかすら不明瞭だった。
「ったく、どうすればいいんだ!」
ファインは、思わず叫び声を上げていた。
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