ハードボイルドの静かな家
「おらぁ! 見たか!」
『この見せたがりー。変態』
用心棒二人を圧倒的にブチのめした俺は、鼻高々に大威張りだ。
「由紀奈、どうだ?」
『警備員はまだだいじょーぶだよ。でも急いで』
「そうじゃない。どうだ? 俺、カッコよかったろ?」
『うっざ。いーから早くしろよ。地図出しとくから。赤い点が警備員ね。出くわさないよーに逃げて。わかった?』
「録画は……」
『わかった!?』
「はい……」
『防犯カメラ、もー生きてるから顔隠してね! 廊下、玄関、外!』
「窓から出ればいいのでは」
『あっ……そっか』
「はは、かーわいい」
『うるせー死ね』
「かーわいい」
『本当に死ね』
俺はツナギを着直すと、念のため、覆面代わりに彰子ブラを頭に被り、リュックを背負って主寝室の窓から飛び立った。
『大通りに出ればいーんだよね?』
「ああそうだ。頼む」
『おっけー、このルートでーす』
由紀奈がスマホに表示させた地図では、警備員の赤点がけっこうな速さで近づいてるのが見えたが、逃走経路の緑の表示は、余裕でそれを回避していた。まんまと警備員リスクを回避して、俺は手近な大通りに出た。この時間帯は、終電逃し客を送った帰りのタクシーが多く、車の足に事欠かない。一台捕まえ、「新宿まで」と大雑把に告げ、南麻布を後にした。ここまで来ればもう安心だ。俺は覆面を外し、スニーカーに履き替え、ひと息ついた。由紀奈はいつの間にか、ユニット越しに寝息を立てていた。
靖国通りに入ってもらい、歌舞伎町辺りで「あっ、ここでいいです」と適当にタクシーを降りた。雑踏に紛れてしまえば、これ以上の足はつかない。新宿はいい街だ。雨は止んでいた。大ガードを歩いて抜け、もう一台、タクシーを捕まえた。ここからならまあ、健康のために歩いてもいい気はしたが、俺はむしろ、早いところ家(事務所)に帰りたかった。
由紀奈への土産にアイス(ハーゲンダッツではない)をコンビニで買い、着いた頃には午前二時半を回ってた。扉を開けると、由紀奈はPCのヘッドセットを着けたまま、椅子にもたれてぐうぐう寝てた。エアコンの暖房をガンガンに利かせて、俺のシャツに下はパンツだけだ。家か。ベッドで寝かせてやりたいところだが、臭いと後から怒られたことが前にあった。応接スペースのソファに運んで寝かせ、ブランケットを掛けてやる。せっかくのアイス(スーパーカップ)は、冷蔵庫にしまっておいた。俺は戸棚からターキーを出して氷を入れたグラスにちょろっと注ぎ、由紀奈の寝顔を眺めながらぐいっとやって、そのまま床にひっくり返った。
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