ハードボイルドと彰子のブラ

 朝……じゃなく、もうほとんど昼だった。やはり頭が痛かった。あれしきの酒で情けない。由紀奈は俺のシャツのままで学校へ行ったようだ。冬服だから問題無いか。シャワーを浴びて松屋に行き、何の気なしに長居をした。特に理由は無い。ご飯の一粒一粒を数えるようにして食べた。実際に数えた訳じゃあない。家(事務所)に戻ると、やはり由紀奈がいた。

「あー淳ちゃんおはよ。ゆーべはお疲れー」

 彰子ブラを勝手にリュックから取り出して、PCの前で何やらいじくっている。こいつのいつもの定位置だ。

「何をやってるんだ?」

「パッドのけんきゅー。この極盛りは再現したいよね」

 ただでさえへの字な口をさらに尖らせて、定規スケールとノギスをあちこち当てて一生懸命だ。熱意を感じる。

「着けてみたらどうだ」

「さっき試した。やっぱすごいわー」

「もう一度着けてみたらどうだ」

「なんだこの変態エロオヤジは。あっち行けしっし」

「冷蔵庫にアイスあるぞ。土産と言ってはなんですが」

「もー食べた。ごち!」

「それで、そのパッドがあれか、何か極盛りの秘密が隠されてるのか」

「そー、たぶんそー。やーたぶんそれだけじゃないけどとりあえず手持ちので近づけよーとしたらいじれんのパッドだけじゃん? ほら、こんなんなってんだよ」

 実を言うと俺は、女性の胸のサイズは特に気にしない紳士なので、パッドがどうのとか言うのは正直どうでもいい話なのだが、由紀奈があまりにも真剣なものだから少し付き合ってやろうと思い、ふむふむなるほどみたいな顔をして彰子ブラを見てやった。カップの内側が、三次元的な複雑な形状をしているような気がした。

「たぶんねー、この、ここの当たりぐあいがいーんだと思うんだよね!」

「当てながら見ればもっとわかるんじゃないか?」

「あー、そっか。って、これあたしんじゃないし、あんまいじったら悪いよね。やーめよ。ん、なんだこれ?」

 由紀奈はパッドに突っ込んだ指で、中から何かをつまみ出した。

「なんだそれ?」

「なんかmicroSDだねー。なんだろ。見てみる?」

「ああそうだ由紀奈、ちょうどいい、俺にパソコンの使い方を教えてくれ」

「何いきなり」

「microSDの中身くらいは自分で見れるようになっとくべきかな、なんて」

「初歩の初歩じゃん。いーよ、教えたげる。こっちおいでー」

 そうして俺は、由紀奈先生にPCの使い方を教わることになった。由紀奈の隣に椅子を出し、言われるがままにブラから出てきたmicroSDをPCに挿し、ダブルクリックというものを知った。

「よくこんなのも知らないで生きてこれたねー」

「はいすみません」

 由紀奈の言う通りに、俺はそれがmicroSDの中身だというウインドウの中の、何やら黄土色をした四角いアイコンをダブルクリックした。すると、また四角のアイコンがウインドウ一杯にずらりと並び、それらは次々と写真の縮小版らしき画像に変わって――

「あっ、わーーっ! 見んな見んな見んなーーーっ!」

 由紀奈が立ち上がり、右手をモニターの前にかざしてブンブン振り、左手で俺の両目を覆って大声で叫んだ。しかし、俺も見てしまっていた。それは、あられもない姿で凌辱される彰子の写真の数々だった。縮小版でも、それははっきりとわかった。






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