第2話 母の望み

「ただいま~」美智子は夕方7時に家についた

「おつかれさま」律義に息子の敬之が迎えてくれる。優しく母親思いなのがありがたい。

「お父さんは?」朝釣りに出かけた夫の茂雄の様子を聞く美智子

「帰ってるよ、今日は全然釣れなかったみたい。カレー出来てる」茂雄は料理上手で、美智子より5歳年上の53歳だ。

「おっ、お帰り、今日は全然だったよ、カレーでいいよね」

「うん、ありがとう」家族は仲が良い、だがそれが息子が彼女を作らない理由の一つだと美智子は考えていた。

「そうだ、敬之」美智子が敬之に耳打ちした

「明日の朝10時に、相田さんからあんたのケータイに連絡あるから、相田さんの家でいろいろ話して、理想の彼女紹介してもらいな」

「ええ、ケータイまで教えたの~」

「ふたりともさめちゃうよ~」茂雄がカレーの乗った皿をテーブルに運んでいた

「は~い」美智子は嬉しそうに食卓に座った


風呂から出て敬之がテレビを観ていると、

「敬之、スマホ、ブルブル言ってる」茂雄が老眼鏡に新聞片手に言った

「えっ、そう、あれ、知らない番号だ」敬之が興味なさそうにスマホをテーブルに置き、テレビの情報番組に視線を戻した

「あれ、10時、もしかして相田さんかな、明日の朝の10時って言ってたんだけど、かけなおしてみたら」美智子がスマホを覗いた

「まさか~」敬之は見向きもしない。仕方なく美智子がかけなおした

「もしもし~」ハイテンションの相田すみれの声が美智子の耳元で響いた

「あれ、相田さん、電話くれるの明日じゃなかったかしら?」

「ああ、美智子さん、ごめんね、敬之君に頼みたいことがあって、つい電話しちゃったの」

「そう、それなら代わるわね」美智子はスマホを敬之に手渡した

「もしもしこんばんは」一応社会人らしい口調で応対する息子に母はホット胸をなでおろした

「いいですよ、いまから行きますね、それじゃ20分後に」そう言って敬之は電話を切った

「相田さん、なんだって?」美智子がすかさず聞いた

「小料理屋で飲んでんだけど、代行が捕まらないんだってさ」

「迎えに来てほしいってこと」

「そうみたい、代行代出すからって言うから、行ってくるよ。車はとりあえず店に置いといて本人だけ家まで送ってってさ」

「代行代まで出すって言われたら行かなくっちゃな」茂雄は優しい笑顔で言った

「母さんが世話になってるし、行ってくるよ」

「そうね、あんたもこれからお世話になるんだし」

「さあね」敬之は部屋に戻って着替え始めた

「世話になるって何を」茂雄が美智子に聞いた

「あの子に女性を紹介してもらうの、もう28なんだから、彼女くらいいないと」

「そうだな、俺が28の頃はあいつはもう3歳だったしな」

「そうね、あなたは結構強引だったから、あの子にもそれくらいしてもらいたいのよ」

「まあ、俺が強引だったのは母さんにだけだったけどね」二人は顔を見合わせて笑った

「それじゃ行ってくるよ」4月の夜はまだ肌寒く、シャツにトレーナーを羽織った敬之は家を出た。中肉中背、清潔感はあるが、あまり女性に興味が無く、過去に2回同級生に声をかけられたが、踏み切れず、男女交際歴はゼロ、そんな敬之が45ぽっちゃり熟女の相田すみれの待つ小料理屋に向かって愛車のワゴン車を走らせた…

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