一人旅の醍醐味、観光・食べ歩き・そして夜…

ノン68

第1話 平凡で幸せな家庭

 山田敬之 28歳、地元の高校を卒業し、近所の工場に就職し、10年が過ぎた。

父親は別の会社の工場に勤務し、母は近所のスーパーでパート勤務。建売住宅に住む平凡な家庭。父親は3人兄弟の末っ子、母親は2人の兄と2人の姉がいる。親戚は多くお年玉に苦労したことはない。そんな敬之の趣味は貯金。お年玉はほとんど銀行に預けてしまい、定期預金を入社以来コツコツと続けている。当然彼女無し。

「敬之、誰か声をかけてくれる女の人とかいないの?」休日にリビングでテレビを観ていると必ずと言っていいくらい母の美智子が口を開く

「いるわけないじゃん」敬之の素っ気ない返事もいつものことだ。

「貯金ばっかりしてないで、少しは遊んだら?」

「遊んでるよ、今だってテレビ観てるし」

「だから、彼女作って遊びに行ったりしなさいよ、せっかくワゴン車買ったんだから」敬之の最近の大きな買い物として中古のワゴン車を購入したことを美智子は持ち出した。10年物、10万キロ超えのワゴン車だ

「だから、母さんの買い物に付き合うために買ったんだって」

「それはそれで嬉しんだけど、ほら、助手席に彼女乗せてドライブとかしてみたいと思わない?」

「いや、別に」息子のノリの悪さにさすがの母も根負けした。


「母さん、仕事行ってくるね」

「ああ」

「そうだ、精肉部の相田さんが、知り合いの女性紹介しようかって言ってくれてるけど、どう?」青果部の美智子だが、気が合って年齢も近い女性を持ち出した

「いいよ、あのぽっちゃりで口うるさい人でしょ」スーパーに買い物に行くたびにその女性は敬之に声をかけてきた。

「だけどね、紹介とかが一番いいんじゃない、きっかけとしては」

「結構です」息子の言葉に母はため息をついて家を後にした


「相田さん、ちょっといい?」休憩時間に美智子は相田すみれに話しかけた。

「あら山田さん、どうしたの」気さくな性格で声も大きい

「あのね、この間、家の敬之に誰か紹介してくれるって言ってたでしょ」

「ああ、あのことね、いいわよ、近いうちあたしの家に来させてよ、いろいろ聞き出して、敬之君にピッタリの女性紹介するから」

「ほんと、助かるわ」美智子はホッと胸をなでおろした。相田すみれは、スーパーの社員でバツイチ、女子高生の娘がいるが、気さくな性格で顔が広いと評判だ。

「そうだ、敬之君のケータイ番号教えてよ、明日あたし休みだけど、敬之君も休みでしょ」

「ええ、どうせどこにも出かけず家でテレビ観てるから」美智子は敬之のケータイ番号を書いたメモを渡した。

「敬之君にも言っておいてね、10時ごろ電話するわ」

「ええ、よろしくお願いします」美智子は深々と頭を下げた。彼女が一度も出来たことのない息子を思う母の気持ちが表れていた。




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