18.不条理の条理

 チイは――チイの姿をしたは、わずかに首をかしげて廊下に目をやる。

 勢いよくサーヤが駆け込んできた。少し遅れてタミーたちもやって来る。リビングに電灯が灯るのが突入の合図だった。追い詰めた文字喰いを、逃がさないための措置だ。


 これで、リビングに生き残りが揃ったことになる。判明した文字喰いの正体に、それぞれ驚きを隠せないようだ。


「本当にチイだ……」


 説明を受けても半信半疑だったタミーが、喉を震わせたかすれ声でつぶやく。

 その気持ちは、理解しているつもりだ。チイの死亡は、全員が確認した。遺体に不審な点は見当たらず、平然と活動していることが異常事態と言える。僕も内心信じがたい思いでいっぱいになっている。


 でも、文字喰いはヒトではない。教授の書き置きにあった、『ヒトと似た姿をしているが、ヒトではない』という言葉がすべてなのだと思う。不条理な存在を、僕たちの常識に当てはめようというのが、そもそも間違いなのだろう。


「チイ、本当にあなたが文字喰いなの?」

「チイさん、ねえ、チイさん――」


 ユアさんとマッキの声を無視して、文字喰いは感情を排除したうつろな顔を僕に向ける。

 人は表情一つで、ここまで印象が変わるのかと、背筋に冷たいものが走った。チイと同じ顔をしているが、それがチイではない別物であると感覚的に悟る。


 チイとして活動していた時分は、人間のフリをしていたわけだ。恐ろしいことに、最後まで誰も正体を見抜けなかった。


「どうして、わたしが文字喰いだと気づいた?」


 文字喰いの声は、チイと同じ声色をしている。まるでチイに話しかけられているようで……胸が苦しい。


「教授が残した書き置きに、すべて示されていた。カギとなったのは名前だ。あの書き置きには、教授自身も含めて参加者の名前が隠されていた。友人の娘であるサーヤだけは、一文字も入ってなかったけどね」


「そこまで、気を使わなくていいのに……」と、サーヤが小声でぼやく。危険にさらしたくないという教授の気持ちは充分理解できるが、サーヤのみ名前が文章に含まれていないことが、解読の妨げになったのも事実だ。


 とにかく全員の名前を知っていることが、文字喰いを見つけ出す条件だった。化けた人間の名前を消してしまうと、自壊する文字喰いの性質を逆手にとって、その証拠を文章に忍ばせたのだ。


「僕の場合は、『日』と『文』が書かれていた。他の参観者の名前も、分解されて文章に混じっていた。不可解に思える文章や漢字使いの理由は、ここにあったんだ」


 現状わかる範囲では、各々二文字ずつ名前の漢字が書き置きに散りばめられている。如月一真(カズマ)は『如』と『一』が、田宮道明(タミー)は『田』と『明』といったふうに。

 教授が仕掛けた法則がわかってしまえば、文字喰いを見つけるのは簡単だった。


「つまり消されていない文字を持つ人物が、文字喰いというわけ。あなたが名前に関わる持ち物を処分したのは、そのためなんでしょ」

「まさか、あの書き置き一枚でわたしにたどり着くとは誤算だ。あれは残すべきじゃなかった」


 正体を知ると、これまでわからなかった謎も自然と解けていく。

 密室だったチイの部屋から、カード類を持ち出せたのも本人が文字喰いなのだから疑問の余地はなかった。死体に擬態すれば、自分に疑いはかからない。


「僕たちの名前を事前に知ることができたのは、やっぱり……カズマさん?」

「ああ、ちょっと愛想よく接してやっただけで、簡単にペラペラとしゃべってくれた」文字喰いは軽く肩をすくめてみせる。無表情のままなので、人間的な動作がひどく不自然に映る。「自分が何者かってことも、教授が文字喰いを調べているってことも、あっさり教えてくれた」


 いまになって思い返すのは、カズマの整理された部屋だ。女性を招き入れる前提なら、いろいろと腑に落ちる。相手はもちろん彼が狙っていたチイにつながる。

 文字喰いなんて不条理な存在を、いきなり信じろというほうが土台無理なことは重々承知しているが、それでももう少しカズマに警戒心があったなら、また違った結果になったことだろう。


「まったく、こんな子供に暴かれるとは思ってもいなかった」


 どういうわけか正体を知られて追い詰められているというのに、文字喰いから切迫したものは感じなかった。元々人間と違って焦りなど認識しない不条理な存在だとも考えられたが、それだけではない余裕すら漂っている気がしてならない。


 僕のほうが、少し焦りはじめていた。が微妙に狂ってきている。

 そんな僕の心情を読み取ったように、文字喰いはうっすらと笑みを浮かべた。顔つきに表情が生まれたことで、文字喰いとチイが重なる。


「さて、これからどうするの?」


 口調までチイに寄せてきた。胃の辺りがムカムカと刺激される。


「どうするって……」と、不安を宿らせた視線を、サーヤが投げかけてきた。

「わたしが文字喰いだとして、だから、どうしたっていうの。警察にでも突き出す? それとも殺してしまう?」


 僕は声を詰まらせて、思わず目をそらしていた。その点について、考えなかったわけではない――人間ではない存在を、人間の法で裁くことはできるのだろうか。死を擬態できる存在を、殺害することが果たしてできるのだろうか。


 唯一文字喰いを撃退する方法は、名前の文字を喰わせることだが、その課題は現状困難を極める。

 文字喰いはわかっているのだ。僕たちが追い詰めたところで、それ以上手出しできないことを。


「あ、あんたを倒す!」


 カッとなったサーヤは、いきなり文字喰いに飛びかかった。こんなことは、僕の計画にはない。

 突然の暴走に文字喰いも面食らったようだが、もみ合った末にあっさりと返り討ちにする。のしかかってきたサーヤをいなし、背後から首に手を回してを取り押さえていた。

 腕で喉を締めつけられて、サーヤは苦しそうに顔を歪める。


「凶暴なガキだ。こんなことをして、なんになる」

「うっさい、バケモノ……」


 首を絞められながらも、サーヤは悪態を止めなかった。裏を返せば、文字喰いに彼女を痛めつける意思はないということかもしれない。


「まあ、ちょうどいい。お前には人質になってもらうぞ」

「ふざけんな、そんもんになるか!」捕らわれた不利な状況だというのに、サーヤは一切気にせずもがき暴れる。「フミくん、わたしのことはいいから、文字喰いを倒して!」

「そ、そんなこと言われても……」


 倒せと言われても、どう倒せばいいのかわからない。僕は動転して、一歩も動けなかった。

 同じように、文字喰いも動揺しているのがわかる。チイの仮面を外した無表情ながら、対応に苦慮している様子が伝わってきた。まさかこの状況で、無謀にあがくとは思っていなかったのだろう。


 サーヤは首をつかまれた状態のまま力任せに腰を屈めて、両足を踏ん張り勢いよく体を反らせた。跳ね上がった後頭部が、文字喰いの鼻面に命中する。

 衝撃で腕が離れた瞬間を逃さず、サーヤは転がりながら退避した。「あっ!」と思わせぶりな声を残して、僕の足下にたどり着く。


「大丈夫かい、サーヤ?!」


 手を取って引き起こそうとしたが、サーヤの意識は別のところに向いている。


「フミくん、あれッ!」


 僕たちと文字喰いが対峙した中間地点に、ぽつんと紙切れが落ちていた。折りたたまれているが、その紙片には見覚えがある。僕とサーヤが名前を書いた紙だ。退避の途中に落としてしまったらしい。

 僕がためらっているうちに、一瞬早く文字喰いが動いた。慌てて取り返そうと踏み出すが、タイミングを計ったようにサーヤも身を乗り出し、もつれあって倒れてしまう。

 顔を上げたときには、紙は文字喰いの手の中にあった。


「これが……お前の言っていた、わたしを見つけ出すための仕掛けか」

「か、返せ!!」


 迫真の表情で、サーヤが飛びかかる――が、後一歩届かず、中途半端な位置でべちゃりと床に落下した。


「わたしを釣ろうとしたのが、裏目に出たようだな」


 なおも飛びかかろうとするサーヤを警戒しながら、文字喰いは紙を開けてちらりと目をやり、間髪入れずに手のひらを這わせた。

 一瞬にして、書かれた文字が喰われていく。


「ひょっとして、これが狙いだった?」

「当たり前でしょ。行き当たりばったりでやってると思ったの」


 むくれ顔のサーヤに、「思った」とは言えず曖昧に笑ってごまかす。


「無茶しすぎだ。僕には危険なマネをするなって言うくせに、自分がやってちゃ世話ないよ。本気で襲ってきたら、どうするつもりなんだ」

「自分で言ったことおぼえてないの。文字喰いは人間を傷つけることはないって言ったの、フミくんだよ」


 そんなことを前に言った気もするが、確定していない推測を元に行動を起こすのは、やはり無謀だ。

 サーヤの大胆不敵な判断には肝が冷えた。いまになって、全身に吹き出した汗を感じる。


「お前たち……なぜ死なない」


 文字喰いは無表情であるのに、どことなくキョトンとした空気をまとっていた。理解が追いつかないといった様子だ。名前の文字を喰われたにも関わらず、僕たちが平然としていることに驚いている。

 僕はうすく笑って、まだ文字喰いが手にしたままの紙を指さした。


「文字を喰うときは、よく確認したほうがいいよ」


 文字喰いはぎこちない動作で紙に目を向ける。そこにあったのは白紙――すべてたいらげて、何も残されていない。


「どういうことだ?」

「僕が書いた名前は『日高智哉』じゃない。『哉』を『也』にしてたの気づかなかったかい。それと、『智』の字は『知』と『日』を別々に書いた。『日高知也』と僕が書いて――」


 得意げな顔でサーヤが身を乗り出す。


「その後に『日』をわたしが付け足した。ちなみに、わたしが書いたのは『日寺木支糸少邪』で、パッと見は名前っぽく見えてもわたしの名前じゃない」


 この偽造方法は、書き置きに残されていた漢字を参考にした。チイの名前を探る過程でわかった『紙』と『絡』の謎が、文字喰いを騙すヒントになったのだ。


「こうなることを読んで、あの放送を流したわけか」

「ま、まあね、地下室にスピーカーがあることは知ってたし……」


 本来はもっと計画的に名前を書いた紙が文字喰いの手に渡る予定だったが、放送による罠を仕掛ける段階でサーヤがセリフを飛ばして大幅に予定が狂っていた。脈絡なく名前を書くと宣言するのではなく、もっと自然な流れで発表して文字喰いを引きつける予定だったのだ。


 でも、いまになって思うのは、予定どおりいった場合、警戒心の強い文字喰いが罠に気づいた可能性だ。切迫した状況でなければ、よく確認せず文字を喰うようなマネはしなかったのではないだろうか。


「そこまで考えていたか――しかし、わたしを騙したところで、意味はなかったようだな」


 文字喰いは、まだ健在だ。このままでは確かにそのとおりで、文字喰いを倒すには、まだ足りないものがあった。

 僕は緊張を押し殺して、ゆっくりと口を開く。


「そうでもないよ、糸原知佳いとはら ちかさん」


 文字喰いの無表情は変わらない。だが、瞳の奥の奥に驚きが灯っていた。


「どうして……」文字喰いはブルッと身震いして、片ヒザをついた。苦しそうな顔つきはしていないが、心臓に手を当てている。「それを……」

「正解だったみたいだね。みんなが協力してくれたおかげだよ」


 文字喰いが破棄したカードから発見したのは、『ハラチカ』と『佳』と『原』だ。『佳』は、そのままチカのカだろう。『原』はハラ――これは書き置きで消されていた文字でもあるが、マッキの名前とかぶっているので文字喰いはしかたなく喰ったのだと思う。そして、は書き置きに残っていた『知』に違いないと判断した。


 残すは『ハラチカ』の前にくる文字だ。推測しようにも材料のない状況であったが、唯一可能性を感じたのが書き置きの『紙』と『絡』である。その意図を考えているうちに、両方だと気づいた。


 どんな漢字も喰う文字喰いが、化けた人間の名前と関係ある文字は食べ残していた。自身の命とつながっているのだから、当然のことだ。そこから、僕たちがしたように部首と部首以外の部分を分けて書かれている危険性を警戒したのだと思った。


 こうして予想を積み重ねていき、『糸』がチイの名前に関係していることを推理した。つまり『糸原知佳』だ。

 証拠はなかったが、文字喰いの反応で推理が正しかったことを確信する。


「たいしたものだ、嫌になるくらいに……」


 文字喰いが事前に名前を知らなければ喰い殺せないように、こちらも名前を認識していなければ倒す条件に満たなかった。文字喰いが『糸原知佳』が正しい名前と認めたことで、その不条理な能力が裏返ったということか。

 ガクガクと体を震わせて、文字喰いが顔を上げた。苦悶に歪んだ悲痛な表情で、じっと僕を見つめている。


「助けて、フミくん――」


 チイの顔で、チイの声で、チイになりきって、僕にすがってくる。とんでもない嫌がらせだ。

 文字喰い自身の能力で喰われようとしている状況を、僕がどうにかできるわけがない。それを知っていながら、あえて言っている――そうわかっているのに、胸が苦しかった。

 だからこそ、僕は強い気持ちで言いきる。


「四人も殺害した不条理なバケモノを、許すわけにはいかない」

「えっ、四人?」と、サーヤが困惑を声にした。「三人じゃないの?」


 文字喰いの正体がチイであることから、彼女を犠牲者からはぶいたのだろう。無人島にいたのは文字喰いであったが、少なくともネット依存症改善プログラムに申し込んだ時点では人間だったはずだ。


「チイさんも文字喰いの犠牲者だよ。文字喰いは化けた人間の人格や記憶を受け継ぐことができるんだと思う。そうでなければ、文字喰いがチイさんとして語った人間的な悩みに説明がつかない」


 チイの所持品にしても、名前の入ったカードがあったことから文字喰いが用意した物とは思えなかった。どこかで名前を喰い、入れ替わったと考えるのが妥当だ。

 どのタイミングで入れ替わったのか――その過程を想像していくうちに、ある考えが僕の中に浮かぶ。ずっと引っかかっていた疑問と、それはつながっていた。


「これは予想にすぎないんだけど、文字喰いは人間に化けた瞬間、蓄積された文字がリセットされるんじゃないかな。死を偽造しなくても他の人間に化けたなら、楽に嫌疑をかいくぐれたはずなんだ。それをしなかったのは、文字のリセットをさけたかったから。ようするに、まだ僕たちの名前を喰いきることをあきらめていなかった」


 チイの顔から、無表情な文字喰いの顔に戻っていた。床に尻をついて、小さな吐息をもらす。

 体の震えはますます激しくなっていく。終わりのときは――近い。


「本当に、たいしたガキだ」文字喰いは予想の正否にはふれず、皮肉にとどめる。その代わり、押さえきれない恨み節がこぼれた。「やはり人間は恐ろしい。お前は、わたしのことを不条理なバケモノと言うが……平然と騙し、ルールをやぶる人間のほうが、よほど不条理な存在だと思わないか?」


 僕は一瞬反論に詰まる。文字喰いが不条理なバケモノであることは間違いないが、文字喰いなりのルールがあり、それを厳守していた。そのおかげで、ここまでたどり着けたとも言える。


「勝手なこと言うな。そっちが襲ってくんのが悪いんでしょうが!」

「わたしが文字を喰うのは、生まれながらの性質だ。人間がわたしを恐れ、排除しようとするのも生物として当然の性質と言えるだろう。互いに不条理と感じながらも、その関係性は自然の摂理に準じている。世界に、真の不条理など存在しないのかもしれない」


 いきなりの哲学的な問答に、呆気に取られたサーヤであったが、すぐに我に返り。困惑を塗りつぶすように怒りを顔にまぶした。


「何をワケわかんないこと言ってんだ。あんたのせいで、何人死んだと思ってる。おじさんもカズマさんもゼンさんもチイさんも、それにパパだって、殺されるようなことは何もやってない。それを、あんたは――」


 サーヤが文字喰いにつかみかかる。そのとき、無表情な文字喰いの口元に、うっすらと小さな笑みがこぼれた。


「えっ?!」


 ぐらりと上体がかたむき、力なく倒れ込む。文字喰いはピクリとも動かなくなった。

 慌てて呼吸と脈拍の有無を確認した。どちらも反応はない、魂の抜けた冷たい体が横たわっている。文字喰いはいなくなった――そこにあったのは、チイの遺体だ。


「これで……終わったの?」

「うん、たぶん……」


 最後の最後でわかったことは、文字喰いはではなく、ということ。文字を喰い殺害した相手に、取り憑く能力があるのだろう。


「なんか、拍子抜け。でも、よかった」サーヤはその場にへたり込み、短く息をつく。そして、眼前のチイに手を伸ばした。「ごめんね、チイさん。疑っちゃって」


 チイの手に自分の手を重ねて、サーヤは黙祷するように目を閉じた。

 文字喰いという存在が、この結果によってどのような末路にいたったのか――存在が消滅したのか、それともどこか別の場所で再生するのか――僕には知るよしもないが、ひとまず現状において解決できたことを心の底から安堵する。


「ありがとう、フミくん。全部フミくんのおかげだよ」

「いや、僕はたいしたことやってない。教授が残してくれた書き置きがあったから……」


「そんなことない!」思いがけない強い否定に、僕はびっくりして首をすぼめた。「フミくんがいなかったら、誰も文字喰いを探そうなんて考えなかったと思う。もっと犠牲者が増えていたかもしれない。それにフミくんは――っと」


 唐突に言葉を区切り、サーヤはまじまじと僕の顔を見た。その目には、ほんの少し戸惑いが混じっている。


「ど、どうしたの?」

「えっと、フミくんでいいんだよね。弟の、智哉くんの名前をかたったのは文字喰いを騙すためで……って、あれ、混乱してきた。キミはフミくん?」

「そのことか。別にどっちでもいいよ」


 双子でよく名前を間違われていたこともあって、どちらの名前で呼ばれても抵抗はなかった。呼び間違いは馴れっこで、状況に応じて即座に反応できる。


「ダメでしょ、いいわけがない!」と、サーヤは食い気味に突っかかってくる。


 僕は困惑して、顔をひきつらせた。サーヤは何が気に喰わないというのか、見る間に眉が吊り上がっていく。

 どう返せばいいのかわからず、言葉が出てこない。まごつく僕を見て、大きなため息がこぼれた。


「事件を解決したのは、キミだよ。弟くんじゃない。うまく文字喰いを出し抜けたのは弟くんのおかげでもあるけど、キミが考えて、キミがやり遂げたんだ。そこをハッキリしてもらわないと、わたしが困る。ちゃんと感謝したいもん」


 僕は迷った末に、苦笑を浮かべた。どんな顔をするのが正解か、よくわかっていない。


「うん、僕は……文哉だ」


 いまもなぜ僕ではなく、智哉が死ななければならなかったのか、その理由に決着はついていない。

 でも、僕が死ななかったことに、少しでも意味があったような気がして、胸の奥にたまっていたわだかまりが、ちょっぴり解けるのを感じた。

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