黒い罪
うぅん……。
ふと私が目を覚ますと、さっきまでいた公園のベンチで眠っていた。
公園にあった時計を見てみる。…時計の針はもうすでに、お昼頃を指していた。
さっき広瀬さんが私の体内に注射した薬品は…睡眠薬だったのかな。
そもそも何で、私にそんなもの注射したんだろう。何か、私を恨んでた……?
いや、私じゃ無くて、神崎くん?
……そういえば、広瀬さんの姿が見当たらない。
けれど、さっきまで彼女が持っていた黒い鞄は、ずっと私の横に置かれてあったのに気づく。
体が重い。
やっぱり寝起きだと、鉛のような体だった。
体を動かすのと同時に、自分の衣服に、服が妙に擦れ合うような、不自然さを感じる。
意識をハッキリさせたら、私はなぜか上着に、黒いコートを着ていた。
え…?さっきまで私、こんなもの着てなかったよ…?
そんな風に考えていた最中、見るからに、巡回中の警官二人が私のもとに現れる。
二人は私の目の前で、警察手帳を見せた。
「すみません。今現在この市内で、とある男子生徒がバスに轢かれて死亡した事件があったのですが」
落ち着いた表情で、その手帳を服に仕舞う。
「えっ…?」
男子生徒が………バスに轢かれた……?
まさか。その人の言う「男子生徒」って_____
「……それって、神崎、さん…じゃないですよね」
「ああ。被害者の顔見知りですか?」
「っ…!?」
…私は放心状態になる。
神崎くんが……「被害者」?
どうして…?う、うそ。
「歩行者の証言により、殺人の可能性があると見て捜査を進めています。それでなんですが、この辺りで
私はあまりにも衝撃的で、その後の話はあまり頭に入って来なかった。
うそ…?で、でも。警察官がそんな事を言うなんて、でも信じたくない…。本当なの?
…私、あの時の歩道橋で、神崎くんに酷いこと言っちゃったのに……?
その時の謝罪すら、ろくに一言も言えてない。
どうして…?なんでこんな時に限って____
ふと、さっき広瀬さんが言っていた事を思いだす。
『あなたは、殺したの。コウタくんを』
『あなたは自分を振った彼に恨みを抱き、道路で背中を押して、わざと事故死させた』
『アナタは私に成り代わるの。アナタはコウタくんを……殺した!!!』
…と、彼女は言っていた。
いや、もしかして、そんなことがあったこそ…?
広瀬さんが、なんであの時の事を知っているのかは謎だけど……
え?でもそれって、まさか______
「その隣の鞄、あなたのですよね?中身を確認させていただいても?」
「…ぁ、ち、違います。これは……」
「すみませんねー…」
警官の一人が、その中身を見た。
「あった?」
「……ありました」
「ふーん、まだ使われていないか。でも十分、銃刀法違反ですからね」
え……??う、嘘……でしょ?
それを取り出し、手の届かない場所で見せる警官。
使われていないサバイバルナイフだった。なんでこんなのが入ってるの……?
「すみませんが、色々と署でお聞かせ願いますか」
「ち、ちがうんです。これは私のじゃなくて……!!」
「_____ちなみにもう一つの証言では、犯人は
その警官の発言に、体が凍りつく。
今私が着ていたのは、「黒いフード」付きコート。
……私は、神崎くんを殺した罪を、広瀬さんになすり付けられたんだ。
「ほ、本当に違います!私は___」
「すみませんが、事情は署で。ですが、あなたと全く同じ身長であるとも、目撃証言がありましてね」
ま、まさか……!
私と広瀬さんは、身長が瓜二つだった。だからこそ、私が
ベンチから立ち上がって、その言葉に反論しようとするものの、聞き入れてはくれない。
うそ。このままだと、私…
警官二人に、手を掴まれそうになる。
で、でも…ほんとに……何も……!
私がパニック状態になっていた時。
ふと、すぐ真横にいた「黒ずくめの人」に気づく。
一瞬にしてその人は、私の手を掴んで、警官二人から遠くに引き離して逃げる。
「あっ!ちょっと待ちなさい!」
振り返ると、その人らは私たちを追っている。
けれど私たちの足には、誰も追いつけなかった。
私は手を掴まれて唖然としていたけれど、正直、安堵した気持ちもあった。
そしてその公園を後にして、人気の少ない場所に連れ去られてゆく。
─────────────────────────────────
やがて誰もいない住宅地の路地裏に着くと、その人は私の手を離し、立ち止まる。
黒ずくめの人は…フードをかぶっていて、よく顔は見えない。
………え、まさか、広瀬さん……?いや、それとは違う。
よく見てみると、その人は大柄で、どこか中年のような……男の人だった。
私の着ているのとは違う、おしゃれな黒いコートを全身に纏っている。
「………。」
すると黒ずくめの人は、無言でこちらを向いた。
顔の部分は、一度目を逸らしたけれど、思わず二度見してしまう。
……その人は『黒いガスマスク』をかぶっていた。
目の部分は隠れていて、顔の全容は全く見えなかった。
こ、怖い。まるで「人間じゃない」ような、殺人鬼みたいな形相。
その人はぴくりとも動かず、女子高生の私にすら何もして来ないなんて……。
何だか怖くて……手の震えが止まらなくなった。
けどこのままじっとしていても、何も話しかけて来ず、まるで石像だった。思い切って会話してみる。
「あ……あの……っ____!」
「これをやる」
「……えっ?」
な、なんか喋った!?
それは中年男性の、落ち着いた低い声だった。
よかった。一応この人は、
その人はガサゴソと、自分のコートのポケットから何かを取り出し、私に見せる。
「えっ、これは、な、なんですか?」
「……タイムスピナーだ」
え、たいむすぴなー?形状を見てみる…。
「あっ!」
これは…!ちょっと前に流行ってた、ハンドスピナー!
たしか真ん中のやつ持って、周りのやつをクルクル回して楽しむやつ!
私もひゅるひゅる回して、よく遊んでたなぁ…!ちょっと懐かしい…。
……うん。我ながらちょっと語彙力がおかしいけど。
それに、こんな事で興奮してる場合なんかじゃない!今、警察に追われてるんだよ!?もうちょっと危機感持たなきゃ……!!
「え、えーと…こ、これ、ハンドスピナー…ですよね?」
「………これを使え」
するとその人は、手に持っていたそのスピナーを、私に差し出す。
私がそれを受け取ると、すぐさま謎の男の人(?)は、その場を走り去って行ってしまった。
私が今、手に持っているのは、単なるハンドスピナーに見える。
さっきあの人、タイムスピナーとか言ってたよね?
まさか、時間逆行……とか、できるのかな?
………いや、それはないかも。
あの人をあまり信用できないけど、回したいという好奇心はある……!
手に持っていたハンドスピナーを、思い切って人差し指で回してみる。
キュル____________
その時、私の体全身が、急激に大きく振動していった。
まるで、浴室でのぼせたみたいに目眩がして、目の前の光景がくるくると回っている。
そしてその不可思議な振動は、しばらくの間続いた。
□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□
カチャッ。
スピナーは音を立てた後、いきなり止まった。
気が付くと、私の手にはスピナーがない。
え、それにこの場所、さっきまでいた路地裏じゃないよ?
周りの光景も、真っ暗でぼやけて、ここがどこかは把握できない。
けれどなぜか全身が、もふもふの布団で包まれていた。
意識を戻すと、ここは自分の部屋の寝室である事に気づいた。
え。前にもこの状況、私見たような……。
鉛のように重い体で、ベッドの横にあった目覚まし時計を確認する。
11月2日。……1日前に、戻ってきたみたい。
………うそ。まさか………!!
ほんとに、過去に戻っちゃった!?!?
確かこの日は……
神崎くんに告白を断られて……すごい落ち込んで学校を休んだ時…だ!!
「なるほど……すごい…!!あの男の人、何モノ!?実は凄い科学者だったの!?」
2018年。この時代もようやく、タイムマシン発明しちゃったんだ……!!
パジャマ姿だった私は、嬉しくてベッドの上を飛び上がり、過去に戻れた事を喜んだ。
ガチャ。
「実花、もうすぐ学校だぞ……って、やけに元気だな」
「……ぁ、お父さん」
すると、寝室の扉を開けてお父さんが、部屋の中に入ってきた。
私の盛り上がっていた様子を目撃して、なんだか引いていたような気もするけど。
恥ずかしくてつい変な声が出てしまう。
いや、ダメダメ。こういう時って、確か目的があるんだよね?
アニメとか漫画が好きで、タイムリープものは何度も見たことあるし、私はそういうノウハウを持っている自信がある。
「高校には行かないのか?」
お父さんは、無表情でそう聞いた。
私はベッドの上にいた状態で、一つお父さんに確認する。
「今から行っても、まだ間に合う?」
「ああ、大丈夫だと思うが……急いだほうがいい。遅刻扱いになるからな」
「それなら行く!!」
そう。なんせ「今」は、私が目覚ましを無視して二度寝した後。
神崎くんに振られたショックで、少しだけ遅刻してるんだ。
けど、今はそんなことを考えている場合ではなかった。
私はお父さんの発言に対して、即答した。
いくらなんでも、神崎くんの命がかかってるとなるとね。
そして、過去に戻ったという責任感もしっかり持たなきゃ。
神崎くんには、命を救われた恩がある。私も……神崎くんを、救わなきゃ。
けれど、まず事は試し。
正直タイムリープしたばかりで、分からないことが多すぎるんだよね……。
─────────────────────────────────
私は学校の校舎に着き、廊下を歩いていた。
……神崎くん、私を見て、嫌な反応するかな。
けれどそんな事、今は気にしちゃだめ。正直私の方が怖いけど、仕方ない。
クラスの教室に着くと、室内はいつも通り、がやがやしていた。
あ、よかった。遅刻せずに間に合ったみたい。それに勿論だけど、私達の噂は立ってないし。
ふと、神崎くんの席を見る。
たった一人で机に座り、ノートで勉強をしている。
「あ、あの……っ」
私は思い切って神崎くんに近づき、話しかけてみる。
すると、彼は私を見てその鉛筆をピタッと止め、「あ」と言って驚いた顔を見せた。
「……な、七瀬さん」
直後、顔を俯かせて、神崎くんは小声で言った。
うう……、空気が気まずい。村野くんがいてくれると、もっと楽なんだけど。
あいにく村野くんは、今現在、病院で過ごしている。村野くんも色々あったし。
「……。」
「…………。」
私たちは、両方とも顔を逸らす。
ついつい気まずくて、私は手を後ろに回す。
「…………じゃ、じゃあ僕は図書館に行ってきます」
この空気に耐えかねたのか、神崎くんは咄嗟にノートを持ち、教室から走り去っていった。
え、えーと…。いや、ダメだ七瀬実花!このまま黙って、神崎くんを行かせるわけにも行かない。
「ま、待って!!」
廊下まで追いかけ、神崎くんのその手を掴んで止める。
目を見開いて口を少し開け、彼は私の顔を見た。
神崎くんの顔に対し、ムズムズする恥ずかしさを落ち着かせようと、私は自分の顔を俯かせる。
「私………図書館で、神崎くんと話がしたいです」
ちらっと、神崎くんの顔を見る。
さっきの驚いた顔とは違い、いつもの優しそうな表情に戻っていた。
「……うん。構わないよ」
その後、神崎くんと学校図書館に着く。机のイスに、隣同士で座った。
うう、気持ちがフクザツ。神崎くんと話がしたいとは言ったものの、具体的にどんな話をすればいいのか……
エアコン付きの暖かい部屋でも、私はもじもじしながら、指を絡ませて上下に動かす。……あっ。そうだ。
私が唯一、神崎くんに「聞きたかったコト」がある。
「……神崎くん、一つ聞いてもいい?」
「うん、いいよ」
「そのね。……『僕は君には似合わない』って、どういう意味なのかなって」
「__えっ?」
『僕は君には似合わない』。
神崎くんが、私の告白を断った時に言ったセリフ。
普通なら「ごめんなさい」とか、ストレートでもよかったのに、どうしてそんな、曖昧な発言で断ったんだろう。
私はそんな風に、神崎くんにその疑問を説明した。
……あ。いきなりこの質問は、流石にストレート過ぎかな……!!
「……そうか。七瀬さんは、そんな風に思ってたんだ」
「うん。あっごめんね!答えなくてもいいんだよ?」
「それは単に、僕に幸せになる権限があるのかな……って」
えっ…?そんな……そんな事ない!
神崎くんみたいな優しい人なら、幸せになれる権限、普通にあると思うよ!?
もちろん私と一緒にいる時間が、幸せかどうかは別としてだけど!
そんな風に心が声になって叫びそうになるものの、ぐっと抑えた。
いいや違う。神崎くんがそう思うには、何か理由があるんだよね……?
「……七瀬さん」
「あ、はい。……な、なんですか……?」
「……お願い、しばらく待ってほしい。一日だけ」
神崎くんは真剣な顔つきで、私にそう言った。
そこまで真剣な顔で見つめられると、私も何とも言えない。
けれど、なんで「一日だけ」……?
「明日、何かあるんですか?」
「うん……何というか、自分の
神崎くんが……抱えている後悔?
もしかして、それが原因で、自分を責めてるの?
「明日、どこか出かけるの?」
「まあね。……よかったら七瀬さんも、一緒に行く?」
「____えっ。いいの?」
たしか明日は休日だし、予定は十分にあるはず。
どこに行くかは、ちゃんと聞けなかったけど、私はその誘いを受ける。
それに明日は、神崎くんが事故に巻き込まれる日。
もしかしたら、「終わりの瞬間」を目撃するかもしれない……そう考えてしまうと、頷きざるを得なかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ブゥウーン。
翌朝、11月3日。おそらく今日、神崎くんが交通事故に巻き込まれる。
人がまあまあ通る都会の道路で
待ち合わせ場所の歩道で、そんな様子を、暇つぶしがてら眺めている。
気を強くしとかないと、あとはせめてものオシャレかとも思い、お気に入りのキュロットを履いてきた。
……ちょっと、早く来すぎちゃったみたい。
「お待たせ。こんな朝早くにごめんね」
横から、青いジャケットの姿で、神崎くんが現れた。
そのごめんねの一言に対して、私は首を振った。
「ううん。大丈夫」
「そう?じゃあ行こうか」
神崎くんが目的地に歩き出すのと同時に、すぐさま彼の横について行った。
ちょっとだけ、彼と距離も空いちゃったけど。
緊張感が漂う中、歩道の横を走る、自動車の音だけが響いていた。本当に私を誘ってくれても良かったのかな……?
やがて交差点につき、人混みに紛れて、赤信号の前に立っていた。
目の前の道路には、さっきよりもかなり交通量が多いのが感じられる。
辺りから感じる人の声。ふと目についたのが…
「えー!これやばーい!」
私の真横にいた、信号の待ち時間に、スマホを見ている若い女子二人。
二人とも知らない人だけれど、もしかしたら
「……大丈夫、七瀬さん?」
「あ、ごめんなさい。大丈夫…」
緊張し過ぎていて、神崎くんも私の様子を見て察したみたい。
私がそう話した後も、再び彼との間で沈黙してしまう。
けれど、この後の事故が起こる状況を考えると、心がざわざわしてしまう。
そんな緊張をほぐすために、私は下唇を噛む。
ブゥゥウウ───ン!
銀色の高級車が、道路の向こう側を勢いよく走る。
ひっ!?驚いて、下唇の噛みぐせをやめる。
たまにああゆう高級車が通ると、やけにビックリしてしまう私。
「_____七瀬さん」
……えっ?
低いトーンの声で、神崎くんが話しかけてくる。
私は「はい…?」と返事をし、神崎くんの方を向くと、
いつも以上に真剣そうな顔で、こっちを見ていた。
「もし。もしこの件で僕が、踏ん切りをつけられたら……_____」
その矢先に、私の目が反応する。
神崎くんの真後ろに迫っていた、「黒い両手」が見えた。
「神崎くん、危ないっ_______!?!?」
私は咄嗟に、迫っていたその両手を掴む。
両手の主は、「黒いフード」で顔を隠していた。
その人の服は……間違いなく「あの時」、私に着せられた黒いコート。
間違いない!この人は広瀬さん______
……しかし。顔をこっちに向けた途端、それは別人だった。
顔と印象がまるで違う、若者の男子のような顔つき。
うそ!?この人、まるで「ニセモノ」だよ……?
私に驚いた顔をした直後、その人は素早く、人混みの隙間を走って逃げる。
「ま、待って…!!?」
私はそのニセモノを追う。
しかし、途中で立ち止まって、神崎くんの方を向く。
「神崎くん!お願いだからここから一刻も早く離れて!!」
私は周りの人も気にも止める場合もなく、神崎くんにそう声を上げた。
驚きげになりながらも、彼はそこで「わかった!」と頷く。
ひとまず今は、あの人を追いかけるしかなさそう……!
─────────────────────────────────
「ぜぇ……っはぁ…………ぁ?…ゔわっ!?!?」
私は、人気の少ない通路に逃げ込んだ、その人の両腕に掴みかかる。
両手を振り払おうと抵抗している、あからさまに焦っていたニセモノに、こんな状況でも私は訊く。
「はぁ……はぁ……!!
どうして、彼の背中を押そうとしたんですか……!?」
走り過ぎたせいで、私の方も彼の方も息切れが止まない。
「俺は……俺はぁ………!こんなつもりじゃ、なかったんだよ………!!」
「えっ…?」
質問の返事を聞いて、思わずその両手を離す。よく見たら……身長が、私より高い。
同時に彼も抵抗を止め、説明不足で呆然としていた私の表情をじっと見ていた。
一旦お互いに落ち着いて、近くのベンチに座り、二人で話し合う。
彼が名乗った名前は、
少し遠い学校に通う、高校2年の男子高校生だそう。
どうして、私たちとは違う高校に通う人が、こんな事を?
明らかに、神崎くんの背中を押そうとしたはずだけど……。
「あの…。赤の他人である米塚さんが、どうして神崎くんを…?」
「……言っとくけど、俺と神崎は顔見知りだ。中学の頃からな」
「えっ!そ、そうだったんですか」
中学の頃から……?
ふと、神崎くんと、二人で話していた頃のことを思い出す。
『神崎くん。さっき何考えてたの?』
『…え、ううん、大した事じゃないよ。昔のこと考えてただけ』
『昔のこと?』
『…昔色々あってさ。小学校の頃は幼馴染が死んで、中学は友達がいじめに遭った』
神崎くんの言っていた、中学の「心の傷」と、何か関係があるのかもしれない。
私は米塚さんに、その事を聞いてみた。口がまごまごしてしまうけど……
「もしかして。米塚さん、何か知ってますか?例えば、えーと……
「____はっ!?なんでお前がそれ……っ!?」
「えっ?」
その言葉に対して、米塚さんはとても焦っている様子だった。
やっぱりこの人、何か知ってる……?
「何か知ってるんですね!?教えてください!!」
私はそう言うと、突然、米塚さんは深呼吸をした後、
思い切ったような表情でこう話す。
「……俺が虐めてた。アイツのことを」
えっ?いじめてた?
「だ、誰をですか!?」
「言わなきゃならねーよな…。広瀬結衣って女の子だ」
ひ……広瀬結衣!?私は頭が混乱する。
もしかして…!神崎くんの言っていた「中学の友達」って、広瀬さんの事だったの…?
「今はもちろん、あんな事をした俺が馬鹿だったと思ってる。でもアイツ、今になって俺の学校にやってきてさ。
俺にだけ虐めの証拠があるとか言って、それを正門の前にばら撒くって脅されて……狂ってた表情だった」
米塚くんは顔を俯かせ、自分の拳をドン!とベンチに叩く。
「この服着て、神崎を
つまり、米塚くんは広瀬さんに脅されて、「あの交差点で神崎くんの背中を押して」と脅されてたって事?
それじゃあ、あの時私が米塚さんを止めていなければ、神崎くんは助からなかったかもしれない。
……もしかしてこれで、命を救ったの?けど彼の命を奪ったのは、私と同じ身長の広瀬さんのはず……。
「でもよかった。米塚さんの手を、汚さずに済んで」
「まあな……でも俺は、あの時からずっと後悔してる。後で神崎に謝って、これからも罪滅ぼしするつもりだ」
米塚さんがそう言ってベンチから立ち上がり、向こう側へ去っていった。
どうして広瀬さんは、神崎くんに殺意があったんだろう……?
─────────────────────────────────
私は一度、さっきの交差点へと戻る。
神崎くん、どこ行ったかな。一回彼と連絡してみた方が…って、あ。連絡先知らない。
その時。交差点の道路の一つの場所に、人混みが集中しているのが見えた。
「あれちょっとやばくない…?」
「見るからに、まだ学生さんだったのにね」
人混みの中にいる、誰かがそう話しているのが聞こえた。
不安な気分だった。
追い討ちをかけるかの如く、隙間から一瞬だけ見える。
止まっていた白いバスの前で、道路を赤く染めて倒れていた、神崎くんらしき姿が。
え……?
もしかして神崎くんは、
ふと、そこよりも向こう側の歩道に、赤い髪の少女が目につく。
……間違いない。あれは広瀬さんだった。
その服装は、黒いフード付きコート。
過去に私が着させられたものと、米塚さんが着ていたものに、全く同じ。
『アナタは
そういえば。過去に戻る前に、広瀬さんはこんな事を言っていた。
やっぱり過去に戻る前も、「広瀬さん自身」が神崎くんの命を……。
私は広瀬さんの方へ向かい、彼女の目の前に立つ。
「あら、初めまして、七瀬さん。
……いや、その顔。前にも何処かで会った事、あった?」
首を傾げ、表情を変える事なく、私にそう問いかける。
不意に漏れたような笑みが、不気味に口角を上げて、怖い。
「どうして……、どうしてその黒いコートを着てるんですか!?なんで……?何で神崎くんは……っ!!」
広瀬さんといる度に、頭が混乱して、謎が増えていく。
謎が多過ぎて、自分の汗もどんどん溜まっていった。
「面白い。あー面白い!すっごく!アハハっ!……あなたの困り果てた顔が。
あなたは自分の思いを踏みにじられても、どーしてそこまで焦って彼を救おうとしたのかしら」
その言葉が、私の心に突き刺さる。彼女が言うのは、神崎くんに告白を断られた時の事だと思う。
私は……誰かの命が失われるのが、怖い。
ただそれだけだと言うのに、笑われそうで。言えなかった。それには答えず、質問をした。
「……私が神崎くんに告白を断られた事。なんであなたが知ってるんですか?」
「その日、あなた達を尾行していたの」
「えっ…」
思わず背筋が凍る。
あの時、人気が少なかったのに。全然気づかなかった……。
広瀬さんは、神崎くんが倒れている、道路の人混みの方を見る。
私もつられて、そっちの方を向いた。
「ずっと私は、コウタくんの無様な姿が見たかった。嫌な気持ちをさせられたから。あなたもそうでしょ?」
「………広瀬さんはどうして彼に、殺意があったんですか。どうして彼に執着するんですか」
その言葉に対して、彼女は私の方を、じっと見つめる。
名前呼び。やっぱり気味が悪い。この人、特に神崎くんに関わってるけど……何で彼に
「言ったでしょ?
広瀬さんは、さっき言った言葉をそのまま返した。
「……人間はいつも自分たちのことしか考えてない。どんなに助けを求めていても、みんなその人を避ける。私もその犠牲になっただけ」
広瀬さんの左眼は、妙に白く輝いていた。
言葉に反論しようとするけれど、その直前に去っていってしまった。
……彼女の言っていたことは、どういう意味なんだろう。
私は一つ、神崎くんのいる方を見て、ため息をついた。
「……広瀬さんと神崎くんに、何があったのかな」
そう呟くと、それを聞きつけた人が、目の前にやってきた。
「____本人に問い正してみろ」
黒いガスマスクの人が、私の目の前に立ち、そう答える。
私は、神崎くんを救うためには、神崎くんをもっと知りたい。
「……あの。もう一度、私にチャンスをくれますか…?」
「………。」
「知りたいです、私。神崎くんの事、もっと。もしそれが、聞くに堪えないイヤな過去だとしても」
「……………。」
「えーと……」
ハッキリと、胸の内を明かした。
けど。これは、完全に無視されてる……?
そう思っていた矢先、『タイムスピナー』たるものを、黙って直接渡された。
直後、ガスマスクの人は、ここから退散するように立ち去っていった。あの人、何者?神様?
□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□
スピナーを回した直後、私は辺りを見渡す。
近くには、神崎くんの姿。ここは屋内みたい。
ということは………もしかして、図書館?
11月2日。学校図書館で神崎くんと、机のイスに隣同士で座っていた。
死んだはずの神崎くんが目の前にいるっ!?
……うん。過去に戻ってるから当然だよね。
確かに予想はしてたけど、実際に目撃するとびっくりしてしまう。
「……七瀬さん?えっと…。話って、何かな…?」
「えっ…?____あっ!!!」
そうだった。この時、神崎くんと話がしたいって、私から誘ったんだったっけ。
わざわざ一緒になってくれたのに。かたじけない!!
けど、ふざけてる場合じゃない。
神崎くんに思い切って、こんな事を聞いてみる。
「神崎くん。質問しても大丈夫?」
「うん」
「イヤな質問、かもしれないけど」
「いいよ、全然」
「……広瀬さんとは、どういう関係なのかな」
「えっ?七瀬さんって、広瀬さんの事知ってるの…?」
神崎くんは、驚いた表情だった。中学の友達の名前を、私が言ってたら困惑するよね。
でもやっぱり、何かフクザツな事情がありそうな顔でもあった。
彼はしばらく考えた後、私にこう打ち明ける。
「……僕が中学の頃に、いじめられていた子がいた。それが、広瀬さん。
僕は、彼女のいじめから、ずーっと目を背けてたんだよ」
彼は、複雑そうな表情をしていた。
真っ黒な罪を、これまで抱えてきたように。
___ううん。正直な事を言うと……
私にはまるで、「それ以上のコト」を想うような面持ちに見えた。
そして、見て見ぬふりをしていたのかもしれない。知りたいけど、知りたくない。
だってそれが
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