第1話 魔物召喚魔法
昨今の異世界系物語は、どれを見ても大抵「チート」という単語がある。ただ、本当のチートは、それらの作品に出てくるような多少の制限があるものじゃない。そう、その制限すら無視してしまうものが「チート」、正真正銘のやりたい放題のズルである。あっていい制限とするならば、ハードの限界、といったところか。そのチートを使い続けるとハードそのものがフリーズしたり、データが消えてしまったりするようなら、そのチートの多用は控えるべきだろう。異世界に飛ばされる者たちは、強大な力を得てそれを「チート」と称すがそれは本当のチートではない。
勿論、その程度のことを「チート」と認識する人もいるだろう。だってそうじゃなきゃああいった作品たちは生まれないのだから。だが、俺の持論としては、チートには制限があってはいけないのだ。強大な技を使ってしまうとMPがなくなる?なら、MPが減らないチートを使えばいい。強大な敵と対峙する?ならHP無限と武器の段数等が無制限になるチートを使えばいい。そういうことだ。
ならば何が本当のチートなのかって?ふむ、いいだろう、それでは見せてやろう。
「刮目せよ!これが本当の"チート"だ!」
━━━━━遡ること1ヶ月前
「ん?ここは・・・?」
目が覚めると知らない天井がそこにはあった。ここは一体・・・。
「せ、成功しちゃった・・・え、うそ、ほんとに・・・?」
声がする。誰だ。
「あ、あのぉ・・・」
「ん?君は一体・・・?」
見知らぬ子がそこにいた。足元にはいかにもな魔法陣らしきものが。なるほど、俺は理解の早い人間だからな。すぐに分かったぞ。ただ、ありえないとは思うが、万が一の事もありえる。一応念の為お約束の質問をしてみるか。
「日本という国を知っているか?」
「はい・・・?あ、えーっと、聞いたことないです」
よし、ビンゴ。残る選択肢は夢という可能性だが、ここまで意識がはっきりしているのだから夢の可能性はまずないだろう。
そしてさすがのご都合展開。言語の壁がないとは。
「さて、君にいくつか質問がある」
「は、はいぃ」
いや、そんな怖がらなくても。
「まず、この魔方陣らしきものはなんだ?」
「あ、それは魔物召喚の魔法陣です」
はい!?
「じゃ、じゃあ俺は魔物という判定になるのか?」
「い、いえ・・・ただこの魔法は本来人間を召喚できるものではないので一体何がどうなっているのやら私にもわからなくて」
「じゃあ、俺の判定はどうなるんだ?使い魔か?」
「い、いえっ。多分そういった判定にはならないかと・・・」
「曖昧だな。誰かはっきりと分かるやつはいないのか?」
「学園長なら分かるかもしれないです・・・」
「なるほど。あと、俺の今後の生活について・・・君に聞いても無理そうか」
「そうですね・・・呼び出しておきながら申し訳ないです・・・」
「なら、まずは学園長さんのところに案内してもらえるか?」
「は、はい」
「そうそれと、ここはどこなんだ?建物の中らしいが」
「ここは魔法学園の実習棟の1室です」
あ、ここ学校だったんだ。
「失礼します」
「おや、ティーナ。どうしたんだい?ティーナからここに来るとは珍しい。それと隣の人は・・・どうやらこの学園の人間じゃなさそうだが」
「おばあちゃん、魔物召喚の魔法あるでしょ?」
「あぁあるね」
学園長ってこの子のおばあちゃんだったのか。
「さっきそれを実習棟で練習してたの。そしたら魔物じゃなくてこの人が現れて・・・どうしたらいい?」
「なに?それは本当か?」
「うん、ずっと失敗してたけど、成功したと思ったらこの人が魔法陣の中にいたの」
「まさかそんなことが・・・いやでもそれはありえない・・・・だが・・・」
「おばあちゃん?」
なにか心当たりがありそうだな。
「昔から大切にしている、とある本にな、昔『魔物召喚』の魔法を使用し、救世主を呼び出すことにより、世界の危機を免れた。なんていうおとぎ話のような内容のものがあったのだよ。そして、その本の中で召喚しようとしたのは本当は強力な魔物を召喚しようとして、魔法を発動させたが、何故か人間が呼び出され、呼び出されたその人物は、聞いたことのない呪文のようなものを読み上げ、不思議な指の動きをさせた後に圧倒的な力で敵をねじ伏せた」
「あれ、私の状況と似てるような・・・」
「そう、そしてその本の内容と違う部分は、今世界は危機にさらされていないんだよ」
「あ、あのー、で、俺はどうすればいいですかね?寝て起きたらここだったので、何も持ってないし、帰る家もないんですが」
「あぁ、すまない。どうやら何か不思議なことが起こったらしくてな。申し訳ないが君を返すことができそうにないのだよ」
「あ、その点は大丈夫です。前にいたところなんてクソだと思っていたのでちょうどよかったです」
「そ、そうなのか。それでだ、私の孫であるティーナが呼び出してしまった以上、私も無関係と突っぱねるわけにもいかない。そして、できることなら学園生の寮にと思ったのだが、生憎あの寮は満室でな」
「そうなんですか。じゃぁ、どこか宿とかないですかね?」
「まぁそう焦るな。話を最後まで聞かんか。私らの家に住め」
「え!?あの、おばあちゃん!?」
「え、でもそれは迷惑になるんじゃ」
「なーに、気にするな。迷惑をかけたというならこちら側だろう。私とティーナで過ごすには少々大きい家だからな。誰か1人来た程度で問題はない。ただ、私が仕事を終わらせて帰るまではティーナと2人だけになってしまうが、それでもよければ来るといい」
「あのね、おばあちゃん」
「なんじゃ、男と2人きりになるのが嫌か?」
「うっ、うぅーーそういうわけじゃないけど」
「あの、ティーナさん、嫌なら俺は大丈夫ですよ。多少宿代とかいただけたらそれで何とか食っていくので」
「い、いえ!来てください我が家へ!私が呼んじゃったのに私が拒否したらそれは筋が通りません」
「それじゃあティーナ、家へ帰ってその方・・・」
「あ、まだ名乗っていなかったですね。俺は」
どうしようか。そのまま日本名を言ってもいいのだろうか。こういった場合、数々の作品で日本名はあまり使っていないキャラが多いもんな・・・。ゲームでの名前でも名乗ろうか。
「俺はリックだ」
「リックさんに家の案内をしてあげて」
「はい」
「ここが私達の家です」
「ほう、これはでかいな」
お金持ちが住むような超でかい豪邸というわけではないが、そこそこ大きい家だなぁ。
「おじゃましまーす」
「あの、リックさん?なんで靴を脱いでいるんですか?」
あれ、土足の家なのか。てか部屋で寝てたはずなのになんで靴なんて履いていたんだろ。
「すまない、日本では、家の中では靴を脱ぐんだよ」
「そうなんですか・・・流石異世界」
いや、地球でも日本以外の国だと靴のまま生活する国もあるみたいなんだけどね。
「左の部屋がリビングで、右の部屋はトイレとお風呂です。そして、2階と3階がそれぞれの部屋です。もっとも、半分くらいおばあちゃんの物置になってますが」
「なるほど、それで俺はどこに住めばいいんだ?」
「こっちです」
「階段を上がってすぐのこの部屋です。ここならおばあちゃんの物置になっていないので」
「わかった、ありがとう。これからよろしくな、ティーナさん」
「一緒に住むんだし他人行儀にならなくてもいいよ、普通にティーナって呼んでもらって構わないよ」
「そうか、なら改めてよろしくな、ティーナ。俺のことも呼び捨てでいいから」
「わかりまし・・・わかったよ、リック」
刮目せよ!これが本当のチートだ! 諏訪野ヒロ @suwano-hiro
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