第35話 謎の転校生C


「はぁい、皆さんにね、今日は重大なお知らせがありますからね?」


 神斉先生が教卓に立ち、にこやかに呼びかけます。

 幼児に言い聞かせるような、例の声色でした。

 今日も今日とて、転校生が来ることになった二年四組。

 今日も今日とて……って。

 よくあることだよーみたいに表現しましたが、ありえない、ちょっとありえない。

 立て続けに来ますね、転校生。

 


 クラスは言いようのない戸惑いにあふれていました。

 お互いに顔色を窺っています。

 このクラスにだけ転校生が来るのはおかしい。

 と、そういうことワケです原理です……みんなが二年生になってから三人目。

 まだ春ですよ、スタートした直後です。

 確率変動的なものが起こったのでしょうか、転校生ガチャですね。

 



 都会の中学校ならば、学期ごとに転校生が入ってくるのも全然普通だよ、という意見が渇浪かわらちゃんから出されました。

 人口の多い都市はそうなっているんだって言いますが―――いやいや、ないない。

 何の変哲もない町ですよここは。

 

 少子化が問題とされていることは中学生だって知っています。

 中学校付近はさすがにお店もあるものの、大半は、自然あふれる風景が広がっていますね。


「こんなに来るなんて、絶対おかしいよ!」


「ありえなくなぁい? このクソ田舎にさ」


 うすら寒い何かを感じているクラスメイト達は、はやし立てます。

 あめちゃんも、相も変わらずにやけている女子ですが、コメントに迷っている感じが見て取れました。



「ヤバいよ、ねぇさいか……コレさぁ人間界の常識を超えた、何らかの組織の手によって情報が操作されているんじゃあないかな?」


 まさかぁ―――と、私は笑い飛ばそうとしました。

 しかし不安げな飴ちゃんは珍しい……いやはや、ホント珍しい。


「事件性を感じちゃうよね~ぇ」


 よこで蟹場さんもうんうんと頷いています。

 戸惑っているような様子、なんとも平和な顔つきに違和感。

 やたら気になりましたが……。

 一体このクラスに、何が起こっているんだろう。



 ちらりと見た神斉先生は平静を装った表情をしているように見えます。

 笑顔ではありますが……本当に笑ってます?

 普通でいられるわけがないでしょう。



 三人目の転校生が私のクラス現れて。

 教卓の隣、さわやかな笑顔で挨拶しました。

 あれこれとごたごたはありましたが、それはそれとして第三の転校生に注目です。


「やあ―――ボクは なゆた。ゆぎなゆた―――だよ。 これから同じクラスなんだよね。よろしくお願いするよ」



 綺麗な男子。

 そんな印象をまずは受けたのですが、おっと、私と同じセーラー服―――女子生徒。

 CMに出てきそうな美少女でした。

 いや、少女というより大人の―――?


 やや低く、まったりとした声が教室に響いていきます。

 声が大きい女子というわけではなく、気が付けば―――教室が静かすぎた

 のです。

 男子は物珍しそうに転校生を見ているふうですが、女子たちは二度見、三度見しています。

 息を呑む音がどこからか、耳に届きました。


「うひゃあ………こりゃあまた」


 飴ちゃんもそれだけを言って黙っている、言葉を失っている。

 口から生まれたような彼女を知っている私から見ると、珍しいことなんですよね。


  純粋なカッコイイ系女子。

 睫毛まつげがびしっと主張していて生命力を感じさせます。

 ミステリアス枠な孔富あなとみさんも、背丈は高かったのですが、穏やかな語り口の彼女は、まったく違った雰囲気を持ちます。

 もはや転校生が連チャンでやってきた問題は、みんな忘れつつあるようです。

 なんだかんだ言って新しいものが目に入ってしまえば興味津々。

 そういうものでしょう……中学生だけなのかもしれませんが。

 私も大人になると、何か変わるのかなあ。



 ミステリアスな微笑を湛えております。

 唇を開けば犬歯からキランと擬音が聞こえそうな好青年……。

 いやいや、男子じゃあないはず……そのはずですが。

 わーお、中学を卒業する前に宝塚に入っちゃいそう。



 体つきは、ややぽっちゃりに見えました。

 彼女が姿勢を変えれば、教卓の陰にしなやかな脚が見えます。

 別段おかしくもない、健康そうな生徒です。

 そういえば前回の転校生である孔富さんはクラスで一二を争う細身であることで、たびたび目を引いています(本人はそんな視線など露知つゆしらずといった態度ですが)。

 二人目の転校生との差異を感じて………錯覚のようなものかな。




 ★★★




「出たんだな! 新しい魔法少女が」


 巨大な黒い建造物の一角だった。

 魔怪獣のおさ、レッベルテウスは報告を聞き返した。


「それで、奴については」


「ええ、ピュアコンバット、新しい魔法少女もまた高い戦闘力を持ちます」


 また新たな障害。

 三人目の天敵があらわる。―――どころか、こうなってくると敵が三人だけで済むという可能性にも、疑いが……!

 

 しかし重要なのはこの敵ピュアコンバットとは、という点だ。

 手ごたえがある。

 同じ魔法少女であるところのグラトニーのような殺戮や、奇襲、隠密行動をとる傾向があるマッドネスに比べると生存者ならぬ生存獣は多い。

 そこから、部下の声色に喜びがある。


「負傷したと、確かな報告が……」


「魔法少女がか!」


 

 魔法少女ごとにそれぞれ色合いが違う、あの『衣』………強靭である、しかし今回は確かに傷をつけた。

 銃器を使うが、それでも連携により接近戦にまで持ち込んだ。


「隙は見つかるはずだ……隙はある、既に!」


 レッベルテウス自身もまさかと疑ってしまう、良いニュース。

 我々魔怪獣の牙が確かに届いた―――届きつつある。

 魔法少女の苦戦。


「引き続き複数の隊で当たれば」


 勝機は見えている―――そんな希望的観測が湧くことも、無理はないだろう。

 そして。


「……『故郷』からも返答があった。各方面から対策を立てている。」


「それは、まさか…」


 増援?

 それを期待して顔色が変わる部下の魔怪獣。

 まだ確証はない未来ではあるが。


増援それも含めて期待しておけ。そして、気を緩めるな―――まずは一体だ、我々だけで、今いる我々だけで仕留めることが出来れば」


 泥沼のような戦闘は終わりを迎えることとなる!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る