第24話 転校生を歓迎しよう 4
土曜日の空は薄雲がわずかに散らばる水色。
駅のホームには、心地よい春風が吹き抜けています。
天気予報はあらかじめチェックしましたが、本日は降らないようです。
助かりますね。
かなり、助かります。
何気に私の住む地域は雨が多いです―――子供の頃はおかしなことだと思いませんでしたが、結構特殊であると、テレビで知りました。
そのため最近はむしろ、降らないことに不穏さを感じます。
転校生案内の会は続いていきます。
飴ちゃんが細かな解説をしながら先陣を切って歩いていきます。
「駅ビル、なんでもあるけれど
「お~」
転校生の案内がてらに、あちらこちらを指さし、しばらく歩きました。
ツインテールを揺らす蟹場さんにとって、目に映るすべてが新鮮だったらしく、目を輝かせている様子です。
私は私で、そんな彼女を見たり変わった街並みを眺めたりして、忙しいのでした。
降りた駅近くのファーストフード店に入ってひと段落です。
木目調の色合いな店内に足を踏み入れました―――、チョコレートみたいな色合いのテーブルがどことなくファーストフードカラーな飲食店です。
全体的に学生か、新聞を読んでいるお年寄りもいます。
「―――お待たせしました、チーズバーガーのセットをご注文の方ー」
朝日が窓からさんさんと射していたので、眩しすぎない座席を選ぼうとしていた時です。
無駄にうろうろしているのは転校生に失礼があっては良くないみたいな焦り。
「いや、転校生っていうか、いつものことじゃん。 さいかが焦ってるの」
「今日は一段と、焦っているんだよ……放っておいてよ」
店員さんが次々と呼び出しをします。
「―――ポテトジャイアントサイズ、三つになります」
当初の予定よりもたくさんのメニュー。
最終的にはテーブルの多くが、揚げ物で満たされました。わお。
「食べていいよ~ぉ。うふふ」
と、蟹場さんは微笑む。
どうしよ。
めちゃくちゃ頼んでるのはレジで隣にいてわかったけれど。
やっぱり冗談じゃあなかったんだ。
ていうかポテトの量だけじゃない……スペシャルギガンティックバーガーもその手にした彼女。
顔がすっかり隠れるサイズのビッグパティです。
蟹場さんはニコニコしている。
ここで
シェア、シェア。
と、直後に六本から七本のポテトをがっしりつまんで口に放り込む蟹場さん。
その、ギャップ萌えというのでしょうか。
うおおう、とそれを眺めて固まってしまいました。
「クレーン車みてぇ」
と、苦笑いの飴ちゃん。
ツッコミを入れれることに嬉しさを感じているのでしょうか、にやにや。
「えへへ、それほどでも~」
言いながら、ハンバーガーの包みもかさかさします。
「服とかもいいけれど、やっぱり食べてる時が一番好きっていうかあ……」
クラスでも、給食は食べていたのですがみんなと一緒の量だと気づかないこともあるものです。
転校生の特性。
見ようによっては私や飴ちゃん、どちらかの妹にも見えるかもしれない小柄なボディ、蟹場りずむさん。
めちゃくちゃ食べる子です……食べる子でした。
お金持ちなんだなーと思ったのですが、いや、経済的な余裕だとか、そんな視点がどうでもよくなるほどの流し込みっぷりです。
純粋に称賛するべきは胃袋でしょう。
そりゃあ給食でお代わり争奪ジャンケンに、必ず出場する子とか、いろいろ目にしてきましたけれど、これは。
「ごめんね~でもおかしなことでも何でもないんだよ? ごはん好きだし」
「一番食ってるやん」
「変でしょ、でもでも~、な~んにも悪いことじゃあないんだよ」
「撮っておこうか?」
飴ちゃんがスマートフォンを出したので慌てる私。
ゴホッ、ゴホッ
「
そんな、いま撮るなんて失礼だよ。
私としては親しくなれるかどうかの瀬戸際マックスです。
ここで下手を打たないで欲しい。
「いやーごめんごめん。 だってー、本当に楽しそうだからさー」
口をとがらせる彼女の、気持ちだけはわかりました。
本当に幸せそうに食べる子です。
みんなとは違う特異な人に対して、否定をする人もいるかもしれませんが、心底幸福感の中というか。
飴ちゃんが本気でいやな写真撮る気じゃあないのはわかるけれど。
私は一番食べる、食う。
もちろん私のお友達も、皆も食べていいの、食べちゃあいけない子なんていないの、そんな世界がいい。
これが平和。
そう言っているのが伝わってきます。
まあ私の文芸部要素と言いますか……心情を察知してみたつもりです。
蟹場さんポエム、カニポエム。
「誰も困らないじゃない?」
蟹場ちゃんは言います。
みんな食べているときが一番幸せなはずだって。
「あああ、そうなんだ、たくさん食べる系キャラかぁ」
たはは、と頭を掻く飴ちゃん。
彼女もちょっと予想していなかったようです。
私も彼女の前情報としては第一回転校会での「お菓子作れる」発言があったくらいでしたので予想外。
「食べ物すべていける系のヒト?」
ちらりと彼女の腹部を見やります。
別に巨大に膨らんでもいません―――低年齢感あふれる故の、おなかがぷにぷに感があるかも。
めくってみたいなあ、下腹部。
私ももぐもぐと、普通のハンバーガーを食べます。
何の変哲も無いバーガー。
このお店は久しぶりに訪れましたから、美味しく感じる。
久しぶりに食べると何でもおいしいですね。
このお店じゃあなくてもそうですけれど。
「さいかちゃんもポテト」
トレーをぐい、と押す蟹場さん。
あ、どうも……。
「こういうの、なんていうんだっけ、大食いの人、テレビで見たりするたくさん食べる人」
「いるいる! 蟹場さん大食いヨーチューバ―になれる!」
トレーいっぱいに詰め込まれていたポテトは積み木崩しのごとく欠けていく。
すごい勢いで減っていきますよ、主に転校生の手腕によって。
既にジャイアントサイズが一つ消えています。
食べているのが小学生体系の女子だとなんだか印象も違います。
あらあら、そんなに食べちゃうのーってなるんですよね。
微笑ましい限りです。
有北さいか、母の視点。
本当に幸せそうな様子でした。
私も小さな子がもぐもぐ食べている様子をキモい顔で眺めることしかできなくなります。
私はつやつやした彼女の頬を眺めているとなんだか癒されます
あーなんかいい。
蟹場さんを見守る私、親戚のおばさんみたいな感じになってる、たぶん。
たくさん食べる彼女を見守っていると、心温まります。
私も食べられたいなー。なんてね。
★★★
「あ、それそれ! さいかちゃんそれいいじゃん」
カバン屋さんでした。
大きな買い物をするつもりはありませんでしたが、転校生から似合うといわれると財布の紐も緩みがちですね。どうしよう。
「私も~カニちゃんでいいよ」
「え?」
「もしくはカニ先輩でも」
えっと……。
「いやいや、同級生やないかーい!」
飴ちゃんが肩に手を置きました。
そうですね、もうそれくらいの呼び方をしていかないとフレンドリーになれませんよね。
頭ではわかっているのですが、その笑顔を前にすると、元気で対抗できる気がしません。
「か、カニちゃん……!」
「あははははは!」
ちょっと、笑わないでよ飴ちゃん!
勇気出したのに!
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