第22話 転校生を歓迎しよう 2
話は数日前に戻ります、遡ります。
夕飯を家族で食べた後、飴ちゃんと話した、いや連絡を取っていた夜のことでした。
いくつかのメッセージが飛んできた―――それは、いつものことなんですけどね。
『駄目よ私が! なにがなんでも
包み紙にくるまれたキャンディのアイコンが、彼女のシンボルアイコンです。
そのアイコンからメッセセージが飛び出していきます。見ます。
メッセージは主にあの、フレッシュ極まりない転校生、みんなのアイドル、
転校初日からクラスメイトみんなに引っ張りだこにされている彼女を、何とかして遊びに誘うアポイントを取り付ける、という流れでした。
休み時間に仲良く、ではなく、校外へと足を延ばしていく―――アクティブにショッピングというか、案内する、そんなお話です。
サイトシーイング!
英語の授業でやりました。
『そうしないといけないの。
カニちゃん呼びですか。
ニックネームももうつけちゃって、いいですね。
私は少し考えてメッセージを送ります。
画面を、タプ、タプ……と。
「他にも仲良くしたい子はいるだろうし、それならそれでいい」
ブチ切れスタンプが連続で送りつけられました。
蛇がシャーッ!って怒っている絵柄です。
飴ちゃんが非難してきまくり。
確かに、仲良くなりたいという気持ちもありましたが、なんでも率先としますね飴ちゃん。
★★★
そんなこんなで今日という日は、飴ちゃんと二人で目的地に向かいます。
向かいはするんですが、駅に。
駅に向かってちりんちりん、自転車で走るふたり。
学校に行っていた金曜日などに比べ、さらに人通りが少ない道路を走ります。
うららかな春の日差し。
時折、水たまりを避けつつですが対向車はほとんどいません。
畑や田んぼ。
張った水が陽の光を受けて黄色く白く、輝いているいつもの景色。
飴ちゃんはがしゃがしゃと自転車を漕ぎながら口を開きました。
「お母さんがお金くれたの―――その子は見知らぬ土地に送り込まれ、絶対心細いだろうから、色々と案内してあげないといけないのって」
「えー」
お母さんに言われたことでもあるんですね。
常に飴ちゃんが色々とイベント、様々な行動を兼行しているから、よくそんなにあっちこっち出来るなあと思っていましたが、お母さんの入れ知恵なのですね。
飴ちゃんは、私以外にも色々と遊びの予定を持っている人です。
やっぱりお母さんもそんな感じなんだ。飴ちゃんはファミリーも全体的に力強い。
私にはできないプレーでした。
いいのかな、そんなの。
……っていうか、彼女は送り込まれたのかな、何その言い方。
「案内人が必要なのよ―――友達以前にそこからよね。 さいかもそう思うでしょっしょ―――?」
「えっと、それでも楽しそうに過ごせるならそれで」
蟹場さんがね。
「だあめよ!」
なんでですか。
ぐいぐい教えなくても、蟹場さん困りはしませんよ、私は見知らぬ場所を結構好きですよ。
何があるんだろう、みたいな。
知らない町を訪れても、楽しみしか感じません。
以後色んな説教をされました。
可愛い子が来たからには友達になれるように確実に唾つけておけとか
変態ですね。
……いや、やりますよ普通に。
「―――えっ唾液を? 普通に唾液を」
部屋の隅に虫が走っていたのを見た時のような視線を繰り出してきました。
「普通に!友達になるの!」
私が精いっぱい声を張りました。
近くを通りかかった人が何事だろうか、と首を傾げていました。
「―――それと、孔富さんは?」
ふと頭を過ぎり、尋ねてみます。
ミステリアスな女子のことを。
「そう、それなのよー!」
問題はそれなのよ、と思いのほか悩んでいたことを打ち明ける彼女。
どうも、転校生はすっかり一人だと思い込んでいたので(立て続けに二人は予想外ですよね)、ギリギリで予定に加えるか迷ったようです。
「まあいいか、と思ってお声をかけておいた」
まあいいんだ……スピーディなことですね。
なぜそこまで必死にできるのか、私などは驚きっぱなし。
私がやったことはと言えば転校生が来て、はあ、すげえなぁ―――と眺めていたくらいでした。
でもぐいぐい行くのが飴ちゃん。
まあそういうところが彼女の長所ですけれど。
一度に二人誘えば、蟹場さんと孔富さんが親しくなるチャンスもあるでしょうし。
「でも残念、また今度にしよう」
そう言いました、ことわられたのでしょうか?
うん、まあ急だったしね。
しかし彼女も、なんだかんだで心細いと思うので―――学校の、細やかなことは何も知らない。
学校近くのお店とか案内してあげたら嬉しいんではないでしょうか。
まあ飴ちゃんや、もっとおしゃべり上手な子がやると思いますけれど。
……そもそも、そういうのが合わない人もいるけれど。
お喋り、お出かけが。
クール系なのかな。
グループでわいわい、という人には全く見えない。
孔富さんに関してはそう思う私でした―――偏見、人を見た目で判断してしまいます。
まだこのクラスにやってきたこと自体が、突然な事態でありまして。
どうすればいいかわからないところはあるし。
心境整理。
まずは様子見しておきましょう、と。
自転車は住宅街やチェーン店がちらほら見えた道を通っていきます。
車通りが多くなってきました。
「あっ」
休日朝ではありますが、駅の駐輪場にはそれなりに自転車が止まっていました。
中学生のものと思しきものに、いくつかいろんな年代物が混じり。
隅の方には赤さびが生えたものが停車してあります
いや、それよりも何よりも。
目立つ人物が―――駅の階段を上がったところにいました。
笑顔で、手を振っている女の子がいます。
黄色、赤、オレンジ。
そんな色遣いが鮮やかで、普段とはかなり違うイメージ。
髪型は例の、くるんってなっているツインテールだけど蟹場さんだ。
うっわ、違う。
なんか違っている。
中学校の制服とは違った色合いに、目を奪われてしまます。
背伸びしつつ手を振る様子が小学生、なんだかんだで幼い印象が強いですね。
「うわ、さいか前見て走ってっ」
ごめんごめん。
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