第三章
第21話 転校生を歓迎しよう 1
一見して何の変哲も無いように生きている有北さいかではありますが、毎日が全く同じではありません。
教室で話す内容ひとつとってもそうですし、すべての人がそうなんですよね、きっと。
今日も今日とて、進展があります。
自分の身の回りには新しいことが起き始めているようです―――。
その日の朝、私は鏡をのぞき込んでいました。
よく知る顔と目が合います。
自宅の、二階の階段上がった直後、真っ白な洗面台。
今の私と同じように無個性な洗面台には、家族の歯ブラシが色とりどりと。
あとは
昔はもっと―――。
小さなころは、自分の人生は素晴らしいものになると信じていました。
そんな気がします。
両親に保護されきっていたからでしょうか。
周囲に怖いものがなかったからでしょうか。
そうかもしれません。
でも大人に近づくにつれて―――なかなか、そうはなれない自分がいます。
ケータイがピロリロリンとなり、ビクッとします。
メッセージを送ってきたのは誰でしょう、このタイミングは―――。
発信者を一瞥して、私は反射的にドタバタ。
こつんとぶつけて、歯ブラシとコップが洗面台に転がり落ちました。
うわあ、何やってんだー!
「飴ちゃんもう来るかあ!」
今日は土曜日。
すなわち、教室には向かわない日。
飴ちゃん、蟹場ちゃんと三人で旅行……旅行っていうほどじゃあないや。
市内散策というか県内散策。
一緒にどこかに遊びに行こう、というスケジュールになっていました。
繁華街に繰り出しますよ。
ショッピングです、ウインドウショッピング。
あれあれ、ウインドウショッピングってどういう意味でしたっけ。
まあそれはそれとして、蟹場さんに会えます。
私が誘ったのかって?
いえいえ、飴ちゃんが、クラスに多くいる他の子と同じように「どっか行かなぁい? 転校生」ムーブを繰り返し、圧をかけ、何とかして約束を取り付けたのです。
飴ちゃん情報によると私たちが一番乗りだそうですが、蟹場ちゃんとお近づきにな りたい勢、の存在はあります。
色々と興味津々な女子たちがアタックを仕掛けているようです。
また、男子たちも―――その真意も心理も定かではありませんが、彼女のことを目で追っている節があります。
というわけで、
『―――お休みの日の予定! 全力全開!転校生歓迎会~蟹場さんを添えて~!』
というグループラインが設立されました。
なぜフランス料理風なんでしょう
全然わかりませんね、……まあ、いいけれど。
目的としましては、当初、服とか映画とか見に行こうよーという話になりました。
しかしそれだけでなく、この町、どころかこの県に来たばかりという彼女に、町を案内することがメイン。
どこに何があるのか、がポイントです。
それを教えるのが親切なんだなーというのが飴ちゃんの発想、計画でした。
極論、道を歩いているだけでも楽しいでしょうよということで、投げやりな感じもします。
実に飴ちゃんらしいなとは思いました。
なので、一つのスポットに長時間いるのは良くないのでは?
などの意見のもと、お話は進みました。
私は私で、美味しいなと思ったお店を教えるつもり満々です―――まあ中学生が行くというより、蟹場さんも、ご両親と一緒に行くといいお店があると思いますし。
きっと家族全員が、そうなら―――アドバイスするに越したことはないと思います。
そんなことを想い返しながら、お出かけの準備をします。
歯茎がちょっと痛いくらいまでゴシゴシしました。
気合いがこもってしまった。
まあ磨けたでしょ―――歯ブラシを置く。
鏡に映る私の顔。
ふと思い立って、髪をいじり結びます。
左右に、円を描く感じの形。
蟹場さんと同じツインテールを目指し、くるくるといじります。
「ああ、なんだか……」
違うんですよね。
思ったようにはなりませんでした。
蟹場さんの顔立ちはほっぺたがもっちりしていて、小柄なことも相まって横に伸びている感じのビジュアルです。
それがまた、可愛らしいんですよ。
鏡に映る私には違和感しかありませんでした。
同じ見た目をイメージしても、私とあの子は違う―――気がする。
髪の長さが足りなかったからなんだかこじんまりしたものになったって言うのもあるけれど。
あの子はまだ、これから何にだって変われる。
どんな子とでもやっていける、友達に。
そんな気だけは、します。
何の変哲も無い私とは違い。
転校生だから―――なんだかキラキラ、魅力的をしている。
そのように見えるだけかもしれませんが……。
私がそう思っているだけかと。
これから彼女はこの学校で色んな友達を作っていくのでしょう。
すごいなと思う反面、なんとしてでも捕まえたくなるような。
……真似はしても、仕方がないけれど。
同じ髪型にしても、違うけれどやっぱり。
近づいてもいいのなら、許されるのなら、近づきたい。
朝の鳥の鳴き声はそういえばもう聞こえなくなり、家の表の道路を走る、車の音が増え始めたころ。
電車の時間にはまだ余裕がありますが、飴ちゃんが迎えに来ました。
「おはようでーす!」
階下では、お母さんが返事をしていました。
私もいかないと。
ええと、鞄に昨日、全部入れたし。
「行ってきまーす!」
さあ、駅に出発です。
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