第20話 謎の転校生B 2
「これから一緒のクラスで一緒に過ごしていく子よぉ」
神斉先生が例の、
クラスメイト有志による様々な予想人物像、
いよいよ転校生本人がお越しです。
廊下から、歩いて入って来ました。
歩幅が
教卓に並び立ちました。
「転校生の、
眼鏡の奥にどんよりとした瞳を持った女子生徒でした。
……と、言うのが第一印象です。
堂々としている、とは違います。
睨みつけているような視線が気になりました。
明らかなジト目と言いますか、瞼がしっかりと落ちて―――これは。
なんだか眠そうです、
そんな仕草や雰囲気は、少し癒し系?
癒し系ならば、蟹場さんの方かなと思っていたのですが。
「今日からこのクラスでお世話になることになりました。……まー世話にならないようにせいぜい気を付けるよワタシは」
せわしない作業音が聞こえてきます。
作業はしていないのですが、そわそわと。
「うっほほう、ミステリアスぅ……! 目立つなあ……ありゃあ!」
飴ちゃんが前のめりで食い入るように視線を送っています。
机がぎしりと音を立てました。
案の定というか、リアクションの良さを感じますね。
あなたよりも目立つ人はそうそういないと思うのが私の感想ですよ……なんか文句ありますか、ないですよね。
とはいえ確かに、不思議な雰囲気を持つ人です、
蟹場さんとは全く正反対な性質だからインパクトがあるように見えるのかもですが。
すらっとした体形で、同性としては羨ましく思います。
やっぱり第一転校生と比べてしまうから、際立った身長に見えるのかな。
そんなことを思います……蟹場さんは自他ともに認めるミニマムですから。
個性を感じる二連続転校生。
転校生トワイス。
しかし彼女、強靭さからはほど遠いので、守ってあげなければという気持ちも沸きます。
目元を見るとどこか鋭利な印象も垣間見えるといいますか。
女子というよりは女史、的な。
あくまで印象ですが。
「賢そうな子だね……」
「クール系?」
周囲の子たちがぼそぼそと、分析(?)をはじめます。
仲良くなれるだろうか、と疑問視も。
もちろん仲良くしたいです―――と、願望はあるのです。ケンカしたいわけ、ないでしょう。
しかしながら不思議な雰囲気をまとった、仲良くするのは難しいことだと私の中の何かが言っています。
自分の世界持っているタイプの人でしょうか。
あ、それだったら私も閉じこもる系。
魅力的な人が来たようですが、私はここにきて、彼女の内心を図ります。
みんなの前で話すの、一人で話すのって怖くないのかなあ、と。
凝りもせずな発想ですが、知っている顔が一人もないのはアウェイですよね、彼女にとって、初めての空間。
そのふらついた立ち姿が、弱気な態度を
「本当にすごいよね、私、立たされるのとか立たされる人とか、感情わかっちゃって嫌だよ……」
彼女についての印象や容姿をとやかく言うのは控え、私はそういいます。
法廷に出頭しなければならない時って、そういう気持ちなんでしょうか……。
ひたすらに心臓が凍る想いです。
初めて顔を出す場所では、誰でも弱ります。
そこで普通に話せるばかりか、挨拶を噛まずに言えるのは尊敬しかありません。
噛むほど舌がすばやく動いていないふうでもありましたが。
「挨拶か?挨拶といっても何を言えば―――学校生活をちゃんと送れるといいね……キミたち、皆さん―――よろしくね。 毎日、ワタシの思考回路を乱さん程度に
威勢がいい飴ちゃんとは異なり、見るからにダウナーというか、変化球というか。
個性豊かなことです。
なんだあいつ、と小声で渉野くんが困惑声で言いました。
たぶん照れているんだよ。
彼女の挨拶もそこそこに(挨拶だよね……?あれ挨拶だよね)、進行していきます。
それはさておいて、転校生が二人もやってくるとはにぎやかなクラスもあったものです。
二連チャンの続けざま―――、転校会は進行していきます
転校会。
なんだろうそれ。
転校生が来た日の最初の儀式、校長先生の挨拶の転校生バージョン―――とにかくわからないけれど、なんかそういう舞台です。
「―――いよっ!転校生!今日からよろしくね!」
用意されたピカピカの席に歩いていく第二の転校生が通り過ぎるとき、飴ちゃんが声を駆けました。
……勇気ありすぎでしょ。
っていうかそのノリで話しかけても彼女には合わないってなんとなく察しなさい。
ところが予想に反して(?)。
そんな太陽みたいなテンションにも孔富さんは対応してくれました。
「ふっふふ。 よろしく。 ……ああは言ったけれど、楽しいことは楽しいよ」
最近は、と。
言った笑顔は気さくな感じでした。
飴ちゃんだけでなく私のことも一瞥し、すっと視線を外しました。
眼鏡のフレームの奥にある瞳は、別に私と変わらないように見えます。
あら、意外と可愛い瞳かも。ちょっとキラキラしている。
ただシャイな性格という人ならば、その方がありがたいんですが―――親近感湧きそうですよ私は。
同類です、同類。
んもう、そんなわけないじゃあないですか。
飴ちゃんはいつも妄想が
はきはきと、転校生にアピールするような飴ちゃんは。
「……眠いんだ? 今日のことで緊張して、寝られなかった?」
ああ、そういうこともあるなと今さらながら気づきます。
転校ってドキドキ。
遠足の前日じゃあないけれど、明日は大舞台だ―――その想いで眠れなかった―――そういう人もきっといますよね。
孔富さんは少し悩んだ後、顔をほころばせました。
あら、落ち着く笑顔……。
「眠れなかったことは本当なのだよ、ただ―――」
嗚呼、やっぱり体調すぐれなかったんだなあ、と一瞬安心。
謎の、安心。
ただ?
「最近、毎日が新しいことばかりでね―――目が覚める想いというのかな」
小さい子の様な瞳。
その瞬間は、普通の可愛い子に見えました。
蟹場さんの、可愛くもちょっとだらしない微笑みとはまた違いましたが。
落ち着きのある性格かと思いきや、そうでもないようです。
いろんな表情を見せ続ける
両手のひらを天井に向け、指をうねうねと動かしつつ、笑います。
「昨日の解体も楽しかった……」
「え?」
「いやいや、この町は素晴らしい町だね。 うんうん…具体的には……ああ、あああ! 目に映るすべてが新鮮なのさ―――はは」
はっはっはっはっはっはっは!
と、高笑いをはじめました。
妙に平坦な声色。
突然なことで不自然さを感じましたが、なんでしょう、元からそういう人なのかな。
またはその笑い方が流行っていたとか―――前の学校で。
だとすれば変に指摘するのも
「深く考えてはいけない。 新しいものに出会うと興奮してしまうよね。それはワタシも教室の、みんなも同じというわけだ。わけなのだよ!」
「はぁ……」
……まあそういうものなのでしょう。
孔富さんは眼鏡のフレームを抑える仕草をします。
今さっきずれたのでしょうか。
彼女は意外にも豊かな表情を見せる人のようです。
第一印象からの落差は、蟹場さん以上かな。
「楽しみが増えるんだよ、毎日。 それだけだ。毎日まったく違う相手との出会いも―――あって」
知りたいことがそのたびに増えていくのだよ。
そう呟いた声は私にしか聞こえないほどの呟きでしたが、迷いの感じない言葉でした。
このクラスに来てということでしょう。
思うに彼女は、それを前向きに捉えて、転校できる人なのかな。
だとすればすごい……そんな精神力を持っているんだあ。
感心してしまう私。
知的なオーラのある人だけれど、元気な性質もある人なのでしょうか?
そんなこんなで、転校会(まあこれでいいか)もそろそろ終わる頃合いです。
ちらりと周りを見ると、皆、好奇心満々といった瞳を向けてはいるものの、直接声をかけるのはためらわれる感じでした。
その近寄りがたさは芸能人を見ているような感じでしょうか。
男子じゃあなくてよかったなー。
男子だったら友達になる難易度が高くて、っていうか避けているかも。
ちょっとでも怖そうな顔の人だと、私は無理。
見た目だけで判断してしまう感だけれど―――できればめちゃくちゃ弱そうな男子がてんこうしてこないかなあなんて。
それだったら私も、話しかけやすいです。
そんなものが私の本音……なんとも情けないカンジですねー。
テンションはほどほどな空気と言いますか。
冬将軍到来、とまではいきませんが皆、警戒?……彼女の出方をうかがっています。
沈黙が大好きな私としてはこのくらい静かな教室の方が、居心地が良い。
そんな本音がありますけれど。
自分よりうるさい人が多すぎると、やっぱりきついですよね……。
前の蟹場さんの時は大盛況でした。
スポーツ観戦じゃあないんだからほどほどにしてほしいですよ。
席に着くことを先生に勧められたとき。
何か、というか、一人を。
蟹場さんの席です。
第一転校生であるところの蟹場さんもまた、第二である孔富さんを見つめているような。
気になっている?
お互いに?
……いや、転校生挨拶の場だし、注目は普通で必然かな。
もしかしたら孔富さんも、蟹場さんファンになったのかな―――見つめ合うだけで。
目と目が合うだけで。
ぐぐ、と孔富さんの瞳が細く引き絞られたことだけは見えました。
そんな絵面は数ほどで終わりましたが。
おかしな光景でもないでしょう。
孔富さんの言う、知りたいこと、新しい出会い、それには可愛らしい蟹場さんの姿がしっかりと合致する気はします。
そういえば蟹場さんも転校生であると、知っているのでしょうか―――神斉先生から一言吹き込まれていてもおかしくはない―――親切心でしょう。
後ろで飴ちゃんが何事かを近くの女子と囃し立てるのが、遠い国の言葉のように聞こえました。
そうしてようやくいつも通りの日々に戻りました。
最近、なんだか目まぐるしい変化が多いです。
新しいことばかりが起きるようですね。
この時は知る由もありませんでしたが、のちの私は知ります。
新しいことが起きること、起きていること。
今日あった転校会は、そのほんの前触れに過ぎなかったのです。
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