第30話 戦闘 3

 

 蟹の魔怪獣は、引き寄せられた節がある。

 ライフルを一発受けたときに甲殻に明らかな損傷、同時に痛みが走った。

 連射されたら耐えきれないと判断した彼は、決死の覚悟ではさみを繰り出し、差し違えようとした。

 そうして少女に迫ったことが、狙い通りだとすれば。

 彼は引き寄せられた。


 


 Lahtiラハティ39。

 グリーンの少女が使用した、対物ライフルである。

 爆風に靡いたのではなく、撃った音および衝撃で風が起こる。



 ―――どう考えても、巨大すぎる。

 警官は思った。

 そもそも今、どこから。

 どこから引っ張り出した?この武器を………少女の身長ほどの長さはある。

 地面に支柱を立てて、固定して撃たなければとても狙えない狙撃銃だ。



 本来、人間相手に使っても、連射などできず、碌に移動もできない。

 メリットがないとされる銃器である

 ただでさえ現代の狙撃手は、動けることが選択肢に上がると強い。

 魔怪獣相手このばあいは有効であった。



「戦車相手とかに使うやつなんだけどね……ホントは」



 知識としても、目を疑う。

 軍か、機動隊か。

 職務的な立場上、心配をしてしまう―――盗難届は出ているのだろうか。

 そんなことからまず思考を始めてしまう警察官。

 大人の身長ほどはある兵器だ―――どこで拾った?

 いや、拾えるわけがない。

 

 木の棒を取りまわすような何気なさでもって、それを軽々振るう少女。

 それよりも何よりも、自分ですらあんな鉄の棒を持って、敵に向けられるか、確証が持てない。



単発しか撃てないボルトアクションの方がいいか―――硬い敵もいるもんだねー」


 そうして蟹が迫り―――近距離だと、赤い楯にヒビが入っているように見えた。

 鋏で掴みかかった瞬間に、爆発。

 少女が爆弾に巻き込まれた―――見ている分にはそう錯覚した。

 だが、そうではなかったようだ。



 鼓膜に悪そうな爆音が、消え去ってから見上げれば。

 少女の衣類から硝煙が吹いている。

 

「炸裂火薬装甲だよ」



 ザザザ。

 高い位置から砂の音が聞こえて、警官は見上げる。

 無線機―――?

 衣服のどこかから、ケーブルが引っ張られていた。

 その先端に収音機部分。

 その少女は唇をその銀色の機器に近づけ、何かを呟く。



 途端、硝煙は消え去り、グリーンのドレスが露わになる。

 傷ひとつ、ついていない。

 消えた---銃がそうだったように、服まで着替えたかのような印象を、見ている者に与えた。


 少女は首を振り、流し目を向ける。

 砂浜に腰を落としている警官と、幼い女の子を。



 その後、彼女はそのライフルを消し去り―――再び連射の利く銃器でもって、残りの敵陣に突っ込んでいく。

 もっとも硬そうな蟹の魔怪獣を倒したとあって、残りの魔怪獣は苦戦、攻め切れない。


「魔法、少女……!」



 警官は呟いた幼女を見る。

 無事なようだ。

 さっきから戦闘の最中にいるが、自分も含め、怪我はまだ負っていないのか。



 戦っている少女。

 あれは、異常な存在であることに違いない。

 魔法少女は平和のために戦ってくれる。

 様々なニュースで、存在は知っていた。

 だが見てみると、震える。

 バケモノを人間界の銃器で退治しているという状況は、人の心を動かした。



 手に負えない存在を、超常の力で薙ぎ倒すというような話が多かった。

 だが、その気になれば我々、人間にでも―――。

 希望のはずだった。

 だが、自分には―――その時が来たら、出来るだろうか。




 倒せることは倒せる、と判断した彼女。

 だがこの場合は……?

 幼女をグイ、と軽々と引き挙げて肩に乗せる。



「―――こっちに来て!」


警官も、慌てて立ち上がる―――。



 ★★★




 潮風が黒い毛皮を撫でていく。

 猟犬は前足を揃えて座り込み、事態を眺めていた。

 監視。

 魔怪獣と、魔法少女の―――の戦闘を、悟られない距離からである。

 高層階の建物がない観光地の砂浜地域であることが、幸いした。



「あれが……魔法少女」



 走っている女を見る。

 整った顔立ちに長い髪をなびかせていた。

 髪の色は―――わからない。

 日光を受け、きらきらと眩しい。


 銃火器で、そして―――接近しての爆発?によってトゥラベクを撃破した。

 鋏は奴の必殺の一撃だ。

 完全にグリーンの少女を捕らえた、と猟犬ドルギージス自身も思ったのだが。



「何をした……?」


 

 猟犬の鼻がひくり、となる。

 火薬の匂い。

 随分と弾を使っているようだな。

 射撃が---能力の本質か?

 まだ監視は続けるが。

  


 ドルギージスはふいに、別方向の空を眺める。

 そこには曇天のような薄暗い船が浮かんでいた。

 あれに別部隊が乗っている。

 魔怪獣の本艦から送られてきた―――増援である。




 勝利の予感がぎる。

 今回に関してはまだ優位に見える。

 魔怪獣の大多数にもっとも恐れられている存在はピュアグラトニー。

 我々に初めて遭遇した、という初回インパクトによるものがあるが……獣を圧倒するパワーを持つ存在だ。



 ブルーの魔法少女もいるらしい。

 だがその実態はわかっていない。

 奴は姿をほぼ目撃されることなく、魔怪獣を消しているらしいからな。

 俺はそいつの方が会いたくない。





 今回のグリーンの奴は、情報が全くないが、それでも我々を一網打尽には出来ていない。

 攻撃力に、何か、決定力がない。

 色々と道具を使うようだが。



 ピュアグラトニーに関してはループレが自分の目で確認してきたと、興奮しながら話しかけてきたが。

 ……あの小僧(年下というわけではないが、態度が幼い)、興奮して話した割には攻撃の範囲もスピードも曖昧な説明だったが。

 


 目の前のあれはなんだ。

 厄介であることに違いはないが、あれでは武器を持っている人間、と言った具合だ---眺めていた。



 両手に人間を抱えて飛んでいやがる。

 あれでは戦えない。

 もう少し様子を見るか

 残念な奴だぜ。


 奴を倒せる……?

 もう一部隊がこれば。

 隊が一つやられているが半壊。

 増援が到着したからには、まだわからない。

 どちらにせよ、魔法少女の戦闘力を、この目に焼き付けなければなるまい。



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