第6話 ウィルとヨルガンファミリア
大激闘のせいで俺とシャーロットはギルドに呼び出しを喰らった。両者の体は傷だらけのまま治療はされていない。
「全く、また君かいヨルダン・シャーロット。」
ギルド長のロバーグ、自分のちょび髭を手で弄りながら書類とシャーロットを交互に見ている。
「罰金はいつもの倍だ。追加してダンジョンに行き、この書類に書いてある材料を調達いてこい。もしまた同じような事をすれば・・・分かっているな?」
ロバーグは自分の背後にある書類の山を見た後、シャーロットの肩の手をおく。シャーロットは黙って何度も頷くだけしかできなかった。
「お前は誰だ?見ない冒険者だが」
ロバーグは俺に視線を移し上へ下へ念入りに見てくる。
「名前はウィル、先日この都市に訪れたばかりだ。」
「なるほど、それで君はファミリアに入隊するのをかなり拒んでいるようだが?」
「フリーの冒険者の方が自由が効く、それに俺にファミリアは必要ない。」
今更冒険者を辞めるなら何やらはもう言わない。いつ攻撃されるかわからない、ステイタスを維持しておかなければ。それに、あいつは俺の兄さんについて何か知っている。
「上級冒険者がフリーで活動するなんて勿体ないじゃないか。君の意思が硬いならしょうがないが、シークミラーに冒険者登録をしておいてくれ。でなければダンジョン探索に行かせられないしクエストも受けられない。こちらも上級冒険者の管理をしておかないとならない。」
俺は前に某都市でシークミラーに冒険者登録をした時に、ギルドが大騒ぎになった事を思い出した。それは都市最大の防衛軍をも放出するまでだ。
「登録はしなくていい、ダンジョン探索は行かないしクエストを引き受ける気はない。」
「なにぃ?お前はイカれているのか?」
ローバグ、シャーロット、そしてギルド長室の扉近くに控えているライシャが驚きを見せる。
「宝の持ち腐れだ、お前は一体ここになにしに来た?」
「・・・・」
「闇の取引か?密輸か?都市壊滅か?」
ライシャが少し構えをとる。
「人探しだ。昔他国で会った冒険者を探している。」
咄嗟にそう答えて乗り切ったが信じてもらえるのかわからない。
「んんー、そういう事か。でもギルドとしては君にような上級冒険者を放っておくのは胸が痛い。少しは冒険者登録を考えはくれるか?君の人探しにも協力しよう。」
上級冒険者は都市を潤す、ロバーグはギルドの利益に純粋だな。
説教が終わりギルドを出た時にシャーロットは俺にヨルガンファミリア本部に来るように言った。
「君を挑発した謝罪も込めて、君の気になっている事について少し話そう。それにここはシャルトが見張っている。」
確かに誰かの視線を感じていた。俺たちがまた決闘になる事を恐れているのだろう。それにシャーロットはライシャについて何か知っているかもしれない。俺はヨルガンファミリア本部に行くことに同意した。
(ウィル、彼の家名は何だ?)
ライシャはギルドを出て行くウィルとシャーロットを建物の影から見ていた。
「私の考えすぎか」
ライシャは二人の背中を見送って警備の仕事に戻った。
「ウィル君、改めてようこそヨルガンファミリア本部へ。」
ここは執務室か、さすが重要ファミリアだ、大豪邸に豪華な執務室。
「雑談は不要だ、どこで俺を知った?兄さんの事はどこまで知っている?」
正直その事だけで頭がいっぱいだ。
「4年前、カムイ王国に任務で出向いた事がある。任務とは言うまでもなくあの事件だ。」
「ルークス家虐殺事件・・・」
「そうだ、ルークス家がカムイ王国に滞在中、アルテイナと同じ目を持った男が現れ戦闘になったらしい。ルークス家の亡骸の近くにアルテイナの目を持つ男がいたと目撃情報があった。」
ルークス家虐殺事件。鮮明に覚えている、事件の日の夜に血だらけの兄さんが部屋で倒れていた。全身を打撲し無数の刺し傷から大量に出血をしていた。仲間との共同部屋であったことから、他の仲間にも見られてしまった。
突然だった、あんなに楽しく暮らしていたのに、何の前触れもなくその時を迎えた。
「私たちは王国の防衛隊の情報から、その男はまだ王国内にいると見て捜索兼討伐を目的に動いた。捜索から三日目に見つけたよ、眼帯の兄弟を。覚えているか?工場区で喧嘩をしていたな?」
覚えている、人目のつかない工場区。俺たちは言い争っていたところ無数の視線を感じ取っていた、それも殺意のこもった・・・。視線は当時のヨルガンファミリアのものだったのか。
「覚えている、お前たちがその後兄さんに接触したことも。お前の話から何故お前が俺のことまで知っているのかも分かった。」
「鋭いではないか。俺は彼と戦っている、顔と目は鮮明に覚えている。君を見た時そっくり過ぎて驚いてしまったよ。」
「君は気をつけた方がいい、君の兄さんは君を探しているだろう。」
「それに彼女はライシャではない、今の彼女はレナだ。」
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