第12話フットワークが軽い奴
「タスマニアタイガーが絶滅した。」
杏は確認するように声にだして、それをそのままメモに書き殴る。
「あなたの世界と私の世界の二つ目の違いね。」
「うん。それに今回は間違いないよ。タスマニアタイガーは確かに絶滅してた。僕は子供の頃、動物が好きだったからよく動物の図鑑を読んでいたのだけど、その中に絶滅した動物も載っていてね。タスマニアタイガーもその中に含まれていたんだ。もうこの世界にいないんだって知った時は悲しかったな。」
「でもこの世界では普通にタスマニアタイガーは存在するわ。絶滅危惧種だけどね。カンガルー、コアラ、タスマニアタイガーはオーストラリアのマスコット的な動物じゃない。」
「ありえないよ。そんなの僕のいた世界じゃ。カンガルーとコアラは僕のいた世界でもそうだったけどね、どうやら僕は本当に別の平行世界に飛ばされたみたいだね。それもホントに微妙に違う平行世界に。」
「ねぇ。せっかくだったら、タスマニアタイガーを見たいとは思わない?」
「そりゃ見てみたいけど、日本の動物園にもタスマニアタイガーはいるのかい?」
「いないわ。だからオーストラリアに行くのよ。」
杏が目を輝かせる。
晃は一瞬、思案して「いつ?」と尋ねる。
「できれば今月中、晃君はパスポート持ってる?」
晃が首を横に振る。
「なら明日パスポートを作りに行きましょう。」
「えっ。でもそんな急に、僕は杏ちゃんと違ってそんなお金ないよ。」
「私が出すわ。今回の事故の慰謝料ってことで。」
杏はそう言って舌をだして笑う。
「でも聞いたことないな。事故の被害者と加害者がその慰謝料で海外旅行を一緒に行くなんて。」
「かなり特殊なケースね。でも忘れないで。私達はきっと今この世界で一番特殊な二人なのよ。」
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