第10話 招待される奴

「こんないいマンションに一人で住んでるの?」

晃が声を裏返させて叫ぶのも無理はなかった。

自分とそれ程年齢の変わらなさそうな杏が15階建ての高層マンションに住んでいるというのだ。


「まぁね。私は晃君と違って社会人だから多少のお金はあるわよ。」

杏はそう言ってキーを回してオートロックのドアを開ける。

「多少だって?こんな高層マンションの家賃、俺の親父だって払えやしないよ。杏ちゃんは一体どんな仕事をしているの?」

晃はエレベーターホールに置かれているマーライオンが水を吹き出す噴水の水に手を当てる。

「そういえば俺って杏ちゃんの事ほとんど知らないな。」

「私も晃君のこと、22回も事故に遭うドジな奴ってことくらいしか知らないわよ。」

杏が意地悪そうに舌を出してエレベーターの開閉ボタンを押して二人が乗り込む。

「何階?」

「15階。高所恐怖症とか言わないでよね。」

「チッ チッ チッ。僕は怖がりだけど昔から高いところは大好きなんだ。」

「あらそれは意外な一面ね。私もやっぱり、晃君のこと知らないみたい。」


杏の部屋に入っても相変わらず晃は驚いていた。

一方の杏はというと、奇妙なことに巻き込まれてばかりいる癖に何にでも驚ける晃に驚いていた。


杏の部屋のリビングはラタン素材と木製の家具で統一されていて、暖色のフロアライトが部屋を照らしていた。観葉植物が部屋の至るとこに置かれていて天井からはハンモックが・・・と長々と説明するよりも晃のシンプルで馬鹿っぽい発言の方がわかりやすいかもしれない。


「なんかバリ島みたいだね。」

そう杏の部屋はバリ島っぽかった。

「私季節の中で一番夏が好きなの。だから部屋は常夏のリゾートってわけ。気に入って頂けたかしら。」


「もちろんさ。僕は前から杏ちゃんはハワイの人みたいだなって思ってたんだ。ほら肌は小麦色で瞳は青いでしょ?もしかしてハーフ?てか職業は何?そもそも年齢は・・・」


杏の細い人差し指が晃の口を塞ぐ。


「焦らないで。夜は長いから。これからゆっくり答え合わせをするのよ。私がこれまで見て来た世界とあなたがこれまで見て来た世界をね。」







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