第9話 成長する奴
熱いキスを終え、重要人物のKを知らぬ間に追い払った二人は車を降りて時越交差点を観察していた。
晃は「時越交差点」と書かれた標識を眺めながら何か釈然としない気持ちを抱く。
「どうしたの?何かわかった?」杏は目を輝かせて晃に訊ねる。
「いや、何か引っかかるんだよな。」
「何が引っかかるの?」
「それがわからないんだよ。一体何だろ?」
「そう。何かわかったらすぐに教えてね。」
そう言って杏はまた横断歩道を観察を開始する。
これだけ聞いたら薬物でもやっているのかと思われるかもしれないが、杏は地面から人が生えてくるのを待っているのだ。
二人は車を降りてからかれこれ一時間は交差点の観察を続けている。
杏の集中力ならあと数時間は観察を続けていられただろうが、晃の集中力はもうとっくに限界を迎えていた。
晃の意識は30分も前に驚いた鳩の群れのように散り散りに飛んで行ってどこかを飛び回っていた。
しかしそれが良かった。
晃も杏と同じように横断歩道をじっと観察していたとしたらきっと見落としていただろう。晃は集中していなかった分、結果的に広い視野で目の前の景色を捉えていた。
晃の意識は伝書鳩のように舞い戻り、その足に有益な情報を確かに掴んでいた。
「ときごえ交差点はいつからときごえ交差点だっけ?」晃が不思議そうに杏に訊ねる。
「さぁ。知らない。私たちが生まれる前からトキゴエ交差点なんじゃない?」
杏は横断歩道から目を背けず素っ気なく答える。
「それはそうだけど、僕が言ってるのは漢字の話さ。時声交差点はいつから時越交差点に名前が変わったんだ?」
杏はパッと晃の方に向き直るとそのまま晃の頬にキスをした。
「私にはわからないけど、きっとそれよ。家に帰って一度整理しましょう。今日は泊まっていって。」
女の子の家に泊まるなんて晃には初めての経験だったが、今回晃は「女の子の家に泊まるのは初めてなんだ。」とは言わずに「うん。」と頷いた。
どうやら彼も少しは成長しているようである。
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