第7話 完全防備な奴
晃の実家のマンションの下に見慣れない白のワゴン車が止まっている。その薄暗い車内を杏がいじるスマホの液晶の光が照らしていた。
「着いたよ。準備が出来たら降りてきて。」杏は晃にそうテキストしてスマホを閉じた。
彼女はバックミラーに映る自身を漠然と眺めながら、これまでの不可解な出来事を振り返る。
22回の交通事故、地面から生えてくる人々、そして晃との出会い。
そのどれもが取り留めもなく一見何の繋がりもない馬鹿げた出来事に思えたが、杏には直観でそれが一つの線となり、やがては結論へと繋がる一つの道筋となることがわかっていた。
杏はこの一連の出来事に戸惑いながらも高揚感を覚えていた。そこが彼女とただただ目の前の出来事に怯える晃との違いだ。
恐怖を乗り越えるには強い好奇心と自信が必要だ。
その点でいえば、嬉々とした顔で謎に迫りながらもバックミラーに映る自身の姿を見て、「物思いにふける私も可愛いな。」と思える杏はそれにぴったりな人物だった。
ミラーの中で杏はもう少し顎を引いた方が可愛いかなぁと思いそれを実行する。
完璧に可愛くなった自身の後ろに不審者がチラリと映り込んで杏はぎょっとする
杏がその男を一目で不審者をだと判断したのには理由がある。
晃のアパートの入り口から出てきたその男は頭に剣道の面、首には腰に巻くコルセット、そして肘と膝にそれぞれ子供用のスケーターの肘当てと膝当てを付けて迷わず杏の車の方へと歩いてくるのだ。
(ハロウィンの時だって誰もそんな格好をしない。)
杏はなるべく平静を装ってスマホを開く。
「変な人がいるから早く降りてきて。」杏は晃に素早くそうテキストしてミラー越しに不信者を観察する。
するとその不信者も立ち止まってスマホを取り出す、何度かキョロキョロと周りを見まわした後、今度は杏の車めがけて全力で走り出した。
「キャーーーー」ミラー越しでそれを見ていた杏が叫びながらハンドルに顔を伏せる。
「ドンドンドン」窓をたたく音がして杏は恐る恐る顔を上げて外を見る。
剣道の面が不思議そうに車内を覗き込む。
「何よ。一体何なのよ。」杏がほとんど泣き出しそうな声で叫ぶ。
すると不信者は何か思い出したような仕草をして面を外す。
見覚えのある顔だった。
「晃君!?」杏は急いで窓を開ける。
「やぁ遅くなって悪かったね。大丈夫だった?で不審者はどこ?」
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